一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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紫陽花の花びらの形について

質問者:   大学生   キュロス
登録番号3506   登録日:2016-06-15
去年の母の日、フラワーショップにて紫陽花の鉢植えを購入し送りました。
淡いピンク色で花びらの端がギザギザしており、印象はカーネーションのような紫陽花だと感じました。花のつき方としては、調べたところヨーロッパアジサイという品種に近いかな?と感じました。
母も気に入ってくれ庭に植え替えました。
今年もまたあの可愛いカーネーションのような紫陽花が開花するのを楽しみに待っていましたが、今年開花した紫陽花は少し紫がかった花びらの丸い紫陽花でした。所々去年と同じように縁がギザギザしている花びらも見られるのですがほとんどは丸くなめらかな縁をしていました。
色に関しては、植え替えによって土のphが変化したことで紫寄りの色に変わったと考えましたが、花びらの形が変化したことは、どう言った要因があるのでしょうか。
自力で調べようとするも品種すら分からず、この様な変化があり得る事なのか、またどう言った仕組みなのか教えていただけると嬉しいです。
キュロス様

質問ありがとうございます。花の色素アントシアニンなどの研究を専門としている名古屋大学の吉田久美先生に回答していただきました。

【吉田先生からのご回答】
質問の要約:色に関しては、植え替えによって土のphが変化したことで紫寄りの色に変わったと考えましたが、花びらの形が変化したことは、どう言った要因があるのでしょうか。
質問の内容は2つに分けられますので、それぞれについてお答えします。

質問内容1:花の色に関して
[色に関しては、植え替えによって土のpHが変化したことで紫寄りの色に変わったと考えました]
回答:
質問者の推察のように、アジサイの色は、土壌のpHに影響されることは、よく知られています。詳しく言えば、酸性土壌だとアルミニウムイオンが土から溶け出して吸収され、アントシアニンと錯体を形成し、青くなります。中性土壌ですと、アルミニウムイオンが溶け出さないので、赤くなります。色変化は、そのためと思われます。

質問内容2:花びらの形に関して
[花びらの形が変化したことは、どう言った要因があるのでしょうか。]
回答:
わたくしは形態学の専門家ではありませんが、次のように考えます。
アジサイは、装飾花で、世間で「花びら」と呼ばれている部分は、実際はガク片です。したがって、質問は、ガク片の端の部分の形の変化ということになります。ガク片は葉に近い組織で、葉の形は東京大学の塚谷先生が専門です。
塚谷先生の見解(登録番号3320)から類推して、考えてみましょう。

[登録番号3320の回答の一部の引用]
「鋸歯は植物ホルモンのオーキシンのはたらきで作られること、最初のうちはギザギザがはっきりしているものの、後の成長で次第に滑らかになったりさらに目立つようになったりすることが分かっています。そんなことから、私たちは、鋸歯の形の多様性というものは、それ自身の形の多様性が大事なのではないのかもしれない、と思っています。むしろ、鋸歯形成に関わるオーキシンなどのさまざまな因子が、植物の体の他の部分でどれだけ必要かに応じて、それに引きずられてついでに形が変わっているという面もあるのではないか、と感じています。
(中略)一般論として、生き物の体の形は、必ずしも必然性からそうなっているとは限らず、特に良くも悪くもないので取りあえずそういう形を取っている、という事例が多々あると考えられています。」

「質問者に対する回答の続き](吉田)
植物の葉の形は、ヤツデやもみじのように特徴あるきまった形をしているものから、そうでないものもあります(葉の形については、多くの人が興味を持っているようで、「みんなのひろば」で、「葉の形」で検索すると様々な質問が寄せられていることが分かります。興味があれば、それを読むと面白いと思います)。さて、塚谷先生の回答にもあるように、植物の葉の形態は、一部の植物では決まっていなくて、何らかの環境の違いや遺伝子の発現制御の違い、植物の生育段階の微妙な差等によって変わりうるものだと考えられます。形態の変化を引き起こすその微妙な差が、具体的に何であるかは、必ずしも明らかではありません。
アジサイの場合も、おそらくそのようなものだと思われます。

 吉田 久美(名古屋大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2016-08-11