一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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マツの花には、花弁がありますか

質問者:   中学生   こうちゃん
登録番号3499   登録日:2016-06-03
学校のテストで、『マツの花の植物の特徴を書きなさい。』とあり、回答を『花弁がないこと』と書きましたら、不正解と言われました。正解は、『胚珠がむき出しになっている』でした。
学校の先生の説明では、マツの花に花弁がないわけではないとの説明でした。
教科書には、マツが裸子植物であり、裸子植物の特徴に花弁がないとの説明があります。また、マツの花には雄花・雌花のりん片があることも説明があります。

学校の先生が言うマツの花の花弁とは、どこにあるのでしょうか。
裸子植物には、全て花弁やがくがないと覚えるのは間違いでしょうか。
こうちゃんさんへ
ご質問有難うございます。
葉の形態形成の研究をご専門とされている東京大学の塚谷裕一先生に回答していただきました。

【塚谷先生からの回答】
こうちゃんさん
質問、ありがとうございます。『マツの花の植物の特徴を書きなさい。』という質問ですから、こうちゃんさんの答えでもぜんぜん間違いではありませんね。花弁はありませんからね。また『特徴を書きなさい』であって、「被子植物と違う点を書きなさい」ではないので、例えばもっと違う答え、「風に乗って散布される花粉を作る」でも間違いでは無いと思います。あるいは「鱗片で覆われる」でも良いと思います。あくまで特徴を問う質問ですから(ちなみに「マツ」という種類はないので、本当はカタカナ書きはあまり良くないので、「松」と書くか、「クロマツ」「アカマツ」など種名とすべきですが、とりあえずここでは「マツ」とします。)
 もし質問が、『裸子植物(マツ、イチョウ、ソテツ、グネツムなど)が被子植物(バラ、キク、モクレン、スイレンなど)と違う点はなんですか』でしたら、一番良い答えは『胚珠がむき出しになっている』こと、だろうと思います。でもそれでもなお、『花弁がないこと』という答えは間違いではありません。同じく『萼(がく)弁がないこと』でも同じくらい間違っていない答えになります。
 中学生の学習レベルを超えますが、今回の問い合わせ対象になっている質問自体が、そもそも不適切だと言う立場もあります。というのも、裸子植物の「花」は、花と呼ぶべきではないという意見の植物学者もいるからです。ですので、教科書や参考書を、気をつけて読み比べてもらうと、裸子植物については「花」と書かずに「生殖器官」などと書いてあるものが見つかるかと思います。また「花」の定義をいろいろな本で読み比べてもらうと、被子植物が持つ生殖器官として定義していて、裸子植物には花がまだ進化していないとするものもたくさん見つかると思います(特にアメリカの研究者)。なぜ裸子植物のそれが「花」でないと考えるかと言えば、裸子植物のそれも「花」とすると、こうちゃんさんが疑問に思っているとおり、花弁も萼片もなくても、また胚珠がむき出しであってもよいことになり、そうだとすればシダ植物であるスギナの胞子嚢(のう)群(ツクシ)も、胞子葉(雄しべや雌しべに相当します)が整然と並んで塊になっていることから、花とみてもおかしくないことになってしまうからです。もちろん、ツクシと裸子植物の間の違いとして、たとえばタネをそこにつけるかどうかなどで区別ができることから、裸子植物と被子植物と、両方とも花であるという見解の人もたくさんいます。 
 このように言葉の定義は立場によっても違ってきます。ですから、定義に関する話は、言葉を厳密に使う必要があります。
 その意味で、今回のことで言えば、質問文の言葉に曖昧な点があったことがそもそもの問題でした。
 ですが、こうちゃんさんとしても、「特徴を書きなさい」という質問に対して、花弁のことだけ書いたのは、ちょっと舌足らずだったのではないかと思います。私だったら、質問を額面どおりに取った場合、胚珠がむき出しであること、花弁も萼片もないこと、花粉が風に乗って散布されること、雌花と雄花が枝の別の位置につくことなど、いろいろ思いつく限りの特徴をすべて書き出すでしょう。それが満点だとすれば、花弁のことだけ書いたのでは部分点しかもらえませんね。あるいは、先生の本当に聞きたかったのは「マツの花の特徴」ではなくて、きっと「マツを含む裸子植物の生殖器官が、被子植物の花と違う最大の相違点は何か」なのだろう、と裏を察して、端的に「胚珠がむき出しであること」と答えるでしょう(センリョウなど、花弁をもたない被子植物もたくさんあるので、この場合、花弁がない、という答えは間違いになります)。
 ちなみに「胚珠がむき出し」という表現も、実はちょっとだけ問題があります。「むき出し」というのはどういうことか、実際の事例を見てみるとわかりますが、なかなか一言では言い表せません。マツの胚珠でさえ、実はむき出しで外気に触れているわけではありません。胚珠を持つ鱗片が、互いに密に重なっていて、胚珠はその間に挟まっているからです。ですから、より正確に裸子植物の特徴を言うと、胚珠が特別な器官で包まれていない、ということになるかと思います。マツの場合も、鱗片同士が密に重なってはいるものの、「包み込む」構造にはなっていないので。
 少し難しくなりましたが、科学の分野では、このように用語を厳密に使っているということをご紹介しました。

 塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博 
回答日:2017-01-29
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