質問者:
一般
fenetre0723
登録番号3726
登録日:2017-04-11
最近トマトの色素成分、リコピンについて、お尋ねしました。みんなのひろば
Indigo rose と言うトマトについて
勝見さんから、回答を頂いた内容に、「最近Indigo rose のようなブラック・トマトが出回り始め、これはポリフェノールの仲間でアントシアニンが含まれている」
と言った部分を見つけました。
リコピンはカロテノイドで、水には溶けにくい脂溶性成分だと聞きます。
Indigo roseにも、黒い色を出すアントシアニン成分のポリフェノールだけでなく、昔からの赤や黄色のトマトにあるリコピンも含まれているのでしょうか?
またIndigo roseに含まれるリコピンの量は、他の、赤い、あるいは黄色いトマトと比べて極端に少なく、逆に水溶性のポリフェノール、アントシアニン成分の方が断然多いと言った事なのでしょうか?
逆に、赤や黄色のトマトにも、元々リコピン成分の他に、ポリフェノールも含まれているのでしょうか?
また赤や黄色のトマトの場合は、逆に、リコピン成分の方が断然多く含まれていて、ポリフェノール成分の方は極端に少ないと言う事なのでしょうか?
またこのIndigo roseは遺伝子組み換え技術によって、元々は持っていないブラックの色を示すアントシアニンを持つようになったのでしょうか?
fenetre0723様
再度のご質問歓迎いたします。前回の回答でトマトの色素と ”Indigo rose” のことをもう少し詳しく説明しておけばよかったですね。
今回はまず最初に、植物の色素についての一般的な概略から説明いたします。植物に色をもたらしている化合物は構造上フラボノイド、カロテノイド、ベタレイン、クロロフィルの4つの系統に分けられます。フラボノイドにはアントシアニンとかカルコンなどのグループが、カロテノイドにはカロテンとキサントフィルのグループがあります。クロロフィルはご存知の通りです。ベタレインにはベタシアニンとベタキサンチンの二つのグループがあります。
もう一つ、ポリフェノールについて説明しておいます。ポリフェノールというと、ふつうブドウやブルーベリーの青紫色の色のことを思いつきますが、これは色素化合物の名前ではありません。ポリは多い、フェノールは水酸基(-OH)を持っているベンゼン化合物を意味します。フラボノイドはポリフェノールの1グループで、したがってアントシアニンはポリフェノールなのです。ポリフェノールにはクマール酸、フェルラ酸、コーヒー酸などの単純なフェノール酸と呼ばれるグループの化合物もあります。
以上のことを前提に、次にトマトの色素についての一般的な説明を致します。トマト果実の最も多量に作られる色素はリコペンで、赤い色はリコペンによります。これはカロテノイドの中のカロテンの一つです。ちなみに、葉や花でもカロテノイドは作られます。葉ではルテインというキサントフィルの一種が多く作られますが、花ではヴィオラキサンチンやネオキサンチンというキサントフィルの仲間が作られ、トマトの花の黄色の主成分です。トマトではアントシアニンは通常、芽生えの胚軸(最初の現れる茎)などの限定されていますが、普通の茎や葉にも現れることがあります。しかし、果実には蓄積されません。トマトはアントシアニンを合成できる遺伝子を持っているのですが、その発現は限られているということです。トマトのアントシアニンはデルフィニジン、マルヴィジン、ペチュニジンです。
さて、トマトの果実の色は赤色あるいは黄色が一般的です。赤色はリコペンに黄色はβーカロテンに由来します、果実の実際の色はどちらの色素が沢山蓄積しているかにもよります。トマト果実のカロテノイドや他の化合物(ポリフェノールなど)の含量は、一律に「トマト」として括るわけにいきません。これらの含量は遺伝子型にもよりますので、沢山ある品種では当然違いがあります。また、栽培条件や緩急条件によって大きな影響を受けます。参考のためにある論文に紹介されていた表を下記に挙げておきます。
最後になってしまいましたが、”Indigo Rose” について説明いたします。上記で説明したように、トマトではアントシアニンは茎や葉では合成されますが、果実では通常合成されません。アントシアニンを蓄積する黒いトマトはチリとガラパゴス島に生育していた野生のトマトと私たちが食用にするトマトの言わば種間雑種として育種されたものです。食用トマトも元々果実にアントシアニンを合成できる能力を備えていたが、栽培育種が続けられてきた過程でそれを失ったのかもしれません。
1960年代に米国とブルガリアの二人の育種家が最初にこの掛け合わせを始めたということです。そして 米国のオレゴン州立大学園芸学部のJim Myers教授らが”Indigo Rose” の品種の作出に成功しました。2012年に市場に登場しました。この種子は日本でも入手できます。ポリフェノールは抗酸化機能物質として環代になっています、リコペンなどのカロテノイドは大切な栄養素ですので、これらがトマトだけで摂取できるとなれば、とても優れた野菜ということになります。そんなことで、話題性が高いのです。だから、黒紫のIndigo Roseはもちろんリコペンもカロテンも含有しています。あれかこれかという色の選択ではなくて、従来のリコペンとカロテンを含むトマトにアントシアニンが加わったということです。Indigo Roseでは他の色はアントシアニンの色に隠されてしまって見えないだけです。同じようなことは、例えば、アカジソはアオジソと同じようにクロロフィルも含んでいますが、アントシアニンのために見えないだけです。秋の黄葉(例えばイチョウ)はクロロフィルが分解して消失すると、隠されていたカロテンの黄色が現れてきます。
以上で大体ご理解いただけたかと思います。
表 完熟トマト果実中のカロテノイド及びポリフェノールの典型的な組成(果実100g 生重量あたりの含量、mg)*
______________________________________________________________________
カロテノイド 濃度 ポリフェノール 濃度
______________________________________________________________________
リコペン 7.8 - 18.1 ナリンゲニン カルコン 0.9 -18.2
フィトエン 1.0 - 2.9 ルチン 0.5 - 4.5
フィトフルエン 0.2 - 1.6 ケルセチン 0.7 - 4.4
β-カロテン 0.1 - 1.2 クロロゲン酸 1.4 - 3.3
γ-カロテン 0.95 - 0.3 コーヒー酸 0.1 - 1.3
δ-カロテン 0 - 0.2 ナリンゲニン 0 - 1.3
ルテイン 0.09 カンフェロール-3-ルチノシド 0 - 0.8
ニューロスポロン 0 - 0.03 p−クマール酸 0 - 0.6
α-カロテン 0 - 0.002 フェルラ酸 0.2 - 0.5
ネオキサンチン - カンフェロール 0 - 0.2
______________________________________________________________________
*Raul Maruti et al. Tomato as a source of carotenoids and @olyphenpols targeted to cancer prevention. Cancers(Basel) 8(6):58 (2016 June)
Table1より抜粋
再度のご質問歓迎いたします。前回の回答でトマトの色素と ”Indigo rose” のことをもう少し詳しく説明しておけばよかったですね。
今回はまず最初に、植物の色素についての一般的な概略から説明いたします。植物に色をもたらしている化合物は構造上フラボノイド、カロテノイド、ベタレイン、クロロフィルの4つの系統に分けられます。フラボノイドにはアントシアニンとかカルコンなどのグループが、カロテノイドにはカロテンとキサントフィルのグループがあります。クロロフィルはご存知の通りです。ベタレインにはベタシアニンとベタキサンチンの二つのグループがあります。
もう一つ、ポリフェノールについて説明しておいます。ポリフェノールというと、ふつうブドウやブルーベリーの青紫色の色のことを思いつきますが、これは色素化合物の名前ではありません。ポリは多い、フェノールは水酸基(-OH)を持っているベンゼン化合物を意味します。フラボノイドはポリフェノールの1グループで、したがってアントシアニンはポリフェノールなのです。ポリフェノールにはクマール酸、フェルラ酸、コーヒー酸などの単純なフェノール酸と呼ばれるグループの化合物もあります。
以上のことを前提に、次にトマトの色素についての一般的な説明を致します。トマト果実の最も多量に作られる色素はリコペンで、赤い色はリコペンによります。これはカロテノイドの中のカロテンの一つです。ちなみに、葉や花でもカロテノイドは作られます。葉ではルテインというキサントフィルの一種が多く作られますが、花ではヴィオラキサンチンやネオキサンチンというキサントフィルの仲間が作られ、トマトの花の黄色の主成分です。トマトではアントシアニンは通常、芽生えの胚軸(最初の現れる茎)などの限定されていますが、普通の茎や葉にも現れることがあります。しかし、果実には蓄積されません。トマトはアントシアニンを合成できる遺伝子を持っているのですが、その発現は限られているということです。トマトのアントシアニンはデルフィニジン、マルヴィジン、ペチュニジンです。
さて、トマトの果実の色は赤色あるいは黄色が一般的です。赤色はリコペンに黄色はβーカロテンに由来します、果実の実際の色はどちらの色素が沢山蓄積しているかにもよります。トマト果実のカロテノイドや他の化合物(ポリフェノールなど)の含量は、一律に「トマト」として括るわけにいきません。これらの含量は遺伝子型にもよりますので、沢山ある品種では当然違いがあります。また、栽培条件や緩急条件によって大きな影響を受けます。参考のためにある論文に紹介されていた表を下記に挙げておきます。
最後になってしまいましたが、”Indigo Rose” について説明いたします。上記で説明したように、トマトではアントシアニンは茎や葉では合成されますが、果実では通常合成されません。アントシアニンを蓄積する黒いトマトはチリとガラパゴス島に生育していた野生のトマトと私たちが食用にするトマトの言わば種間雑種として育種されたものです。食用トマトも元々果実にアントシアニンを合成できる能力を備えていたが、栽培育種が続けられてきた過程でそれを失ったのかもしれません。
1960年代に米国とブルガリアの二人の育種家が最初にこの掛け合わせを始めたということです。そして 米国のオレゴン州立大学園芸学部のJim Myers教授らが”Indigo Rose” の品種の作出に成功しました。2012年に市場に登場しました。この種子は日本でも入手できます。ポリフェノールは抗酸化機能物質として環代になっています、リコペンなどのカロテノイドは大切な栄養素ですので、これらがトマトだけで摂取できるとなれば、とても優れた野菜ということになります。そんなことで、話題性が高いのです。だから、黒紫のIndigo Roseはもちろんリコペンもカロテンも含有しています。あれかこれかという色の選択ではなくて、従来のリコペンとカロテンを含むトマトにアントシアニンが加わったということです。Indigo Roseでは他の色はアントシアニンの色に隠されてしまって見えないだけです。同じようなことは、例えば、アカジソはアオジソと同じようにクロロフィルも含んでいますが、アントシアニンのために見えないだけです。秋の黄葉(例えばイチョウ)はクロロフィルが分解して消失すると、隠されていたカロテンの黄色が現れてきます。
以上で大体ご理解いただけたかと思います。
表 完熟トマト果実中のカロテノイド及びポリフェノールの典型的な組成(果実100g 生重量あたりの含量、mg)*
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カロテノイド 濃度 ポリフェノール 濃度
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リコペン 7.8 - 18.1 ナリンゲニン カルコン 0.9 -18.2
フィトエン 1.0 - 2.9 ルチン 0.5 - 4.5
フィトフルエン 0.2 - 1.6 ケルセチン 0.7 - 4.4
β-カロテン 0.1 - 1.2 クロロゲン酸 1.4 - 3.3
γ-カロテン 0.95 - 0.3 コーヒー酸 0.1 - 1.3
δ-カロテン 0 - 0.2 ナリンゲニン 0 - 1.3
ルテイン 0.09 カンフェロール-3-ルチノシド 0 - 0.8
ニューロスポロン 0 - 0.03 p−クマール酸 0 - 0.6
α-カロテン 0 - 0.002 フェルラ酸 0.2 - 0.5
ネオキサンチン - カンフェロール 0 - 0.2
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*Raul Maruti et al. Tomato as a source of carotenoids and @olyphenpols targeted to cancer prevention. Cancers(Basel) 8(6):58 (2016 June)
Table1より抜粋
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2017-04-15
勝見 允行
回答日:2017-04-15