一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の接触実験について

質問者:   高校生   植物太郎
登録番号3674   登録日:2017-01-26

前回、質問No.3672で質問した植物太郎です。
実験について説明します。まず、道具として、こまごめピペット、育てるためのカップ(透明)、コットン、ブロッコリースプラウトの種、ピンセット、霧吹き、温度計、湿度計、記録用カメラ、ダンボールを用意します。
次に、実験準備についてです。まず、カップにピペットで5mlの水をいれます。そして、カップの形に合わせて切ったコットンをカップにいれ、先ほど入れた水に浸します。次に、種を10粒ずつ、ピンセットでカップにいれます。そこに、霧吹きで15プッシュ水をかけ、段ボールで蓋をし、日光が当たらないようにします。最初に5ml水を入れるのは、乾いた状態で種をいれると種が動きやすくなるので、種の位置を一定にできないからです。
実験期間中は、毎日15プッシュ、霧吹きで水を与え、温度湿度を記録し、毎日の成長を写真にとりました。また水やりは、毎日、朝8:00に行いました。
私たちは、接触による植物の成長の差を調べようとし、表をタップするもの、裏をタップするもの、表をなでるもの、裏をなでるもの、なにもしないもの、の5種類を用意しました。1種類、2カップずつ育て、2週間後収穫しました。また、すべてのカップで子葉が確認できた、実験3日目から接触実験を始め、種子に触れることはしていません。子葉1枚1枚をなでたり、タップしたりしました。
また、私達は成長の基準として、植物の長さを選びました。
結果、裏をなでたものが平均9.45cm(+0.66cm)で1番成長し、裏をタップしたものが平均9.37cm(+0.58cm)で2位、表をなでたものが平均9.06cm(+0.27cm)で3位、なにもしないものが8.79cm(±0)で4位、表をタップしたものが8.66cm(-014cm)で5位となりました。()の数字は、なにもしないものとの差を表したものです。
わかりにくい説明ですみません。よろしくお願いします。
植物太郎さま

実験の方法を詳しく記載していただき、だいたいわかりました。しかし、まだ不明瞭なところがありますので、まず思いつくままにそのことを列挙します。

1 使用した種子は各カップごとに10粒ということですが、種子はあらかじめサイズや重さなどで均一なものを選別しありますか。ブロッコリーの種子は小さいので任意の種子を使ったのでは、種子の個体差を見逃してしまいかねません。種子が均一でないと、発芽時間や成長の速度、胚軸の太さ、子葉のサイズなどで必ず差が出てきます。何かの影響を見る実験の場合は、できるだけ均一な材料を使うことが望ましいです。
  ブロッコリーの種子は市販の種子を使ったと思いますが、スーパーで売っているサラダ用に育てたスプラウト買ってきて調べてみましたが、かなりのバラツキがありますね。
2 実験の終わりに測定した胚軸(茎)の長さのバラツキはどれくらいありましたか。対照(何もしなかったグループ)のバラツキはどの程度でしたか。結果の数値(平均値)でもって対照区との差を比較する場合は、各々の区のバラツキが少ないほど、差の数値の有意性は高まります。できたら、統計処理をしてみてください。簡単にするなら標準誤差を出してみることです。さらに、t-検定などをすればもっといいでしょう。
3 実験は一人ではなく数人で分担してやったように読み取れますが、もし、各処理区を別々の人が担当していたとすると接触刺激を与える程度には個人差があることにりますね。つまり与えた刺激量は均一だったのでしょうか。
  記載された実験結果の数値を見る限り、それほど顕著な差はないように見えます。もし数値(平均値)の誤差が大きいと差があるとは言い難いかもしれませんね。
4 実際にブロッコリーの芽生えを手にとって子葉を叩いたり、さすったりしてみましたが、とても繊細なので、子葉の表面だけとか裏面だけとかを他のところには一切触れずに操作することは不可能でした。
  しかも実験ではカップの中で育てているのですから、どうやって胚軸や、他の個体に触れないで操作できたのか気になります。
5 水やりの事ですが、どうして霧吹きでやったのでしょうか。まず発芽の時ですが、多分普通は種子を吸水させ、湿ったろ紙の上などで発芽させてから、発芽した幼根が長さや太さの揃ったものを選び、培養器の中に敷いた水分を含んだ綿やペーパータオルなどに移し替えます。この段階で、均一な苗が得られる可能性が高くなります。給水はピペットで一定量づつ容器の中に入れればいいでしょう。噴霧をするのは湿度を保つのには、それでいいかもしれませんが、今回の実験では望ましくないと思います。接触刺激や振動刺激などを与えるとほとんどの場合エチレンが発生します。霧吹きでの給水は単に水分補給だけでなく、軽いけれどもそのような物理駅刺激を与えていることになります。
6 透明な容器を使って光が当たらないようにとダンボールで蓋をしたということですが、これは容器をすっぽり箱で覆ったということですね。でも刺激を与える時や水やりの時は光のもとに置くわけです。しかも接触刺激与える操作はかなり時間を要すると思いますが。なぜ一定の光がある条件で育てなかったのですか。実験ではできるだけ不確定な要素が入らないようしないと、結果の解釈が絞り込めません。

以上問題と思われる気付いた点だけを指摘しましたが、もし仮に上記のようなことには問題がなく、得られた数値も信頼性がありるとした場合、次のようなことが考えられます。

1 子葉に拙速刺激を与えた方が胚軸の伸長が良い。
2 刺激は子葉の裏面に与える方が伸長促進効果が大きい。
3 刺激により何かを促進する因子が増えた、あるいは合成された可能性がある。
4 茎の伸長促進をおこなっているのはオーキシン、ジベレリン、ブラシノステロイなどの植物ホルモンであるが、接触刺激によりこれらの内生ホルモンのレベルが増加したとはlこれまでの一般的な知見から考えにくいが、実際に調べてみないとわからない。
5 前の回答にも書きましたが、接触刺激は普通はエチレンを誘導します。したがって、ほとんどの場合茎の伸長は抑制されます。その代わり茎は太くまります。マメもやしなどはそれを利用して栽培しています。
  しかし、エチレンが例外的に茎の伸長を促進する場合もあります。よく知られている例は南方系のイネで、水没すると節間ががどんどん伸びていきます。これは水面に葉が出るように背伸びをするようなものです。この場合、水に浸かることによってエチレンが誘導され、それが刺激となって身長促進が起こります。しかし、エチレン事態に促進効果があるのではなく、エチレンがジベレリンの合成を促進することにより起こります。もう一例はアラビドプシス(シロヌナズナ)の胚軸です。この場合は光の条件下でエチレンが伸長を促進します。ただし、ジベレリンを介してではありません。
6 もしブロッコリー・スプラウトで本当にエチレンが胚軸の伸長を促進するとすれば、興味ある一例となります。この仮説を試すためには、実際にエチレンを与える実験をやってみる必要があります。エチレンを発生する農薬や試薬がありますので、そういうものを利用しても良いでしょう。さらに、実際に接触操作によりエチレンが出てきているかどうかを確かめないと、確実にはなりません。また、エチレンがどのようにして伸長を促進しているのかはさらに面倒な実験を組まないといけないでしょう。
7 子葉の裏面の刺激がより有効であることが確かなれば、それは気孔の存在と関係があるかもしれません。それを試す実験も必要です。ブロッコリーの子葉の気孔のことは調べていないのでわかりませんが。

思いつくことを書き連ねましたが、子葉の表面か裏面かと言うより先に、本当に接触刺激が胚軸の伸長を促進するかどうかを明確な形で示せるよう実験を組み直し、繰り返してください。もしそれが確かなら、子葉の裏表、胚軸など刺激のより有効な場所を調べてみてはどうでしょうか。私はこの種の実験材料としてブロッコリー・スプラウトが適しているようには思えません。もっと大きな子葉の植物、例えば、ウリ科のキュウリなどの方が操作が便利だと思います。もちろん、あなた方が観察している現象はたまたまブロッコリー・スプラウト特有のことかもしれませんが。
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2017-01-29
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