一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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気孔から農薬成分は吸収させるのか?

質問者:   会社員   くまさん
登録番号3805   登録日:2017-06-29
農家の方との会話の中で、「農薬を散布した場合、気孔から農薬成分が吸収させますか?」と問われ、回答ができませんでした。実際のところどうでしょうか。教えてください。
くまさん

本コーナーをご利用いただきありがとうございます。
回答は、植物栄養・肥料の分野がご専門の関本先生にお願いしました。
また、除草剤の吸収と移行にお詳しい松本先生のご意見も伺いました。

【関本先生・松本先生のご回答】
 気孔からの農薬成分の吸収は、基本的に水の動きと連動する(気孔から水が浸入することはありますか?登録番号3141 登録日:2014-09-03)と思われます。つまり、十分に蒸散がある場合は、蒸散流の力が植物から大気方向に働いているので、農薬成分が逆行して気孔を通して植物体内に入ることは難しいと思われます。一方、十分な蒸散流(根からの大きな水の移動)がない状態では、水ポテンシャル勾配に従って、気孔の穴に付着した水は気孔内に移動するでしょう。水に溶ける溶質(農薬成分)はこの水の動きに乗って、気孔内に侵入すると考えられます。

 しかし、葉に散布される農薬は、葉のワックスやクチクラ層の浸透性を重視して製剤されており、含まれる界面活性剤などが活性成分の浸透性を高めます。また、活性成分にも水溶性が高いものから低いものがあり、それらに基づいて、適切な剤形(液剤・水和剤・フロアブル剤・粉剤など)が工夫されています。このように、植物体内への農薬の浸透は、活性成分自体の水溶性や補助剤、さらに剤型の影響を受けると考えられます。

 以上、まとめると、気孔から農薬成分が吸収はありますが、前述したように限定的であり、多くは葉の表面のワックス・クチクラ層への浸透、さらには、拡散による細胞膜透過により吸収されると考えられます。

 関本 均(宇都宮大学農学部生物生産科学科)
 松本 宏(筑波大学生命環境系)
JSPPサイエンスアドバイザー
 庄野 邦彦
回答日:2017-07-13