一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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紅葉現象

質問者:   その他   青木 良平
登録番号0388   登録日:2005-09-26
秋になると野山の木々が紅葉しますが、自分の知識の中では葉のクロロフィルが破壊されてアントシアンが形成されて赤くなると理解しているのですが、クロロフィルを破壊するのは秋の気温低下のみが要因なのでしょうか?
太陽光のうちのどこかの波長とかは影響ないのでしょうか?
人為的に秋以外に紅葉させることは可能でしょうか?

お教えください。
青木 良平 さま

紅葉の季節を前にしてタイムリーなご質問、ありがとうございます。

これから見られる山々の美しい紅葉はアントシアニンが葉に蓄積し、それからクロロフィールが減少する現象ですが、アントシアニンは蓄積せずクロロフィールが減少しそのために残ったカロテノイドによって黄色になる黄葉もあります。

ところで、葉が紅葉するとき何のためにアントシアニンを蓄えるのでしょうか?紅葉、黄葉しているハナミズキに太陽光程度の強さの光を照射すると、紅葉に比べ黄葉の葉緑体が失活しやすいことが示されています。葉の表側にある柵状組織に蓄積するアントシアンは太陽光の、特に青―緑スペクトル部分を吸収し、この組織の中にある葉緑体にあまり光が当らないようにして葉緑体を保護していると考えられています。これに対しアントシアンを蓄積しない黄葉では,照射された光が全て葉緑体に吸収されるため、光失活を受けやすいと思われます(Fieldら)。

太陽光の下で春から光合成を続けてきた葉の葉緑体も、秋になって気温が低下すると光合成活性が低下し始めます。太陽光は光合成に絶対に必要ですが、秋になってCO2固定反応を含めた光合成機能が低下すると、同じ太陽光の照度でも葉にとって光エネルギー過剰の(光が強すぎる)状態になります。過剰の光エネルギーは葉緑体で活性酸素を生ずるように作用し、これが葉緑体の機能をさらに低下させ、クロロフィールを分解する様になります。アントシアニンは葉の光合成をできるだけ長い期間継続させるため、太陽光の一部を吸収し、葉緑体が受け取る光エネルギーの量を過剰にならないようにしていると考えられます。

一般にクロロフィールが分解する(葉緑体が壊れる)前にアントシアニンが蓄積し始めます。このアントシアニン合成誘導の信号はまだ明らかにされていませんが、一般に太陽光照度の高いとき(晴天)、氷点にはならない程度の低温、軽度の水ストレスがアントシアニン合成(紅葉)を促進します。紅葉に光が必要なことは、一本のモミジでもよく見れば、紅葉の程度は太陽光を受けている側が早いことから容易に推定できます。これらの環境の組み合わせは葉緑体にとって光エネルギー過剰になりやすい状態であり、これが葉緑体の光エネルギー過剰による葉緑体失活を防ぐアントシアニン合成を促進するのは合理的であると思われます。

人工的に紅葉をさせる試みはあまり行われていませんが、上に述べた自然での環境条件組み合わせを考えて試みられてはいかがでしょうか。どの波長の光が有効であるかは可視部では特にないようですが、フラボノイド合成が紫外光によって誘導されることが多いため、紫外光も有効かも知れません。
JSPPサイエンスアドバイザー
 浅田 浩二
回答日:2009-07-03
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