一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

エダマメとインゲンマメのさやの違い

質問者:   公務員   kuma
登録番号3524   登録日:2016-07-02
エダマメとインゲンマメのさやの違いについての質問です。
エダマメには細かい毛がたくさんついており、その理由については、調べたところ「虫が付きにくくするため」とわかりました。まず、この理由は正しいでしょうか。
もう一つ、上記の理由が正しければ、インゲンマメのさやに毛が付いていない理由がわかりません。
インゲンマメのさやは厚みがあり、虫に食われる心配がないから毛が付いていないと予想したのですが、実際のところどうでしょうか。疑問にお答えいただければうれしいです。
kuma 様

植物の形態形成を研究している大阪大学理学研究科の柿本辰男教授に答えていただきました。

【柿本先生の回答】
私は虫害の専門家ではないので、このご質問に関して経験が不足しています。日常に様々な品種の豆類を栽培されている栽培家の方がもっと情報を持っておられるかもしれません。その点はご了解いただいて、お答えします。
トリコームは、一般には虫害を防ぐ役割を持っているようです。虫は移動しにくくなりますし、特殊化したトリコームが粘液や虫の忌避物質を出している例もあります。ただ、植物が非常に大きなコストを使って強力なバリケードを作っても、それに対応できる虫が必ずいますので、植物の進化はコストと有効性の兼ね合いとなります。また、植物はトリコームだけではなく、様々な方法で食害を防いでいます。ご質問に含まれます大豆やインゲンは、消化液の阻害物質や、それ以外の様々な毒を持っています。品種にもよると思いますが、人が生でインゲンを食べると中毒を起こすといわれていますし、豆類の毒性成分は昆虫にも作用します。とはいっても、そんなことをものともしない昆虫もいます。そんなことをものともしない昆虫が最も繁栄するのかというとそういうわけではなく、それぞれの昆虫にそれぞれの生存戦略があるということです。
虫害といっても様々で、多くの蛾の幼虫のように主に葉をかじるものから、鞘の中に入り込んで食害するもの、カメムシやアブラムシ(アリマキ)のように植物の液を吸うものなどがあります。タイズを植えていると良くカメムシがやってきます。庭にダイズを少し植えるだけで洗濯物にもカメムシが付いてくるのを経験される方も多いと思います。カメムシは、ダイズやインゲンの鞘に細長い口器をさして食害します。カメムシは消化液を出して溶かしながら穴をあけます。乾燥大豆など非常に硬いものまで溶かして食べる能力があります。カメムシは、長いトリコームをもった枝豆でも、トリコームが少ないインゲンでも食べてしまうようです。
食害以外に、産卵についても考えてみましょう。一部の害虫は鞘の中に産卵します。東京大学の塚谷裕一先生に、次のように教えてもらいました。「例えばツバキの種子に産卵するシギゾウムシがいます。シギゾウムシは、まずは長い口を使って分厚い子房壁(種子を包む果皮)に種子の近くに届く穴をあけ、その穴に卵を産みます。その口器の長さは、地域ごとに違っていて、それはその地域のツバキの実の肉の厚さと相関しています。屋久島にあるいわゆるリンゴツバキは実が分厚くなっています。それに対抗する形で屋久島のゾウムシの口器は他の地域のものより長くなっています。」インゲンもそれなりに鞘は厚いですが、口を差し込んで食害する害虫はたくさんいます。たくさんいるとはいえ、厚い鞘に対応して進化した害虫が、いわゆる害虫としてはびこっているのだと思います。インゲンの鞘の中に産卵する害虫は知りませんが、ダイズでは、鞘の中に卵を産み付けるものとしてダイズサヤタマバエがいます。若い鞘に注入するようです。
さて、鞘の上の毛(トリコーム)が本当に食害を防いでいるのか、というご質問ですが、これを科学的に証明するのは困難、というのが私の答えになります。例えば、ジャガイモの様々な品種での食害と葉のトリコームの密度の関係を調べて、関連が認められたという論文がありました。しかし、この実験はトリコームの密度の差に着目し、いろいろな品種を比較して、一応このような傾向が認められるというものです。トリコーム密度だけが違う近縁のシャガイモの品種についての比較研究ではありません。品種によりそれ以外の形質も違うし、ジャガイモの害虫にも様々な種類がありますので、条件次第では別の結果になるかもしれません。さらに、別の植物ではどうか、となると厳密な証明は難しいと思われます。 
以上 

 柿本 辰男(大阪大学理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2017-02-17