一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物組織の標本作成について

質問者:   その他   明見 佳子
登録番号0379   登録日:2005-09-08
はじめまして。小学校3年生女児の母親です。

娘達が自由研究の題材として植物組織の顕微鏡観察にとりくんでおります。
現在トマトやジャガイモの茎を70%アルコ-ルで固定、保存したサンプルで切片を作成し、染色して導管や篩菅を観察しようとしています。
練習の結果、徒手にて薄い切片の作成は可能となりましたが、染色がうまくいきません。
今までライトグリ-ン、サフラニンなどを試しましたが、染まりすぎたり、色が抜け落ちてしまったりで、同一切片上で導管と篩管を染色し分けるのが難しいです。
これらの手技について書かれた清書をご紹介ください。

また導管と篩管を染色するのに最適な染色液についてご教示ください。
ちなみに母親である私は大学院時代にヒトのホルマリン固定パラフィン包埋したサンプルを免疫組織染色し学位論文としております。
しかしながら、植物組織の染色は全く初めてですのでよろしくお願いいたします。
明見さま
 みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を植物組織の観察法についての著書などもある福田泰二先生にお願しましたところ、以下のような、詳しい回答をお寄せ下さいましたので、お伝えします。           

福田泰二先生の回答
 まずお断りしなければならないのは、もしかしたら私が不勉強の間に、近年はもっとよい方法やよい参考書があるかも知れないということです。約10年前を思い出してお答えいたします。
 70%エタノールで固定とのことですが、通常の植物組織には濃すぎて脱水による収縮が起こりそうです。50%の方がよいかも知れません。できれば氷酢酸を少し加えるとなおよいでしょう。染色液はライトグリーンとサフラニンはたいへんよいと思います。ただし、ライトグリーンは色が美しい長所とともに脱色が早い短所があり、この点ではファストグリーンが優れています。使い方はライトグリーンと同様です。サフラニンとの二重染色をするとき、ライトグリーンやファストグリーンは、すでに染色したサフラニンをいくらか脱色しますので、それを計算に入れてサフラニン染色を濃すぎるくらいにしておくとよいと思います。
 参考書をご紹介したいのですが、いまは入手しにくいかも知れないものしか思い付きません。その一つは、現代生物学大系 第7巻b 高等植物B(中山書店 1981)のp.82とp.83の間の8ppを使って、「実験Plate被子植物の根と茎の構造」を西野栄正君と共著で書きました。また、宇津木和夫・玉野井逸朗・吉田 治編著で培風館から『生物の実験法』というものを3册出したと記憶していますが、そのうちのたぶんII(もしかしたらI?)の中で私が植物組織観察法(題はたぶんちがう)を書いたと思います。発行は1980年ごろだったような気がします。この3册をまとめてある人に貸したまま返って来ませんのでウロ覚えで書きました。単行本としては木島(コノシマ)正夫『植物形態学の実験法』(広川書店)があります。昭29(1954)の初版のほうが私は好きですが、古本屋のカタログでたまに見るのは昭53(1977)の改訂版です。
 道管(かって導管と書きましたが、道管と書く方が理に適っていると思います)と篩管(これを師管と書くのは私は反対です)を観察なさりたいとのことですが、道管の観察は比較的容易で、篩管の方が見にくいでしょう。見やすい材料でまず目を慣らすのも得策です。その代表格はウリ科です。今から160年ほど前に篩管が発見されたとき、その観察材料がカボチャだったのは偶然ではないと思っています。ただし、ウリ科の茎では(アマチャヅルなどの例外もありますが)内部篩部というものがあり、すなわち、篩部は木部の外側にあるだけでなく木部の内側にもあるので、木部と篩部の配置に関しては双子葉植物の中で例外的です。この点はトマト、ジャガキモなどのナス科でも同様です。

 福田 泰二(元武蔵中・高等学校校長)
JSPPサイエンス・アドバイザー
 柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03
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