一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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マツの花粉の飛散後と受粉について

質問者:   教員   ひろこ
登録番号3769   登録日:2017-05-26
マツの花粉について質問させてください。
マツの雄花ができるのと、雌花ができるのでは時期がズレていて、これは自家受粉を避けるため、というのはわかります。
しかし、マツの様子を観察していると、雄花は4月下旬〜、雌花が出てくるのはちょうど今頃の5月中旬以降のようです。この時期になると雄花にはほとんど花粉が残っていません。
この時期のズレがかなりあることに疑問を感じます。他家受粉するにしても、あまりにズレているとその間に花粉は雨によって落ちたりしてしまうのではないでしょうか。一ヶ月近くも空中を漂っているのでしょうか?
さらに、一ヶ月も漂っていると、日本の場合は偏西風や温帯低気圧等に流されて日本を超えて太平洋の海の上に行ってしまうのではないかと思うのですが。

また、受粉するにしても、雌花の鱗片の間が硬く詰まっていて、とても花粉が入れるように思えないのですが、それは人間の(私の)感覚であって、花粉は入れる、ということなのでしょうか?

ご教授ください。よろしくお願いします。
ひろこ様

 ご質問をありがとうございます。

 まず、この回答で用いた用語について整理しておきます。
 雌雄異花の被子植物の雌花に対応する、クロマツ(マツとしてクロマツについて回答します)の雌性器官は、種麟とその外側に付随している苞麟から成っています。種麟の基部には裸出した胚珠が2つ付いています。種麟(+苞麟)は枝の軸に、多数、らせん状に配列います。これを一般的には雌花とよんでいます。質問内容でも雌花とよんでいるようですので、回答でも同様に用いることにしました。まつかさ(球果)は雌花が成育、成熟したもので、まつかさを構成する鱗片状の構造一つ一つが、種麟が成育、成熟したものということになります。種麟の間には胚珠が成育、成熟した種子が存在することになります。
 ここからが回答ですが、ご質問のように雌花と雄花の開花時期が完全にずれているとすると、受粉が難しくなりそうです。実際にはどうなっているのか確認しようと思ったのですが、私の住んでいる地域では、質問を頂いた時にはすでに球果が成育する時期に入っていました。そこで、図鑑(写真を図として用いているもの)、書籍、ネットの画像でクロマツの写真をいろいろ調べてみました。
 その結果ですが、ご質問にあったように、雄花がほとんど脱落して雌花だけのもの、雄花だけでまだ雌花が認められないものもありました。しかし、雌花と雄花の両方が付いているもの(ほとんどの図鑑がこのような写真を用いている)もありました。また、一本の木に雌花と雄花の両方が付いている枝と雄花だけしか見られない枝の両方が混在している画像もありました。このことから、雌花と雄花の開く時期が完全にわかれているわけではなさそうに思えます。さらに樹木間でも開く時期に差があるようですので、花粉が1か月も漂っていなければ受粉がおきないという心配はなさそうです。
 雌花の鱗片(種麟)の間が硬く詰まっているとのことですが、受粉前は比較的種麟間にすきまがあるが、受粉すると種麟が胚珠を包むように急速に成育して種麟間を閉じるという記載がありますのでご覧になった雌花はすでに受粉が終わったものである可能性が考えられます。
 時間を追って雌花の発育の様子と雄花の開く時期との関係を観察されると面白いのではないでしょうか?来年、私も観察してみたいと思っています。
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2017-06-05