一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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マツの受粉は他家受粉でしょうか

質問者:   教員   まつ
登録番号3480   登録日:2016-05-19
マツは雄花より高い位置に雌花があるがどんなメリットがあるのかという問題に対し、風媒花であるから雌花が高い位置にある方が受粉しやすいという答えを教えていましたが、自分自身あまり腑に落ちず、調べていくと雄花と雌花の開花時期も異なり、受粉のしやすさに影響しているようには思えなくなりました。これが、自家受粉でなく他家受粉であれば、雄花の後に雌花が離れた位置に開花する理由も説明がつくのではないかと思い、図鑑など当たってみましたが記述がありません。マツの受粉は他家受粉なのか、もし自家受粉であればなぜ高い位置に雌花は咲くのかご教授いただければと思います。よろしくお願いします。
まつ 様

本コーナーをご利用下さりありがとうございます。ご質問には森林総合研究所の二村博士が回答して下さいました。ご参考になさって下さい。

【二村博士からの回答】
結論から言うと、マツは基本的に他家受粉で、自家受粉で子孫を残す可能性は 極めて低いです。

マツは雄花と雌花が別々の位置にできる雌雄異花同株の植物で、周辺のマツか ら風で飛んできた花粉が雌花に受粉しますが、自分の花粉もある程度は受粉しているようです。しかし、自家受粉で受精すると、胚ができる早い段階でほとんど 死んでしまいます。マツの一種であるテーダマツ(Pinus taeda)では、自家受粉の割合は34%にのぼるのに種子として生き残るのは5%に過ぎないとのことで す。たとえ種子ができても、自家受精でできた種子の発芽率は低く、芽生えの成長も悪いことが多いそうです。自家受精に由来する芽生えの生存率は、他家受粉 と比較して10%以下と言われています。他家受粉では、生存にマイナスの影響を与える遺伝子があっても、片親に由来する健全な遺伝子があれば問題になりませんが、自家受粉では花粉親と種子親が同一なので深刻な影響を与える可能性が高くなります。自家受精の生存率が低いことは致死遺伝子の存在によって説明され ていますが、その実態は明らかになっていません。

様々な種類のマツの自然集団を調べたところ、他家受粉でできた個体の割合が 平均で9割以上とのことです。ある程度の遺伝的多様性があるマツの集団では、自家受粉から生まれた個体が生き残る確率は非常に低いといえるでしょう。

自家受粉にはメリットもデメリットもありますが(質問登録番号1885を参照)、自家受粉を避けるためのシステムを発達させた植物は数多くあります。マツの場合には自家受粉では子孫を残せない確率が高いので、自分の花粉を受粉することは結果的に投資したエネルギーの無駄になります。マツの雌花が高い位置に着くことは、他家受粉の確率を高め、自家受粉が起きる頻度を少しでも下げるために進化した仕組みの一つなのかもしれません。他家受粉を採用することで、マツは自然集団内の遺伝的多様性を維持してきたのでしょう。

 二村 典宏(森林総合研究所樹木分子遺伝研究領域樹木分子生物研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2016-05-30
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