質問者:
中学生
だいき
登録番号3735
登録日:2017-04-23
疑問に思ったので質問します。日本の植物を常夏の国ね持って行った場合実は付くのでしょうか?みんなのひろば
植物の環境変化について
僕は趣味でアケビを育ててます。一年中暖かくしたら凄い成長が早くなるような気がしたのですが、ふと花が咲かなかったりするのではと思い。
だいき くん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
一般論としてお答えすることがたいへんむずかしいご質問です。温帯地域と熱帯地域ではかなり違った気象環境で、雨期、乾期の別、日照/日長/平均温度の違いなどがあります。植物は常に自然環境に巧みに反応しながら生存、子孫繁栄を図っています。その反応は種によって大きく違います。ご質問は生態学がご専門の東京大学、寺島一郎先生に解説をお願いしたところ、次のような詳しいご回答を頂きました。しっかりと読み解き、また自分でもいろいろ調べてみてください。
【寺島先生の回答】
図鑑で調べると、アケビの花が咲くのは4〜5月としてありますから、いわゆる「長日植物」でしょうね。日が長くなると(実際には夜が短くなると)咲く植物のようです。一方、アサガオなどは、夏至をすぎて日が短くなると花をつける「短日植物」です。長日植物にせよ短日植物にせよ、夜の長さを感知して、同種の仲間とほぼ同時に花をさかせる仕組みをもっているという点では似ています。なぜ、同時期に花を咲かせなければならないのでしょうか?同時期に花を咲かせるのは、遺伝的変異を形成・蓄積するためであると考えられています。多くの野生植物は自家不和合性という性質をもっています。自分の花の花粉が雌しべの先端に付着しても、いろいろな仕組みがはたらいて受精しませんが、遺伝子組成の異なる他の個体からの花粉なら受精するのです。こうして遺伝的多様性を作り出しています。集団内の個体の遺伝的多様性は、植物が環境に適応するための原動力です。
日本では、イネは代表的な短日植物です。野生イネではみられる自家不和合性は、栽培化がすすむにつれてなくなりました。自家不和合性がなくなるので、同時に咲かなくてもよいようにも思えます。しかし、例えば、北海道のような寒い地方では、十分な成長期間を確保するために、田植えは比較的早めに行います。寒くなる前に穂がよく実るように、開花から収穫までの期間も確保しなければなりません。したがって、開花も早める必要があります。早めに開花する品種が育種選抜され使われています。赤道あたりでは季節によって日長はそれほど変わりませんが、極地方では日長は季節によって大きく、その変化率(1日あたりの日長変化量)も大きくなります。このように緯度が違うと日長が異なり、日長の変化率も異なります。実際に、日本各地で栽培されるイネの各品種は、その緯度によって開花日長(夜の長さ)が異なるとともに、日長への感度も異なります。ある品種が美味しいからといって、全国でその品種を栽培するというわけにはいかないのです。
一方、熱帯で栽培されているイネの開花には、日長による制御ははたらいていないようです。1年に3回収穫する三期作が行われている地方もありますが、これらの品種は積算温度あるいは成長そのものを開花シグナルとしているようです。
野生植物ではイネほど詳しくは研究されていませんが、事情は似ているはずです。現在われわれが見ている野生植物のほとんどは、その植物が採用している日長で開花結実することで、多くの子孫を残してきたものなのです。
一斉開花に日長を利用する植物を、日長のほとんど変化しない熱帯地方に栽培すると、開花のタイミングが狂うだろうと予想されます。開花シグナルとして積算温度を使っている植物なら、熱帯で栽培されているイネのように、1年間に何度も開花するかもしれません。 開花以外にも、展葉時期を、日長によって決めているものと積算温度を使っているものがあります。また、落葉樹には落葉のための離層形成を日長に依存するものがあります。日が短くなると落葉し、冬の乾燥や低温に備えます。ポプラなどがその例です。
このような植物を熱帯に植えると、展葉や落葉のタイミングが狂うでしょうね。 熱帯多雨林の樹木は毎年決まった時期に開花するわけではありません。数年おきの一斉開花現象が知られています。これにはエンソによる気温の変化と乾燥とが関わっているようです。開花結実のために十分な炭水化物が蓄積されていることがその必要条件となっているようです。ここでも遺伝的多様性の形成につながる一斉開花がおこることは重要だと思われます。
植物は、生活のいろいろな局面で、季節を感知しています。高緯度地方に植物が進出するにつれて、メリハリの効いた季節感知の方法を獲得してきたと考えられています。それが、熱帯地方でうまくいくとは限らないでしょうね。
大変おおざっぱな解説になってしまいました。個々の事項については、「みんなのひろば」にすぐれた解説があります。ご覧ください。
開花と日長との関係について:登録番号0552,1049,1996など
イネの開花について:登録番号0597
一斉開花について:登録番号1844,1923
展葉、落葉について:登録番号3159
寺島 一郎(東京大学大学院理学研究科)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
一般論としてお答えすることがたいへんむずかしいご質問です。温帯地域と熱帯地域ではかなり違った気象環境で、雨期、乾期の別、日照/日長/平均温度の違いなどがあります。植物は常に自然環境に巧みに反応しながら生存、子孫繁栄を図っています。その反応は種によって大きく違います。ご質問は生態学がご専門の東京大学、寺島一郎先生に解説をお願いしたところ、次のような詳しいご回答を頂きました。しっかりと読み解き、また自分でもいろいろ調べてみてください。
【寺島先生の回答】
図鑑で調べると、アケビの花が咲くのは4〜5月としてありますから、いわゆる「長日植物」でしょうね。日が長くなると(実際には夜が短くなると)咲く植物のようです。一方、アサガオなどは、夏至をすぎて日が短くなると花をつける「短日植物」です。長日植物にせよ短日植物にせよ、夜の長さを感知して、同種の仲間とほぼ同時に花をさかせる仕組みをもっているという点では似ています。なぜ、同時期に花を咲かせなければならないのでしょうか?同時期に花を咲かせるのは、遺伝的変異を形成・蓄積するためであると考えられています。多くの野生植物は自家不和合性という性質をもっています。自分の花の花粉が雌しべの先端に付着しても、いろいろな仕組みがはたらいて受精しませんが、遺伝子組成の異なる他の個体からの花粉なら受精するのです。こうして遺伝的多様性を作り出しています。集団内の個体の遺伝的多様性は、植物が環境に適応するための原動力です。
日本では、イネは代表的な短日植物です。野生イネではみられる自家不和合性は、栽培化がすすむにつれてなくなりました。自家不和合性がなくなるので、同時に咲かなくてもよいようにも思えます。しかし、例えば、北海道のような寒い地方では、十分な成長期間を確保するために、田植えは比較的早めに行います。寒くなる前に穂がよく実るように、開花から収穫までの期間も確保しなければなりません。したがって、開花も早める必要があります。早めに開花する品種が育種選抜され使われています。赤道あたりでは季節によって日長はそれほど変わりませんが、極地方では日長は季節によって大きく、その変化率(1日あたりの日長変化量)も大きくなります。このように緯度が違うと日長が異なり、日長の変化率も異なります。実際に、日本各地で栽培されるイネの各品種は、その緯度によって開花日長(夜の長さ)が異なるとともに、日長への感度も異なります。ある品種が美味しいからといって、全国でその品種を栽培するというわけにはいかないのです。
一方、熱帯で栽培されているイネの開花には、日長による制御ははたらいていないようです。1年に3回収穫する三期作が行われている地方もありますが、これらの品種は積算温度あるいは成長そのものを開花シグナルとしているようです。
野生植物ではイネほど詳しくは研究されていませんが、事情は似ているはずです。現在われわれが見ている野生植物のほとんどは、その植物が採用している日長で開花結実することで、多くの子孫を残してきたものなのです。
一斉開花に日長を利用する植物を、日長のほとんど変化しない熱帯地方に栽培すると、開花のタイミングが狂うだろうと予想されます。開花シグナルとして積算温度を使っている植物なら、熱帯で栽培されているイネのように、1年間に何度も開花するかもしれません。 開花以外にも、展葉時期を、日長によって決めているものと積算温度を使っているものがあります。また、落葉樹には落葉のための離層形成を日長に依存するものがあります。日が短くなると落葉し、冬の乾燥や低温に備えます。ポプラなどがその例です。
このような植物を熱帯に植えると、展葉や落葉のタイミングが狂うでしょうね。 熱帯多雨林の樹木は毎年決まった時期に開花するわけではありません。数年おきの一斉開花現象が知られています。これにはエンソによる気温の変化と乾燥とが関わっているようです。開花結実のために十分な炭水化物が蓄積されていることがその必要条件となっているようです。ここでも遺伝的多様性の形成につながる一斉開花がおこることは重要だと思われます。
植物は、生活のいろいろな局面で、季節を感知しています。高緯度地方に植物が進出するにつれて、メリハリの効いた季節感知の方法を獲得してきたと考えられています。それが、熱帯地方でうまくいくとは限らないでしょうね。
大変おおざっぱな解説になってしまいました。個々の事項については、「みんなのひろば」にすぐれた解説があります。ご覧ください。
開花と日長との関係について:登録番号0552,1049,1996など
イネの開花について:登録番号0597
一斉開花について:登録番号1844,1923
展葉、落葉について:登録番号3159
寺島 一郎(東京大学大学院理学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-05-08
今関 英雅
回答日:2017-05-08