一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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果物の皮と果肉の色の関係

質問者:   一般   おとうさん
登録番号3812   登録日:2017-07-06
6歳のこどもから「どうして果物の中にはミカンやバナナ、メロンのように皮を剥いたら同じような色のものもあるのに、リンゴやスイカみたいにまったく違う色のものがあるの」と問われ唸ってしまいました。

そもそも皮と果肉の関係性には共通する要因のようなものがあるのでしょうか。教えてください。
おとうさん さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

6歳のお子さんの疑問は自然のことでしょうね。おそらく「果物」とまとめてしまうと皆同じ作りではないかと思うからかもしれません。果物の種類は果物のなる植物種の変種、品種の数と同じだけあることになります。植物は種、品種が違うと全体の形や葉、花、果実などの形、色が違います。同じ種の花、果実でも品種が違うと色も形も違うことがたくさんあります。同じことは花(複合器官―器官の集まり)や果実を形作っている器官、組織の間にもあります。花だけを見ても、緑の萼、黄、赤、紫などの花弁、白/黄の軸(花糸)の上に茶褐色の葯(雄しべ)、白/黄の軸(花柱)先端に黄/橙の柱頭(雌しべ)と部分によって色が違います。これら種、品種による違いは、器官、組織、細胞において働く遺伝子の種類(組み合わせ)が違うからです。ある個体の各細胞がもっている遺伝子の種類は全く同じですが、全部の遺伝子が働いているわけではなく各細胞には交代で、働いている遺伝子、働いていない遺伝子、働いていても強く働くもの弱々しく働くものがあって個体全体の形作り、働き方の調節をしています。リンゴとナシはとてもよく似ていますが少しばかり働く遺伝子の調節具合が違うのでリンゴ果実の皮にはアントシアニンが作られますがナシ果実の皮には作られません。代わりにコルク質が出来るので茶褐色に色づきます。スイカは品種によって皮の色はほぼ同じでも果肉部分が薄赤いのと黄色いのがあります。果肉で働く遺伝子の働き方が違うからです。皮と果肉の色との間には関係がないことがおわかりだと思います。

ここで果実、果物、果肉と紛らわしい用語を使いましたので整理しておきます。果実とは、内部に種子を包み込んでいる構造体を指します。種子は子房の中の胚珠から出来ますので子房壁が種子を包む組織の主体となりますが、それ以外の組織が癒合している場合もあります。莢エンドウ、莢マメ全体が果実、中にあるマメが種子でいくつか入っています。イネ、ムギでは皮を被っている籾が果実で玄米に相当するのが種子です。果物とは、果実のうち、種子を包む組織が多肉化して肥大し、適当な糖分、酸分、香気分を含んで、乾燥せず動物に食べられて種子を散布するもの(液果)を指しています。多肉化して食べられる部分が果肉です。種子を包む多肉化した部分は花のいろいろの部分に由来します。子房壁は3層に分かれて外果皮、中果皮、内果皮となりますが、果肉となる部分には1)中果皮や内果皮(メロン、カキ、ブドウ)、2)花の下にある花托(リンゴ、ナシ)、3)内果皮の内側からでる毛(ミカン、オレンジ)、4)中果皮/内果皮と胎座(アケビ、トマト)、5)主に胎座(スイカ)など
があります。外果皮または花托の最外層が果物の「皮」となりますが、イチゴ、パイナップル、イチジクなどのように沢山の花が集合して1個の果物となっているものでは「皮」に相当する部分が明らかではありません。こうしてみると、果物の「皮」と「果肉」は同じ性質の組織ではないので、色づきに関しても関連のないことが分ると思います。

殆どの果物は未熟のときは緑色です。多量のクロロフィルとカロテノイドによりますが主に表面部分(外果皮)が緑色になります。果実の肥大成長が終わったときはまだ緑色ですが、成熟期に入るとクロロフィルの分解が始まり固有の着色が始まります。赤色系果物(リンゴ、イチゴ)では多くはフラボノイド/アントシアニン系色素が、黄色系/淡赤系果物(ミカン、オレンジ、スイカ)ではカロテノイドが生成蓄積しますがこの傾向は一般化出来ません。トマトのように果皮、果肉全体にカロテノイドが生成するものやスイカのように外果皮にはクロロフィル、中果皮/内果皮は無色、果肉(主に胎座)にはカロテノイド系の赤や黄色となるものがあります。

農水省では木本(樹木)になり、人が果肉を食べる液果を「果物」、草本にできる食用液果を「果菜」(野菜扱い)としています。トマト、スイカ、バナナは果菜としていますが生物学的には区別していません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-07-11