一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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どうして果実は腐ると茶色になるの?

質問者:   その他   SEIICHI
登録番号3791   登録日:2017-06-17
お世話になります。
3歳になる息子からの質問で答えられなかったので、教えて頂けますでしょうか。
お伺いしたいのは、タイトルの通り、どうして果実は茶色になるのか?なのですが、ご回答頂けますと幸いです。
宜しくお願い致します。
SEIICHI さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

ご質問にある2つの分りにくい点をまずはっきりさせて頂きます。第一に、「果実」と言われているのは生物学的に定義されている「果実」(その種類はWEB サイトに沢山ありますので参照して下さい)なのか、私たちが果物と呼ぶ液果あるいは漿果(しようか:水分の多い果実)を指しているのか、によってお答えの仕方が違ってきます。第二に「腐る」の意味です。「腐る」とは腐敗で、ふつう微生物(細菌類、カビ類)が感染して宿主細胞(食品)の成分を餌として代謝し不快な代謝産物を作り出すことを指します。もしも「果実」が果物を指しているとすると共通性質として「熟する」という生理過程、食べ頃の果物は柔らかくても組織はしっかりと形を保っていますが放置しておくと(微生物に感染しなくても)次第に組織の軟化が進みついには組織が崩れて(細胞がばらばらに離れて)ドロドロになる果物組織/細胞の自己崩壊が起きます。「腐る」状態とよく似ていますが違います。もっとも、このような状態になると微生物が繁殖して腐りますが。

そこで本題です。植物組織が傷害を受ける(細胞が死ぬか半殺しの状態になる)と褐変する場合は沢山あります。リンゴ、ゴボウを切って放置すると見る間に茶色になってきますね。レタスの茎などの切り口は赤みの強い茶色になります。バナナの果皮に楊枝などで傷をつけても同じで、絵を描くこともできます。これは、細胞内で別々の区画(部屋と思って下さい)にあったタンニンなどのポリフェノール類とそれを酸化する酵素類(ポリフェノール酸化酵素)が、細胞が壊れた結果、混じり合い酵素的酸化反応が起きて褐色物質になるからです。このことについては、この質問コーナーに沢山の質問がありますので「褐変」をキーワードとして検索なさって下さい(例えば登録番号1105, 1184, 3046, 3215など)。過熟した果物でもアントシアニンやカロテノイドなどの色素類が残っていることが多くポリフェノール酸化物の色と混ざって複雑な茶系統色に変色します。でも果物は食べやすいことで選別されていますのでタンニン類は比較的少ない方で過熟してもあまり茶色にならないのではないかと思うのですが。リンゴ、バナナ(特に果皮)はむしろ例外的にポリフェノールが多い果物です。カキもタンニンが極めて多い果物ですが成熟するとタンニンが不溶化するか渋柿では「渋抜き法」が確立されています。干し柿の色はご質問の「茶色」に当たるでしょう。

 次に、生物学的「果実」を意味するのであれば、液果以外の乾果などを考える必要があります。乾果では種子が比較的頑丈な果皮に包まれていて(サヤエンドウや枝豆などのように)成熟し乾燥すると果皮の細胞が死にクロロフィルは分解され、リグニン化した細胞壁などの色が目立って茶色(枯れた色)になります。ポリフェノール類や酸化酵素のない植物細胞はないと思いますし、最後の色調はポリフェノール類の量とも関係しますので植物種によって異なります。ソラマメのようにポリフェノール類の多い場合には黒くなりますね。乾果では「腐る」ことは水を与えない限り問題にはなりません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-07-06
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