一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物が1日に吸収する水分量について

質問者:   自営業   あいこ
登録番号3507   登録日:2016-06-16
花が好きで、たまに花器に花を生けたりします。
その時に思ったのですが植物は1日にどれくらいの水分を取り込んでいるのでしょうか?
空気中から、地面から、取り込み方はいろいろありますし花によっても変わると思いますが、よろしくお願いします
あいこ さん:

みんなの広場のご利用ありがとうございます。
一概に植物といっても樹木もあれば草本もあり、大きさ、形状、生理的性格の違うものが様々な環境で生育していますので、水の吸収、蒸散の様相も様々です。基本的には、根で吸収された水は上昇して葉にある気孔から蒸散する流れがあり、蒸散量は吸収量と深い関係にあります。ご質問は生植物態学がご専門の寺島一郎先生(東京大学大学院)にお願いしましたところ、たいへん詳しいお答えを頂きました。技術的なご説明もあって分かりにくい点もありましたので、ご質問に直接つながる点を抜粋しました。寺島先生の回答原文も続いて併記いたします。

【寺島先生のご回答の抜粋】

 植物は主として土壌の水分を吸収します。吸収には2つのモードがあります。昼間は、気孔からの蒸散によって葉の水分が奪われるので葉が乾燥します。乾燥した葉は道管内の水を吸収します。道管内の水は葉に引っ張られているため、圧力は負となります。根の道管内も負圧です。この負圧で水を吸収しています。もう一つは、特に夜間に重要なイオン濃度差による水分吸収です。植物は呼吸で得たエネルギーを使って、根の道管内部にイオンなどの「溶質」を送り込みます。道管内の溶質の濃度が高まり、浸透圧が上昇します。土壌の水は浸透圧の高い道管に吸収されます。こうして道管内の圧力が高まります。これが「根圧」です。ヘチマ水は、根圧によって溢泌される液です。その他に、植物体の表面についた雨滴や結露などの水も吸収されます。沙漠などの乾燥地では結露からの吸水は植物にとって量的に非常に重要です。

 植物の蒸散の原理は、洗濯物の乾燥を考えると理解しやすいでしょう。濡れた洗濯物表面の水蒸気濃度は乾燥した空気中の水蒸気濃度よりも高く、この水蒸気濃度の差が蒸発や蒸散の原動力です。葉の蒸散は気孔とよばれる穴を通して行われます。気孔がよく開いた時の穴の面積を合計すると、葉の表面積の1~2%程度になります。ちょっと不思議に思えますが、表面の98%以上が覆われていても、風が十分に強く境界層が薄い場合には、同じサイズの洗濯物とそれほど遜色がないほど蒸散するのです。重い洗濯物が、からからに乾くことを思うとその量はかなりのものでしょう。

 植物の蒸散量は、気孔の開き具合と気象条件によります。蒸散が盛んに行われるとき、森林全体では、雨量と同じ表し方をすると、1日あたり数mmの蒸散量となります。樹木1本あたりでは、木のサイズにもよりますが、数十から数百リットルの水を蒸散します。草本植物の蒸散量は樹木よりも多くなることがあり、草原や耕地の蒸散量は1日あたり、10 mmに達することもあります。これは1平方メートルあたり10リットルの水に相当します。草本植物が蒸散を盛んに行う場合には、その生重量と同じくらいの水を吸収し蒸散をするという見積もりになります

【寺島先生のご回答原文】

植物が1日に吸収する水分量について

 植物は主として土壌の水分を吸収します。吸収には2つのモードがあります。昼間は、気孔からの蒸散によって葉の水分が奪われるので、葉が乾燥します。乾燥した葉は、道管内の水を吸収します。道管内の水は葉に引っ張られているため、圧力は負となります。根の道管内も負圧です。水を吸収しています。もう一つは、特に夜間に重要なイオン濃度差による水分吸収です。植物は呼吸で得たエネルギーを使って、根の道管内部にイオンなどの「溶質」を送り込みます。道管内の溶質の濃度が高まり、浸透圧が上昇します。土壌の水は浸透圧の高い道管に吸収されます。こうして道管内の圧力が高まります。これが「根圧」です。ヘチマ水は、根圧によって溢泌される液です。

 植物科学では、水分の動きを考える場合に、水にかかる「圧力」と水の「濃度」を考えます。これらが高い方から低い方に水は動きます。上記の蒸散の例では、ほぼ大気圧にある土壌水が負圧下にある道管に流入するのです。浸透圧が高い場合には、溶質の濃度が高いわけですから、水の濃度としてはその溶質の分だけ低いことになります。よく湿った土壌水の水の濃度は高いので、水の濃度の勾配にしたがって、水は土壌から道管内に動くわけです。

 その他に、植物体の表面についた雨滴などの水も吸収されます。よく晴れた、風の弱い夜には放射冷却が起こり、葉の表面が周りの気温よりも下がり結露する場合があります。沙漠などの乾燥地では晴れた夜が多いので、結露からの吸水は植物にとって量的に非常に重要です。パイナップル科にはTillandsiaなどのエアープラントとよばれる一群があります。これらの葉の表面は盾状の毛で覆われています。毛と葉の表面の隙間に溶質濃度の高い(水の濃度の低い)液を分泌し、これで結露を促すのです。エアープラントは、空気の湿度が極端に低くない限り、空気中から十分な水分を吸収できます。これらの植物は、サボテンやパイナップルと同じように、夜間に気孔を開くCAMと呼ばれるタイプの光合成を行っています。

 土壌からの水分吸収量の測定は案外簡単にできます。ポット植えの植物の場合には、ポットの表面をビニルなどで覆って、鉢ごと重さを測ります。大型の作物や樹木の水分吸収量も、ライシメーター(lysimeter)と呼ばれる大掛かりなポットを用いて測定することがあります。樹木の幹や、草本植物の茎などを流れる水の量を測定するにはヒートパルス法を用います。茎の道管にあたる部分をめざして、パルス熱源を埋め込んだ針を刺し、一定距離をおいて小型温度計を埋め込んだ針を刺します。下の針を温めて、その熱が伝わってくる時間を測定することによって流速を求めます。より大きなレベルの森林や草原の上では、空気がひとかたまりのパケット(渦)となっていることを利用して蒸散量を測定します(渦相関法)。超音波のドップラー効果を三次元方向で測定できる三次元風速計と、水蒸気やCO2の濃度が測定できる赤外線ガス分析器を用います。パケットの水蒸気濃度とその動く方向を連続的に測定します。現在、世界中の500カ所以上の森林や草原で、渦相関法による測定が行われています。もっとも、渦相関法で求めたデータから、植物の蒸散と、地面からの、あるいは葉についた雨滴や露の蒸発を区別することは案外厄介な問題です。

 植物の蒸散の原理は、洗濯物の乾燥を考えると理解しやすいでしょう。濡れた洗濯物の表面ごく近傍の水蒸気濃度は洗濯物の表面温度における飽和水蒸気濃度に近いでしょう。乾燥した空気中の水蒸気濃度はそれよりも低く、この水蒸気濃度の差が蒸発や蒸散の原動力です。洗濯物表面近くには、空気が洗濯物表面との摩擦によってよどんでいて、これが乾燥を妨害します。この空気の層を境界層とよびます。境界層は、物体(洗濯物)の大きさが小さく、風が強いほど薄くなります。洗濯物が乾燥しやすいのは、気温が高く、空気が乾燥した、風の強い日です。小さなハンカチの方が、大きなバスタオルよりも早く乾燥します。日差しが強く、気温が高いと、洗濯物の表面の温度も高くなります。このため、飽和水蒸気濃度も高くなり、空気中の水蒸気濃度との差が大きくなります。風が強く、洗濯物のサイズが小さいと、境界層が薄くなり、蒸発が妨害されにくくなるのです。

 葉の表面はクチクラ層で覆われた表皮細胞があり、実際の蒸散は、気孔とよばれる穴を通して行われます。気孔がよく開いた時の穴の面積を合計すると、葉の表面積の1~2%程度になります。ちょっと不思議に思えますが、表面の98%以上が覆われていても、風が十分に強く境界層が薄い場合には、同じサイズの洗濯物とそれほど遜色がないほど蒸散するのです。重い洗濯物が、からからに乾くことを思うとその量はかなりのものでしょう。

 植物の蒸散量は、気孔の開き具合と気象条件によります。蒸散が盛んに行われるとき、森林全体では、雨量と同じ表し方をすると、1日あたり数mmの蒸散量となります。樹木1本あたりでは、木のサイズにもよりますが、数十から数百kgの水を蒸散します。草本植物の蒸散量は樹木よりも多くなることがあり、草原や耕地の蒸散量は1日あたり、10 mmに達することもあります。これらは森林や草原の例ですが、孤立個体では、群落状態よりも大きな値を示す傾向があります。群落内部では、高湿度化、風速の低下などによって蒸散が抑えられているためです。草本植物が蒸散を盛んに行う場合には、その生重量と同じくらいの水を吸収し蒸散をするという見積もりになります。

詳しいデータ、吸水の仕組み、葉の表面が98%以上覆われているにもかかわらず、大きな蒸散を示す理由などについては、植物生態学の教科書をごらんください。

W. Larcher著、佐伯敏郎・舘野正樹監訳 「植物生態生理学 第2版」シプリンガージャパン (2007)
寺島一郎 「植物の生態:生理機能を中心に 第2版」裳華房(2014)

 寺島 一郎(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2016-06-27
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