一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光補償点を計算する時間的な単位は?

質問者:   会社員   kanap
登録番号3706   登録日:2017-03-11
室内でいくつか観葉植物を育てるにあたって直射日光の入りにくい置き場所で光量が不足しないのか、ということを調べていたら「光補償点」という考え方に行き当たりました。

論理は大体理解できたのですが、この指標はどういった時間的な単位で応用するべきなのでしょうか?



1. 例えばですが、光補償点が2000lux程度のサボテンを育てる際、昼間に12時間2001luxに保ち、夜間12時間は照明による照射などが全くない状態で1年間生育した場合、正常に成長できるのでしょうか?

それとも夜間の12時間の間に呼吸で消耗する分を昼間の光合成で補えるよう、12時間 × {2001lux+夜間の酸素消耗分(例えば光合成で作れる酸素の半分程度を夜間呼吸で消耗してしまうなら1000luxとか?)}が必要になるのでしょうか?

2.光量の帳尻を合わせるのは1年単位で考えるのが適当でしょうか?例えば温かい季節に6ヶ月しっかり屋外などで日光をあびたサボテンを、涼しくなってから6ヶ月間、室内の環境(例えば人工照明のみ1日2〜3時間、200lux程度)で育ててもちゃんと育つのでしょうか?
kanap様

植物Q&Aにご質問をいただきまして、ありがとうございます。
植物生態学を研究している寺島一郎博士(東京大学)に「光補償点」について詳しく説明していただきました。
「光補償点」
a)通常は、葉の光合成の瞬時値(短時間の測定値)で、見かけ上のCO2の出入りがなくなる光強度を光補償点としています。(櫻井注:同種の植物でも、日当たりのよいところに生育する植物は、日当たりの悪いところに生育する植物よりも一般に「光補償点」は高く、生育も旺盛です。旺盛な生育には、日中でも活発な呼吸が必要で、暗いところで育った植物は呼吸活性を低くし、有機物の消費を低くすることにより、環境に適応していることを示しています。)
b)光補償点の測定には一般に葉を用いて測定しますが、植物個体全体となると、根や茎の呼吸量が馬鹿になりませんから、より強い光で見かけ上のCO2の出入りがなくなることになります。
c)より生態学的には、見かけの光合成(正味の光合成)は純一次生産と同義となります。こうなると時間スケールは長くなります。純生産が正にならなければ、成長の基盤がないことになります。

問1.
例えばですが、光補償点が2000lux程度のサボテンを育てる際、昼間に12時間2001luxに保ち、夜間12時間は照明による照射などが全くない状態で1年間生育した場合、正常に成長できるのでしょうか?
回答:光補償点が2000luxのとき、これよりもほんの僅か強い光では、一般に長期間にわたり生命を維持することは不可能です。(なお、適応により、植物体を長期的に低呼吸、低成長の側に変化させ、生存が可能となるものもあるでしょう)
kanapさんが書いた例では、おそらく(2000+1000)程度は必要でしょう。

問2. 
光量の帳尻を合わせるのは1年単位で考えるのが適当でしょうか?例えば温かい季節に6ヶ月しっかり屋外などで日光をあびたサボテンを、涼しくなってから6ヶ月間、室内の環境(例えば人工照明のみ1日2~3時間、200lux程度)で育ててもちゃんと育つのでしょうか?
回答:
寺島先生のc)「生態学的には、見かけの光合成(正味の光合成)は純一次生産と同義となります。こうなると時間スケールは長くなります。純生産が正にならなければ、成長の基盤がないことになります。」を参照してください。
さて、サボテンの品種にもよりますが、私(櫻井)の経験では、園芸店で買った球形のサボテンを春-秋はベランダに出しておき、冬は寒さを避けるために明るくない室内に置いていますが、鶏卵よりも小さかったものが、10数年たった今では高さ20cm、直径15cm程度に大きくなっています。
(付記:寺島先生から、「質問者が光補償点に関連する事柄を総合的によく考えている」との講評をいただいております) 
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博 
回答日:2017-04-17