一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物のアレロパシーについて

質問者:   高校生   横山
登録番号3703   登録日:2017-03-09
先日、授業でアレロパシーについて学びました。植物が放出するアレロパシー物質は、害虫を寄せ付けないようにしたり、雑草の繁殖を抑制したりする一方で、アスパラガスのように連作障害を引き起こす物質もあるという内容でした。
植物が自らを守るために、アレロパシー物質を放出するのは理解できるのですが、自らの成長を阻害するような物質を放出するのはなぜなのかよくわかりません。改植すると確かに違う株にはなりますが品種が同じであれば遺伝子的には同じ株だと思いますし、畑に植えてあるときは自分に悪さはしないのに、改植時になると悪さをし始めるという点もなぜなのかよくわかりません。
同種同士で競合しないように「嫌地物質」というものを放出する植物もいるようですが、たかだか50cm程度の株間に植わっているアスパラガスが「嫌地物質」を放出するとは考えられません。
アスパラガスのように改植をする際に自身を攻撃するような物質を放出してしまうのは何故なんでしょうか。教えてください。
横山 さん

 みんなの広場のご利用ありがとうございます。
 連作障害(いや地現象)とアレロパシー現象はよく似ていますが少しばかり意味合いが違います。連作障害は作物栽培上の問題で原因は多岐にわたり作物毎に違っています。栄養供給の不適正化、ウィルスを含む微生物、土壌線虫の感染、化学物質、土壌の物理的変化などの影響で収穫量が低下する現象です。化学物質はさらに作物自身が分泌するもの、他生物残渣の分解産物によるものがあります。一方、アレロパシーは作物に限らず植物が合成して分泌あるいは揮散される化学物質によって近隣植物の生理現象(発芽、成長、形態形成など)に影響を与える現象です。アレロパシー物質に対する感受性は植物種によって違います。アレロパシーが連作障害の大きな原因となる場合は多くあります。

 アレロパシーが食害虫の忌避、食害虫の天敵の誘引など産生植物個体の生存にとって有利な仕組みとなっていることは間違いありませんが、より多く見られることは自己の生育地域へ他の植物種の侵入を妨げて自種群落を拡大させるという生態的仕組みとなっていることです。これらの場合、根から発芽阻害物質や生育阻害物質を分泌しています。また落ちた葉、果皮の浸出液に阻害物質が含まれることもあります。発芽、生育阻害物質は他植物種だけに有効と言うことではなく、自種の生育にとっても阻害効果があるものです。そのため、大きな群落が形成されても長期間継続することはなく、次第に群落内の個体の生育が悪くなり群落は小さくなっていく例がたくさんあります。つまりたくさんの個体が生育阻害物質を分泌し続ければ濃度が上昇し自家中毒を起こした結果です。典型的な例はセイダカアワダチソウに見られます。かつて日本中でセイダカアワダチソウの大きな群落が見られましたが、昨今はかなり貧弱な群落になっています。似たようなことは野生のヒマワリにも観察されています。大きな1つの群落になれないで環状に群落が発達するものです。どちらの場合でも、生育抑制された部分の土壌を掘り出して新たに自種、他種を植えても生育は阻害されることが確かめられています。結局、阻害物質に対する感受性の違いを使って他種の侵入を防いでいると考えられるものです。

 アスパラガスは多年生作物で、1度植栽すると数年間あるいはそれ以上の期間植え替えをしないので連作障害の原因はかなり複雑なものです。アスパラガスはAsparagusic acid(アスパラガス酸)がアレロパシー物質と同定されていますが野菜茶業研究所の研究によれば連作障害はそれだけではなく、フザリウム属菌類(立枯病、株腐病の原因菌類)の感染が主要原因のようです。アレロパシー物質の影響で株は弱体化してフザリウム菌が感染しやすくなります。その他、長期間掘り起こしをしないので土壌の物理的性質も変化しそれによるの排水不良、栄養の不適正化などの結果、数年で連作障害が顕在化してくると推定されています。

 改植については誤解をされているかもしれません。連作障害の対策として特に果樹などで行われますが、古い土壌を除き、新しい(同じ果樹を栽培していなかった)土壌への入れ替え、あるいは旧土壌の活性炭処理などをして新しい株を植えることが改植です。土壌の入れ替えをしないところに新たな株を植栽しても連作障害は回避できず期待する収量は得られません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-03-21
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