質問者:
教員
ミトコン
登録番号3646
登録日:2016-11-28
高校生物で扱う光-光合成曲線の図には,光合成速度=見かけの光合成速度+呼吸速度という関係がでてきます。最近の教科書では「呼吸速度は光の強さが増加すると減少することが知られているが,呼吸速度は一定であるものとして示している」という記述が多く見られるようになりました。みんなのひろば
光の強さと呼吸の関係
(1)登録番号2604「昼間呼吸することを証明する実験」で(暗)呼吸と光呼吸を区別する複雑さを知りましたが,その後これらの解明が進み,光によって(暗)呼吸が減少することが無視できないレベルになったのでしょうか。(2)また,なぜ(暗)呼吸は光が強くなると減少するのでしょうか。よろしくお願いします。
ミトコン 様
本コーナーをご利用くださりありがとうございます。
この質問には光合成生物の呼吸に関する研究にとり組まれている野口 航先生(東京薬科大学)が回答してくださいました。ご参考にしてくさい。
【野口先生からの回答】
呼吸系ではCO 2 は主にTCA回路から放出され、O 2は呼吸鎖電子伝達系で消費されます。
TCA回路からのCO 2発生速度、呼吸鎖でのO 2消費速度はどちらも呼吸速度と呼びますが、通常、光合成速度や呼吸速度はCO 2の交換速度で表す場合が多いので、ご質問の呼吸速度は「CO 2発生速度」として解釈させていただきます。
(1)への回答
「呼吸速度は光の強さが増加すると減少することが知られている」ということは、論文(Brooks & Farquhar 1985)に基づいていると思います。この論文では、光を葉に当てながら、葉のまわりのCO 2濃度を下げて、光合成によるCO 2吸収と光呼吸によるCO 2放出が等しい状態にしておいて、そのときのCO 2発生速度を、光照射下の葉の呼吸系からのCO 2発生速度とみなした実験です。葉のまわりのCO 2濃度を変えないで、当てる光を変えてみると、葉からCO 2発生速度が低下したという現象が見られたので、「呼吸速度は光の強さが増加すると減少することが知られている」と結論されています。
登録番号2604「昼間呼吸することを証明する実験」で書かれていますように安定同位体を用いた方法や、ラベルした呼吸基質を外から与える方法から、光照射下での葉の呼吸系からのCO 2発生速度を評価することが行われています。しかし、葉の中で呼吸系から放出されたCO 2がすぐに葉緑体の光合成系で取り込まれるCO 2の流れは起きており、その流れはこれらの実験では測定できません。したがって、「光照射下での葉の呼吸系からのCO 2発生速度」は現在でも正確に測定することはできません。
おそらく、「呼吸系からのCO 2発生速度は光の強さが増加すると減少するだろう」というのが今のところの正しい解釈です。「その後これらの解明が進み,光によって(暗)呼吸が減少することが無視できないレベルになったのでしょうか。」と問われていますが、それほど解明は進んでおらず、解明が進んだことが教科書の記述が変化した理由であるとは言えないと思います。
(2)への回答
また、「なぜ(暗)呼吸は光が強くなると減少するのでしょうか」については、光が当たっている葉では、CO 2発生に関与するTCA回路の酵素やピルビン酸脱水素複合体の活性が低下するためだと考えられています。
何かご不明な点がありましたら、改めてご質問をお寄せください。
野口 航(東京薬科大学・生命科学)
本コーナーをご利用くださりありがとうございます。
この質問には光合成生物の呼吸に関する研究にとり組まれている野口 航先生(東京薬科大学)が回答してくださいました。ご参考にしてくさい。
【野口先生からの回答】
呼吸系ではCO 2 は主にTCA回路から放出され、O 2は呼吸鎖電子伝達系で消費されます。
TCA回路からのCO 2発生速度、呼吸鎖でのO 2消費速度はどちらも呼吸速度と呼びますが、通常、光合成速度や呼吸速度はCO 2の交換速度で表す場合が多いので、ご質問の呼吸速度は「CO 2発生速度」として解釈させていただきます。
(1)への回答
「呼吸速度は光の強さが増加すると減少することが知られている」ということは、論文(Brooks & Farquhar 1985)に基づいていると思います。この論文では、光を葉に当てながら、葉のまわりのCO 2濃度を下げて、光合成によるCO 2吸収と光呼吸によるCO 2放出が等しい状態にしておいて、そのときのCO 2発生速度を、光照射下の葉の呼吸系からのCO 2発生速度とみなした実験です。葉のまわりのCO 2濃度を変えないで、当てる光を変えてみると、葉からCO 2発生速度が低下したという現象が見られたので、「呼吸速度は光の強さが増加すると減少することが知られている」と結論されています。
登録番号2604「昼間呼吸することを証明する実験」で書かれていますように安定同位体を用いた方法や、ラベルした呼吸基質を外から与える方法から、光照射下での葉の呼吸系からのCO 2発生速度を評価することが行われています。しかし、葉の中で呼吸系から放出されたCO 2がすぐに葉緑体の光合成系で取り込まれるCO 2の流れは起きており、その流れはこれらの実験では測定できません。したがって、「光照射下での葉の呼吸系からのCO 2発生速度」は現在でも正確に測定することはできません。
おそらく、「呼吸系からのCO 2発生速度は光の強さが増加すると減少するだろう」というのが今のところの正しい解釈です。「その後これらの解明が進み,光によって(暗)呼吸が減少することが無視できないレベルになったのでしょうか。」と問われていますが、それほど解明は進んでおらず、解明が進んだことが教科書の記述が変化した理由であるとは言えないと思います。
(2)への回答
また、「なぜ(暗)呼吸は光が強くなると減少するのでしょうか」については、光が当たっている葉では、CO 2発生に関与するTCA回路の酵素やピルビン酸脱水素複合体の活性が低下するためだと考えられています。
何かご不明な点がありましたら、改めてご質問をお寄せください。
野口 航(東京薬科大学・生命科学)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-02-10
佐藤 公行
回答日:2017-02-10