質問者:
高校生
RdRp
登録番号3695
登録日:2017-02-25
こんにちは。初めて質問させていただきます。独学で植物生理学を勉強しているものです。みんなのひろば
カルビン回路明暗切り替え実験の解釈について
高校の教科書には、カルビン・ベンソン回路上に位置する物質の濃度が明暗切り替え(CO2濃度は適正値:光照射状態から暗黒への切り替え:材料は藻類)によってどう変化するかという実験があるのですが、結果の解釈が上手く出来ず悩んでおります。
明暗切り替えの結果とし、RuBP(リブロースビスリン酸)の濃度が減少して検出不可能になり、3PG(3-ホスホグリセリン酸)の濃度が一時的に増加し、やがて減少して一定の値(照射条件下の場合より高濃度)に至るという形のグラフです。
教科書や授業における一般的な説明では、暗黒下では光リン酸化反応によるATPの合成が停止するため、生成にATPを必要とするRuBPの濃度は減少し、消費にATPとNADPHを必要とする3PGの濃度は増加するということになっております。しかし、暗黒下でも解糖・呼吸によるATP合成は行われている筈であり(むしろ、フェレドキシン/チオレドキシン(Fd-Trx)系によるPFK阻害が消失し、ATP生産能は向上する筈?)、説明になっていないと思われます。
この場合、カルビン・ベンソン回路の照射光レベルの低下に応じた酵素活性制御について、Fd-Trx系,ストロマのpHやg2+濃度,光化学系の反応停止に伴う局所的なO2濃度の低下による光呼吸の抑制があると考え(CCM制御は遅いものと考えました)、この考えに基づいて以下のように解釈を試みてみました。
(現象1)RuBPの濃度が減少し、検出不可能になる:
光呼吸が抑制されることによってRubiscoカルボキシラーゼ活性が上がり、RuBPの消費が勝るために減少、後にFd-Trx系によりホスホリブロキナーゼが不活性化してRuBPの供給が停止し、Rubiscoに結合したものがFd-Trx系による不活性化のためRubiscoアクチベースにより解離させられなくなり消失する。
(現象2)3PGの濃度が一時的に増加する:
光呼吸の抑制によってRubiscoカルボキシラーゼ活性が上がって3PGの生産が増加し、続いてFd-Trx系によりGAPデヒドロゲナーゼが不活性化してGAPデヒドロゲナーゼの発エルゴン性との共役が崩れ、ホスホグリセリン酸キナーゼの解糖と同方向の反応が優位になり、3PGが蓄積する。
(現象3)その後3PGの濃度が減少し、やがて一定濃度になる:
3PGの蓄積により、2PG生成側に反応が進むようになり、3PGの濃度は減少し、暗黒下でFd-Trx系によって解糖が促進されたことで照射下より高濃度で一定値になる。
しかし、問題は前述三点のメカニズムが消光後どれぐらいのタイムスケールで働くのかということで、推測として光呼吸の抑制・Fd-Trx系の作動・pHの変化・Mg2+濃度の変化の順としているのですが、あまり正しい解釈になっている気がしません。また自分が知らない制御機構があったり、各代謝経路の需要関係や制御具合の理解が足りないという点も多くあると思われます。
ご回答よろしくお願いいたします。
(参考書)
ヴォート生化学(第5版)pp.723-724
テイツザイガー植物生理学(第3版) pp.147-149
RdRp さん
ご質問をありがとうございます。
問題のグラフは、提唱されるカルビン・ベンソン回路の一段階、酵素Rubiscoの働きでRuBPが2分子の3PGに変換される反応に着目し、明条件から暗条件に切り替えた直後の過度現象としての、基質(RuBP)と産物(3PG)の含量の時間変化を測定したものですね。
このグラフは、提唱される回路モデルに従うと、「光の供給を停止することにより、基質が減少して、産物が増加している」ことを示しています。こう考えると、定量的に、基質の減少速度・減少量が産物の増加速度・増加量に一致していることが期待されますが、実際のグラフではどうなっているでしょうか。
ところで、回路は基本的にはスムーズに回転しているものと考えると、光の供給停止で光化学反応が停止することによって問題の基質の量が減少に転じている事実は、回路上で基質を生産する道筋(間近な前段階の反応?)が光依存的であることを暗示し、また、この条件で産物の量が増大することは、産物を消費する道筋(間近な後段階の反応?)が光依存性であることを暗示しており、これらの事は提唱される回路モデルで都合よく説明されます。グラフの説明(結果の解釈)は、大筋としては、これで良いのではないでしょうか(現象1と2は、カルビン・ベンソン回路の主成分の直接的な反応の結果として理解できる)。
もう一つの問題は、産物の量がいったん増加した後で(遅い速度で)減少に転じたことと、長い時間が経過しても光照射下よりも高いレベルで留まった事実ですね。遅い速度での産物の減少を説明するには、3PGの解糖系での利用が考えられ、光照射下よりも高いレベルで留まったことには更に過程を考慮する必要があるようです。
質問文では、暗黒下でも機能する解糖・呼吸系からのカルビン・ベンソン回路へのATPの供給、光化学系の反応停止に伴うO2濃度の低下による光呼吸の抑制、Fd-Trx系の作動等による諸々の酵素活性の制御の可能性が非常に良く考察されていると思います。グラフは回路の主成分の直接的な反応の結果として大まかには説明出来るとは言え、現実にはいろいろな代謝系・制御系が多重に関係しているのが実態だと思います。その全貌を理解するには、断片的・定性的な事実に基づく考察では不十分で、定量的で実験材料に個別的な解析が求められると思います。そんな訳で、ご質問の主要な部分についてはお答え出来ていませんが、取り急ぎ回答とさせていただきます。
独学で植物生理学をご勉強中とのこと、またこのコーナーをご利用ください。
ご質問をありがとうございます。
問題のグラフは、提唱されるカルビン・ベンソン回路の一段階、酵素Rubiscoの働きでRuBPが2分子の3PGに変換される反応に着目し、明条件から暗条件に切り替えた直後の過度現象としての、基質(RuBP)と産物(3PG)の含量の時間変化を測定したものですね。
このグラフは、提唱される回路モデルに従うと、「光の供給を停止することにより、基質が減少して、産物が増加している」ことを示しています。こう考えると、定量的に、基質の減少速度・減少量が産物の増加速度・増加量に一致していることが期待されますが、実際のグラフではどうなっているでしょうか。
ところで、回路は基本的にはスムーズに回転しているものと考えると、光の供給停止で光化学反応が停止することによって問題の基質の量が減少に転じている事実は、回路上で基質を生産する道筋(間近な前段階の反応?)が光依存的であることを暗示し、また、この条件で産物の量が増大することは、産物を消費する道筋(間近な後段階の反応?)が光依存性であることを暗示しており、これらの事は提唱される回路モデルで都合よく説明されます。グラフの説明(結果の解釈)は、大筋としては、これで良いのではないでしょうか(現象1と2は、カルビン・ベンソン回路の主成分の直接的な反応の結果として理解できる)。
もう一つの問題は、産物の量がいったん増加した後で(遅い速度で)減少に転じたことと、長い時間が経過しても光照射下よりも高いレベルで留まった事実ですね。遅い速度での産物の減少を説明するには、3PGの解糖系での利用が考えられ、光照射下よりも高いレベルで留まったことには更に過程を考慮する必要があるようです。
質問文では、暗黒下でも機能する解糖・呼吸系からのカルビン・ベンソン回路へのATPの供給、光化学系の反応停止に伴うO2濃度の低下による光呼吸の抑制、Fd-Trx系の作動等による諸々の酵素活性の制御の可能性が非常に良く考察されていると思います。グラフは回路の主成分の直接的な反応の結果として大まかには説明出来るとは言え、現実にはいろいろな代謝系・制御系が多重に関係しているのが実態だと思います。その全貌を理解するには、断片的・定性的な事実に基づく考察では不十分で、定量的で実験材料に個別的な解析が求められると思います。そんな訳で、ご質問の主要な部分についてはお答え出来ていませんが、取り急ぎ回答とさせていただきます。
独学で植物生理学をご勉強中とのこと、またこのコーナーをご利用ください。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-02-26
佐藤 公行
回答日:2017-02-26