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葉緑体の包膜の起源について

質問者:   教員   理科教員
登録番号3632   登録日:2016-11-11
ミトコンドリアや葉緑体の起源を説明する細胞内共生説の根拠として,高校生物ではよく「独自のDNAをもつ」「独自のリボソームをもつ」「内外異質の二重膜をもつ」「rRNAの塩基配列が原核生物のものに似ている」ことを教えています。受験参考書の類もそう書いてあります。

今回,質問させていただきたいのは「内外異質の二重膜」についてです。葉緑体の内外の包膜について,高校生物では外膜が宿主細胞由来で内膜が共生したシアノバクテリア由来だと教えます(自分が学生の頃もそう教わりました)。
しかし,最近の研究では内外どちらの包膜もシアノバクテリア由来であるという文言を目にしたため,果たして生徒たちにどう教えていいものか,と悩んでいます。

現在の最近の知見ではどのように考えられているのか,お答えしていただければ幸いです。
理科教員さま

「みんなの広場」へのご質問有り難うございました。年度替わりで用事が重なり、ご回答が遅れてしまったことをお詫びします。
 ご質問の「葉緑体の内外包膜」について、この分野がご専門の平川泰久先生(筑波大学)と鈴木雅大先生(神戸大学)、川井浩史先生(神戸大学)からご回答を頂きましたので、それをまとめてお答えさせて頂きます。

 ご質問にある植物の葉緑体の二重包膜は、現在はいずれも共生したシアノバクテリアの二重膜を起源とすると考えられています。真核生物がシアノバクテリアを細胞内共生で取り込んだ際、取り込まれたシアノバクテリアは宿主の食包膜に囲まれていたと想定されますが、共生の初期段階でこの食包膜は消失したと考えられています。
 最近の研究から、葉緑体外包膜とシアノバクテリアの外膜は、いくつかの点で共通していることが判ってきました。例えば、外膜を構成するガラクト脂質や葉緑体へのタンパク質輸送に働く外包膜の輸送体(TOC複合体の一つであるTOC75 βバレルタンパク質)がどちらの膜にも共通して存在します。最近の分子系統解析から単系統であるということが示唆されている灰色植物の葉緑体も2重膜であること(これはその2枚の間にペプチドグリカンを持っていますのでシアノバクテリアの膜構造と基本的に一致します)も外膜がシアノバクテリア由来であることを示唆します。
 また、膜の成分や遺伝子解析から真核生物の膜に特徴的な成分・機能などが、葉緑体外包膜にあまり見つからないことや、細胞内共生の初めのステップの葉緑体の取り込みには必ずしも食胞が関与する必要は無いこと(細胞質だけ取り込むような摂食様式もあります)も、外包膜がシアノバクテリア由来と考えても良いことを示唆します。
 二次共生で成立し高校教科書にものっている、ミドリムシやワカメ、コンブなども葉緑体をもっていることはご存知の通りですが、これらの生物の葉緑体は3枚から4枚の包膜をもち、この場合は最外膜は宿主の食包膜に由来する可能性が考えられます。その理由として、葉緑体へのタンパク質輸送に分泌経路(細胞外にタンパク質を輸送する経路)を利用している点があげられます。つまり、これらの葉緑体は細胞内に存在しますが、食包膜由来の膜に囲まれており、細胞外にあると認識されていると考えられます。食包膜を失った陸上植物の葉緑体では、タンパク質輸送に分泌経路を用いていません。
 このような事実から、現在では陸上植物の葉緑体外包膜は、シアノバクテリアの外膜を起源とする説が支持されているといって良いでしょう。

 尚、「果たして生徒たちにどう教えていいものか,と悩んでいます。」とのことですが、この「葉緑体外包膜は、シアノバクテリアの外膜を起源とする説」が、大学における生物課程教員の共通知識として一般化しているとは、まだ言える状況ではありません。その意味で、高校生にとっては恐らくとても重要な大学入試に関連問題が出題された場合、この説を元に解答すると、専門が離れた出題者に間違いとされる可能性が残っていることは、ご考慮頂きたいと思います。
神戸大学大学院理学研究科
 三村 徹郎
回答日:2017-04-17
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