一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物体内の養分はそれぞれの器官で共通で使えるか。

質問者:   高校生   まこっちゃん
登録番号3779   登録日:2017-05-31
トマトを甘くする方法として、ベストな肥料をベストなタイミングで与えたり、水分調節をしたりと色々方法がありますが、最近学校で根域制限というものを知りました。根が広がる範囲を狭くすることでトマトが甘くなるとのことでした。
今回はこの根域制限について質問させていただきたいと思います。根域制限を行うことでトマトの糖度が上がるというのは根域制限によって根の成長が制限され、その根に使われるはずの栄養が果実に蓄えられるということでしょうか。また、この仮説があっているとしたら、根から吸収された養分というのは植物体内のどの器官にも共通の養分として成長に使うことが出来るという考え方はできますか?
まこっちゃん さま

「みんなの広場」へのご質問、有難うございました。
野菜類の研究を専門とされている岡山大学 桝田正治名誉教授に回答していただきました。

【桝田先生の回答】
「トマトの根域制限と糖度の関係」
根域制限によりトマトの糖度が上がる理由<因果関係は事実です>についてお答えします。
まず、根の伸びる領域を狭くすると、当然のことながら地上部<葉・茎・果実など>も小さくなります。この比は乾物重量比T/R(top/root)率として表すことができますが、この値は一定になるわけではありません。通常、根域を小さくしていくほどT/R率は高くなります。この最適値が生産上求められることになりますが、この時、Tの内容、特に果実の大きさと糖度の問題が栽培者の関心事です。根域制限では根に使われるはずの栄養が果実に蓄えられるのではなく、根において水の吸収量が抑制されるのでその影響が地上部に現れる。上述のように葉や茎、果実も小さくなり、結果として果実では糖の含有率が高まる。つまり糖度が高まることになるわけです。あなたは俗称、高糖度トマトやフルーツトマトという商品を見たことがあるでしょう。定義は人によって異なりますが、仮に糖度10度(一般に屈折計示度10を示す値)としましょう。このトマトを作るためには、水の吸収を抑え果実の重さを通常の6~7割に作り上げることが必要となります。肥料を少なくしても作れません。なお、トマトの栽培時に塩水を処理すると、土壌溶液の浸透圧が高まり水の吸収が抑制されるので糖度が高まります。いずれにしてもトマト果実における濃縮効果とみなしていいでしょう。
さて、あなたの仮説「根域制限によって根の成長が制限され、その根に使われるはずの栄養が果実に蓄えられる」の寄与の度合いはゼロとは言えないが、主体は葉や茎、果実も小さくなり、結果として果実では糖の含有率が高まることにあります。
なお、根から吸収された養分はどの器官にも共通の養分として働き成長に使われます。ただし、植物よって、齢によって、器官によって各成分〈例えば、窒素、リン酸、カリウム〉の要求量は異なります。この要求量を制御して目的物を合理的に得ようとするのが施肥技術ということになるのかも知れません。
[根域制限したトマトの栽培試験](枡田先生による補足):
遮根透水シート〈水は通すが根は通さない資材、現在、数社が販売しているが、東洋紡K.K.のものはもっとも古くから生産〉で3~5リットルの培養土を入れて包む。これを土に埋める。対照は包まないで埋める。ここにトマト苗を植えつける。果実が着くころまではほとんど差は認められないが、この頃、つまり根が張って根域に制限が加わるころから地上部に差が現れる。根域制限では根は3~5L内にしか存在しないので水ストレスがかかり出す。
潅水量を少なくしていくと果実の糖度はより高まる。この場合でも十分な潅水を行っていると水ストレスがかからず果実の糖度はあまり高まらない。
トマトの鉢栽培は根域制限の典型とも言える。培地量が少ないことから潅水量が果実の糖度に大きく影響する。もし実感したいと思われるなら、果実がビー玉くらいになったころから鉢植えトマトの水やりに制限〈少なく少なく、枯れない程度に〉を加えてみる。この水やりが大変な作業になりますが。

 桝田 正治(岡山大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2017-06-02