質問者:
中学生
修行僧一休
登録番号3651
登録日:2016-12-05
理科の自由研究で、タマネギの鱗片表皮細胞を使って、まずはショ糖を用いて原形質分離を確認しました。次に電離度1のNaCl(食塩)を用いて、選択的透過性について実験しました。細胞膜だけではイオン性の物質などははかなり透過しにくいので、膜タンパク、チャネルタンパク等が透過に関与していますが、ここで疑問が生じました。みんなのひろば
選択的透過性について
そもそもタマネギの鱗片表皮細胞は、どういった膜タンパク質、チャネルタンパクをもっているのしょうか?
修行僧一休 様
ご質問をありがとうございました。
生体膜やイオン代謝にお詳しい三村徹郎先生に回答をお願い致しました。
【三村先生からの回答】
修行僧一休さん、質問を有り難うございました。原形質分離の実験から、植物細胞の膜輸送の仕組みまで想像するのは、大学入試にも出て来そうなレベルの課題で、まだ良く判っていないことがたくさんあります。
タマネギの鱗片葉の表皮細胞という限定した実験材料の細胞膜にどのような膜(輸送)タンパク質やチャネルタンパク質が存在するかについては、調べてみた限りでは、残念ながらほとんど研究はないようです。
ただ、タマネギの鱗片葉の表皮細胞も、他の良く調べられている植物細胞と同じような膜タンパク質を持っていることは間違いないでしょう。それらの中で原形質分離に関係しそうなものについて考えてみると、
1.水分子の輸送に働くアクアポリン(水チャンネル)、
2.イオンや糖などが輸送される時のエネルギーを供給するH+輸送性ATPase、
3.K+やCl-を透過させるイオンチャンネル、
4.Na+やCa2+を細胞外に運び出す輸送タンパク質、
5.糖やアミノ酸などを細胞内に取り込む輸送タンパク質
などは、多くの細胞に普遍的に見られる膜タンパク質と言って良いと思います。このうち、物質の輸送速度が圧倒的に高いのはアクアポリンなので、通常、ショ糖やNaClなど輸送速度が遅い物質で外液の浸透圧を上げると、細胞膜は見かけ上の半透膜として働き、水のみがすぐに移動して原形質分離が起こります。
ショ糖は細胞内に序々に取り込まれて行きますが、細胞内に取り込まれるとすぐに代謝されていくため、細胞質の浸透圧が、取り込まれた量に比例して上昇する訳ではありません。
一方、NaClを使って原形質分離をさせると、やはりイオンが少しずつ細胞内に取り込まれ、この場合は取り込まれたイオンの量に応じて細胞内の浸透圧が上昇することが想定されます。但し、高濃度のNa+やCl-は、植物細胞に毒性を持ちますから、長時間そのような溶液に細胞を浸けておくと、浸透圧が上昇する前に細胞が死んでしまう可能性もあります。昔は、KNO3などを使って原形質分離をさせると、イオンが細胞内に入って浸透圧を上昇させるために、長時間その溶液に置いておくと原形質分離が回復するという実験などがされていました。これは、K+やNO3-の方が植物細胞への毒性が低いからと言えるでしょう。
この他にも植物細胞の細胞膜には、多種多様な膜タンパク質が存在することが想定されています。ちなみに、遺伝子の種類から膜タンパク質を調べた研究では、植物細胞は1,000種類近い膜タンパク質を持っていることが想定されています。タマネギの鱗片葉の表皮細胞の細胞膜に、どのくらいの膜タンパク質が存在するかは判りませんが、そこで働いている何十、何百の膜タンパク質がどのような働きをしているかは、今後の研究で明らかにされていくと思います。
三村 徹郎(神戸大学大学院理学研究科)
ご質問をありがとうございました。
生体膜やイオン代謝にお詳しい三村徹郎先生に回答をお願い致しました。
【三村先生からの回答】
修行僧一休さん、質問を有り難うございました。原形質分離の実験から、植物細胞の膜輸送の仕組みまで想像するのは、大学入試にも出て来そうなレベルの課題で、まだ良く判っていないことがたくさんあります。
タマネギの鱗片葉の表皮細胞という限定した実験材料の細胞膜にどのような膜(輸送)タンパク質やチャネルタンパク質が存在するかについては、調べてみた限りでは、残念ながらほとんど研究はないようです。
ただ、タマネギの鱗片葉の表皮細胞も、他の良く調べられている植物細胞と同じような膜タンパク質を持っていることは間違いないでしょう。それらの中で原形質分離に関係しそうなものについて考えてみると、
1.水分子の輸送に働くアクアポリン(水チャンネル)、
2.イオンや糖などが輸送される時のエネルギーを供給するH+輸送性ATPase、
3.K+やCl-を透過させるイオンチャンネル、
4.Na+やCa2+を細胞外に運び出す輸送タンパク質、
5.糖やアミノ酸などを細胞内に取り込む輸送タンパク質
などは、多くの細胞に普遍的に見られる膜タンパク質と言って良いと思います。このうち、物質の輸送速度が圧倒的に高いのはアクアポリンなので、通常、ショ糖やNaClなど輸送速度が遅い物質で外液の浸透圧を上げると、細胞膜は見かけ上の半透膜として働き、水のみがすぐに移動して原形質分離が起こります。
ショ糖は細胞内に序々に取り込まれて行きますが、細胞内に取り込まれるとすぐに代謝されていくため、細胞質の浸透圧が、取り込まれた量に比例して上昇する訳ではありません。
一方、NaClを使って原形質分離をさせると、やはりイオンが少しずつ細胞内に取り込まれ、この場合は取り込まれたイオンの量に応じて細胞内の浸透圧が上昇することが想定されます。但し、高濃度のNa+やCl-は、植物細胞に毒性を持ちますから、長時間そのような溶液に細胞を浸けておくと、浸透圧が上昇する前に細胞が死んでしまう可能性もあります。昔は、KNO3などを使って原形質分離をさせると、イオンが細胞内に入って浸透圧を上昇させるために、長時間その溶液に置いておくと原形質分離が回復するという実験などがされていました。これは、K+やNO3-の方が植物細胞への毒性が低いからと言えるでしょう。
この他にも植物細胞の細胞膜には、多種多様な膜タンパク質が存在することが想定されています。ちなみに、遺伝子の種類から膜タンパク質を調べた研究では、植物細胞は1,000種類近い膜タンパク質を持っていることが想定されています。タマネギの鱗片葉の表皮細胞の細胞膜に、どのくらいの膜タンパク質が存在するかは判りませんが、そこで働いている何十、何百の膜タンパク質がどのような働きをしているかは、今後の研究で明らかにされていくと思います。
三村 徹郎(神戸大学大学院理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2017-02-20
庄野 邦彦
回答日:2017-02-20