一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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昼と夜の成長速度

質問者:   会社員   近藤
登録番号0360   登録日:2005-08-25
ツルバラのシュートの成長を子どもが研究したのですが、昼と夜で成長する長さが全く同じでした。
昼にしっかり光合成をして蓄えた養分を、夜に使って成長するのかと思っていました。
どう説明してよいか教えていただけないでしょうか。
子ども向けの説明と、少し専門よりの説明をいただけると助かります。

あと、成長していくのは全体的に比例的に伸びるのではなく、一番先の部分だけが伸びていっているようです。
このあたりも教えていただけると助かります。

植物一般のあたりまえの話かも知れませんが教えていただけると助かります。
近藤さま
 すでにご自分で観察されておられるので改めて申し上げるまでもありませんが、光合成は光のない夜間には行えませんが、茎の伸長は光のある昼間も、光のない夜間も行っています。たとえば若いヒマワリですが、その先端は朝は東、夕方は西と太陽を追って運動をしますが、夜間も活発に運動を続けています。この運動は生長運動と言って、茎の西側が伸びると東を向き、東側が伸びると西を向くと言うことで、ヒマワリが昼も夜も運動を続けていることは、昼も夜も伸長を続けていることを示しています。
 茎の伸長には勿論光合成産物が必要ですが、光合成量と茎の伸長の大きさとは直接関係していません。たとえば、ある植物を広い場所に、1本づつ離して植えた時と、狭い場所に密に植えた時を較べますと、離して植えられ葉に十分光が当たり光合成量が多い植物の茎の伸びは小さく、密に植えられたために、お互いに陰にしあって光を十分に受けられず光合成量の少ない植物の茎の伸長は大きいのです。広い場所に植えられた植物は茎を伸ばして葉を持ち上げる必要があまりないので、茎を長く伸ばすようなことはせず、それよりも丈夫な茎を作り、葉をしっかりと支えようとするのに対し、密に植えられた植物では、隣の植物の陰にならないように葉を光が当たる場所まで持ち上げなけらばならないので、茎の丈夫さを犠牲にしてでも、兎に角伸びようとするようです。
 茎の伸長を直接制御しているのは植物ホルモンで、オーキシン、ジベレリン、ブラシノステロイドなどの茎の伸長を促進するホルモンや、エチレンのような茎の伸長を抑制するホルモンが関係しています。ヒマワリの芽生えの場合ですと、葉から茎に送られるオーキシンが重要で、明るい所で育てた芽生えを暗い所に置くと、葉から茎へのオーキシンの供給が止まるので、茎は伸びなくなります。葉に光が当たるとオーキシンが茎に送られるようになり茎が伸びられるようになりますが、光が強すぎると、茎の伸びは悪くなります。この場合、オ-キシン以外の茎の伸びを押さえる物質が関係しているようです。一般的に、強い光のもとでは茎の伸長は悪く、弱い光のもとで伸長が良くなりますが、エンドウではこの現象にジベレリンが関係しているらしく、弱い光のもとにおかれると、ジベレリン量がふえることが報告されています。茎を丈夫なものにするか、丈夫でなくても取り敢えず伸ばすかにはブラシノステロイドも関係しているようですが、詳しいことは分っていません。植物により、また生育条件により、関係しているホルモンが異なりますので、一般的にこれが主役のホルモンであるとは言えない状況です。
 伸長する部分が限られていることに気付かれておられますが、これは一般的なことです。茎の役割は、葉を光の当たる所に持ち上げ、持ち上げた葉をしっかりと支えることですが、持ち上げるためには茎は変形し長くならなければなりません(伸びなければなりません)が、葉を支えるためには茎は変形しにくくなる必要があります。茎では先端で細胞分裂が起こり細胞が増えていますので、茎の先端近くの細胞は若い細胞で、先端から離れるほど年取った細胞ということになります。細胞が若いうちは茎は変形しやすく伸びられますが、細胞が年をとるにつれて細胞は変形しにくくなり、葉の支持に働くようになるのです。オーキシンは細胞を変形しやすくすることを通して、茎の伸長を促しており、ジベレリンは細胞が伸びられる期間を長くすることにより、茎の伸長に貢献しています。
JSPPサイエンス・アドバイザー
 柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03