質問者:
高校生
サンド
登録番号3482
登録日:2016-05-22
人間の興奮の伝導の授業を受けて、疑問に思ったため、質問させていただきます。興奮の伝導について
人間だと、神経により興奮は伝導すると思うのですが、神経のない植物だとどのように刺激を受けてそれを伝導させているのかなと疑問に思いました。
ご回答よろしくお願いいたします。
サンドさま
ご質問、ありがとうございます。植物の環境への応答(いいかえると環境感覚)の研究を進められている神戸大学の三村徹郎先生にご回答いただきました。
【三村先生からのご回答】
サンドさま、質問有り難うございました。植物も、人間とほとんど同じように、環境からの情報を刺激として受け取って、それを伝えることが出来ます。視覚としての光情報(画像として見えているとは思いませんが)、接触などの力情報、音としての振動情報、匂いあるいは栄養や毒性物質を知るための化学物質情報などを認識することが出来、そのための受容体分子も知られています。ただ、植物が動物と大きく異なる点は、動物はそれぞれの環境刺激に応じて特殊化した受容器官(眼、耳、鼻など)を持つのに対し、植物はそれぞれの細胞が多くの環境刺激を個々で受け取ることが出来る場合が多いということです。
従って、一つ一つの細胞が刺激を受け取って、それに反応することが出来るので、動物のような早い情報伝達を必要とすることは多くはありません。
しかし、そのような情報伝達機構がないかといったら、そのようなことはありません。動物のホルモンと同じように、体内を植物ホルモンという化学物質が維管束や細胞間を伝わって、様々な反応を起こすことは、良く知られています。
また、神経と全く同じ膜の興奮作用が知られていて、それが細胞間を伝搬して行く場合もあります。最も有名なものとしてオジギソウがあります。オジギソウに触れると、触れられたところの細胞が、活動電位を出し、その活動電位が維管束の周囲にある柔細胞を神経と同じように伝搬して、運動細胞まで伝わって葉が折りたたまれる運動が生じることは良く知られています。この活動電位は、人間の神経の場合と同じく、細胞膜にある電位感受性のイオンチャンネルの働きによることが判っています。但し、人間の場合はイオンチャンネルを通るのはナトリウムイオンですが、オジギソウの場合は塩化物イオンであるとされています。
ハエジゴクやムジナモのような食虫植物も、その早い運動を起こすために、接触刺激を受ける受容器細胞で活動電位が生じ、それが神経と同じように伝搬することが知られています。
このように植物でも活動電位(興奮)による環境刺激の早い伝搬は良く知られていて、最近では、オジギソウや食虫植物のような特殊な植物だけでなく、多くの一般的な植物でも同様の伝達機構があり、例えば虫に食べられた際の傷刺激などが、細胞膜の電気的変化を作り出して、他の組織に環境情報を伝えているということが報告されています。
このような刺激の伝搬に働く組織が良く判っている訳ではありませんが、伝搬に働くイオンチャンネルが、多くの細胞に存在することから、植物では一般的な柔細胞が全体として、刺激を受容した場所から刺激に応答する場所に電気刺激を伝えているのだろうと想定されています。
三村 徹郎(神戸大学大学院理学研究科)
ご質問、ありがとうございます。植物の環境への応答(いいかえると環境感覚)の研究を進められている神戸大学の三村徹郎先生にご回答いただきました。
【三村先生からのご回答】
サンドさま、質問有り難うございました。植物も、人間とほとんど同じように、環境からの情報を刺激として受け取って、それを伝えることが出来ます。視覚としての光情報(画像として見えているとは思いませんが)、接触などの力情報、音としての振動情報、匂いあるいは栄養や毒性物質を知るための化学物質情報などを認識することが出来、そのための受容体分子も知られています。ただ、植物が動物と大きく異なる点は、動物はそれぞれの環境刺激に応じて特殊化した受容器官(眼、耳、鼻など)を持つのに対し、植物はそれぞれの細胞が多くの環境刺激を個々で受け取ることが出来る場合が多いということです。
従って、一つ一つの細胞が刺激を受け取って、それに反応することが出来るので、動物のような早い情報伝達を必要とすることは多くはありません。
しかし、そのような情報伝達機構がないかといったら、そのようなことはありません。動物のホルモンと同じように、体内を植物ホルモンという化学物質が維管束や細胞間を伝わって、様々な反応を起こすことは、良く知られています。
また、神経と全く同じ膜の興奮作用が知られていて、それが細胞間を伝搬して行く場合もあります。最も有名なものとしてオジギソウがあります。オジギソウに触れると、触れられたところの細胞が、活動電位を出し、その活動電位が維管束の周囲にある柔細胞を神経と同じように伝搬して、運動細胞まで伝わって葉が折りたたまれる運動が生じることは良く知られています。この活動電位は、人間の神経の場合と同じく、細胞膜にある電位感受性のイオンチャンネルの働きによることが判っています。但し、人間の場合はイオンチャンネルを通るのはナトリウムイオンですが、オジギソウの場合は塩化物イオンであるとされています。
ハエジゴクやムジナモのような食虫植物も、その早い運動を起こすために、接触刺激を受ける受容器細胞で活動電位が生じ、それが神経と同じように伝搬することが知られています。
このように植物でも活動電位(興奮)による環境刺激の早い伝搬は良く知られていて、最近では、オジギソウや食虫植物のような特殊な植物だけでなく、多くの一般的な植物でも同様の伝達機構があり、例えば虫に食べられた際の傷刺激などが、細胞膜の電気的変化を作り出して、他の組織に環境情報を伝えているということが報告されています。
このような刺激の伝搬に働く組織が良く判っている訳ではありませんが、伝搬に働くイオンチャンネルが、多くの細胞に存在することから、植物では一般的な柔細胞が全体として、刺激を受容した場所から刺激に応答する場所に電気刺激を伝えているのだろうと想定されています。
三村 徹郎(神戸大学大学院理学研究科)
JSPP広報委員長
出村 拓
回答日:2016-05-24
出村 拓
回答日:2016-05-24