質問者:
教員
佐藤 政雄
登録番号3804
登録日:2017-06-28
ムラサキツユクサのおしべにある毛には、どのような働き・意義があると考えられているのでしょうか。
みんなのひろば
ムラサキツユクサおしべの毛の意義
佐藤様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ムラサキツユクサの雄蕊の毛は昔から原形質流動の観察によく使われていますが、一体何の働きをしているのか考えてみたことはありませんでした。そこで勉強のつもりで、関連する研究はないかと調べてみました。今のところ、ムラサキツクサ自体を扱った研究には行き当たりませんでしたが、他の雄蕊の毛を対象にした研究はありました。それらに基づいて説明致します。雄蕊の毛はどんな役割を担っているのかということについては、以前から様々な見解が出されているようですが、これらはいずれも憶測の段階のもので、実験的な証拠に基づくものではないようです。一般に生物の形状や色などの生理的/生態的意義を実証するのは難しいことです。雄蕊の毛は植物学的には植物の体表や花冠の表皮などに見られる毛(トライコーム:trichome:毛状突起)と同類で、表皮細胞から派生するものです(トライコームの一般的なことについては登録番号2283の記載を読んでください)。雄蕊に毛を持つ植物はムラサキツユクサ(ツユクサ科)以外にもかなりあります。アロエが属するツルボラン(Asphodelaceae)の Bulbine 属の植物の特徴の一つは雄蕊の毛(staminal hairs、hairy filaments)で、ネクタイ状(cravat type) が多く、線状のものもあるそうです。これらの形状がこの属の植物の分類の目安となっています。
ところで、植物の形状はその植物の生存と成長・繁殖にとって何らかの生理的/生態的意義を持つと考えてよいでしょう。特に花冠の場合は種子生産という植物にとっても最も重要な生活環の過程に関わります。多くの場合受粉を効率よく行うために昆虫の媒介は必須です。そこで、植物は昆虫(pollinaters) をいかに惹きつけるかで様々な工夫をしているわけです。このことを考えると、雄蕊の毛もやはりpollinationと関係があると考えるのが妥当です。雄蕊の毛があると受粉の効率が高まる理由として次にようなことが挙げられます。昆虫を惹きつける揮発性物質の分泌(Bulbine inflata では雄蕊の毛の細胞には多数の油滴(lipid droplet)がプラスチドや細胞質中に見られ、揮発性オイルが実際に分泌される。):視覚的な魅力(ネクタイ状の形状は昆虫を騙す効果を持つ):雄蕊の表面積を広くする(葯の下部を覆うように広がる毛は飛散する花粉の受け皿的な役目をして、昆虫と花粉との接触の機会を高める。)花糸の機械的な保護(花糸は極めて細いので、毛があることにより強度が増す。):葯から花粉を飛散させたりするための花糸の動きや振動を容易にする。ところで、実際に毛がある方が受粉効率が高いということは、Vanghton らが行った実験(2008)は一つの証拠になると思います。彼らは Bulbine vagans を用い、a.対象(cravat hairs と葯はそのまま)、b.毛はそのままで葯を除去したもの、c.葯と毛を除去したものについて昆虫(polinater)に訪問を目安にして観察したたところ、c.だけが 50% の現象が見られたということです。
こういう種類の実験は面倒でですが、御高校の生物クラブ(もしあれば)で調べてみてはどうでしょうか。
G. Vaughton, M. Ramsey, I. Simpson (2008) Does selfing provide reproductive assurance in the perennial herb Bulbine vagans (Asphodelaceae)? Oikos, 117: 390-398.
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ムラサキツユクサの雄蕊の毛は昔から原形質流動の観察によく使われていますが、一体何の働きをしているのか考えてみたことはありませんでした。そこで勉強のつもりで、関連する研究はないかと調べてみました。今のところ、ムラサキツクサ自体を扱った研究には行き当たりませんでしたが、他の雄蕊の毛を対象にした研究はありました。それらに基づいて説明致します。雄蕊の毛はどんな役割を担っているのかということについては、以前から様々な見解が出されているようですが、これらはいずれも憶測の段階のもので、実験的な証拠に基づくものではないようです。一般に生物の形状や色などの生理的/生態的意義を実証するのは難しいことです。雄蕊の毛は植物学的には植物の体表や花冠の表皮などに見られる毛(トライコーム:trichome:毛状突起)と同類で、表皮細胞から派生するものです(トライコームの一般的なことについては登録番号2283の記載を読んでください)。雄蕊に毛を持つ植物はムラサキツユクサ(ツユクサ科)以外にもかなりあります。アロエが属するツルボラン(Asphodelaceae)の Bulbine 属の植物の特徴の一つは雄蕊の毛(staminal hairs、hairy filaments)で、ネクタイ状(cravat type) が多く、線状のものもあるそうです。これらの形状がこの属の植物の分類の目安となっています。
ところで、植物の形状はその植物の生存と成長・繁殖にとって何らかの生理的/生態的意義を持つと考えてよいでしょう。特に花冠の場合は種子生産という植物にとっても最も重要な生活環の過程に関わります。多くの場合受粉を効率よく行うために昆虫の媒介は必須です。そこで、植物は昆虫(pollinaters) をいかに惹きつけるかで様々な工夫をしているわけです。このことを考えると、雄蕊の毛もやはりpollinationと関係があると考えるのが妥当です。雄蕊の毛があると受粉の効率が高まる理由として次にようなことが挙げられます。昆虫を惹きつける揮発性物質の分泌(Bulbine inflata では雄蕊の毛の細胞には多数の油滴(lipid droplet)がプラスチドや細胞質中に見られ、揮発性オイルが実際に分泌される。):視覚的な魅力(ネクタイ状の形状は昆虫を騙す効果を持つ):雄蕊の表面積を広くする(葯の下部を覆うように広がる毛は飛散する花粉の受け皿的な役目をして、昆虫と花粉との接触の機会を高める。)花糸の機械的な保護(花糸は極めて細いので、毛があることにより強度が増す。):葯から花粉を飛散させたりするための花糸の動きや振動を容易にする。ところで、実際に毛がある方が受粉効率が高いということは、Vanghton らが行った実験(2008)は一つの証拠になると思います。彼らは Bulbine vagans を用い、a.対象(cravat hairs と葯はそのまま)、b.毛はそのままで葯を除去したもの、c.葯と毛を除去したものについて昆虫(polinater)に訪問を目安にして観察したたところ、c.だけが 50% の現象が見られたということです。
こういう種類の実験は面倒でですが、御高校の生物クラブ(もしあれば)で調べてみてはどうでしょうか。
G. Vaughton, M. Ramsey, I. Simpson (2008) Does selfing provide reproductive assurance in the perennial herb Bulbine vagans (Asphodelaceae)? Oikos, 117: 390-398.
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2017-07-08
勝見 允行
回答日:2017-07-08