一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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土壌中の菌である、アーバスキュラー菌根菌と白絹病の原因菌についてです。

質問者:   自営業   T.D.L.M.O.
登録番号3896   登録日:2017-09-05
私はプラスティックポットを用いて園芸をしています。
植物の根に対して有益な効果があるというアーバスキュラー菌根菌というものを知り、実験的に用土に混ぜてみました。
数ヶ月後に鉢底からわずかに見える用土を下から覗いた時に、小さな白い玉がいくつも固まった菌核のようなものが発生していました。
そういったものを初めて目にして、植物に害があるのではと不安になり、植物の病気などを調べていたところ、白絹病の菌核というものに似ていました。
白絹病だとすれば植物に害があるとのことで、すべて除去したのですが、アーバスキュラー菌根菌を土壌に混ぜたことも思い出し、何か関係がないかと気になりました。

そこで質問なのですが、アーバスキュラー菌根菌も菌核のような目視できるコロニーを形成することがあるのでしょうか?
もしコロニーを形成するとしたら、白絹病に似ているものでしょうか?
またそれらを識別する方法などはありますか?
そもそもですが、プラスティックポットでの植物栽培でアーバスキュラー菌根菌を用いることは有益なのでしょうか?
ご教授いただけましたら幸いです。
T.D.L.M.O 様

みんなのひろば植物Q&Aのコーナーをご利用下さいましてありがとうございます。
回答は菌根菌の研究を推進されておられる今泉(安楽)先生にお願いしました。下記のように非常に懇切丁寧な回答を頂きました。

【今泉(安楽)先生のご回答】
T.D.L.M.O.さん、アーバスキュラー菌根菌に興味を持っていただきありがとうございます。アーバスキュラー菌根菌(Arbuscular Mycorrhizal Fungi; 以下、AM菌)については、登録番号2786の秋山康紀先生の解説を参照していただければ、植物とAM菌による「菌根共生」が植物の生育にとって重要であることをご理解いただけると思います。

T.D.L.M.O.さんのプラスチックポット栽培で、(1)育てた植物の種類と生育状況、(2)使用した用土の由来、(3)混和したAM菌の由来、がわからないため、私の推測での解説となることをお許しください。

まず、白絹病発病の可能性について。白絹病は、マメ科、ナス科などの広範囲の植物種に感染する病原糸状菌です。使用した用土が庭や畑由来の土壌である場合、土壌中に残留していた白絹病の「菌核」が感染源となって植物を犯し、T.D.L.M.O.さんが見つけたような白い球状の菌核(形成当初は白色でやがて褐色に変化。土壌中で5~6年間生存可能)が形成された可能性があります。一度菌核が形成されると、その土は白絹病の感染源となりますので、以後のポット栽培には使わないことをお勧めします。

次に、AM菌が菌核様構造を形成するかについて。AM菌は、土壌中に「胞子」の形で存在していますが、宿主植物の根の存在を感知すると、「胞子」が発芽して宿主植物の根に感染します。AM菌は、根の内部へ「内生菌糸」を伸ばしながら感染し、根の細胞の内部に「樹枝状体」と呼ばれる共生器官を形成します。さらに、宿主植物の根を起点に、土壌中に「外生菌糸」を張り巡らせることで、土壌中の栄養分、水分などを吸収し、宿主植物の生育に貢献します。

ここで紹介した「内生菌糸」「樹枝状体」「外生菌糸」は、特殊な染色法(水酸化カリウム溶液による脱色後、アニリンブルー、黒インク染色液で加熱染色する方法が一般的)で感染根を染色して光学顕微鏡で観察しないと、その存在を確認することはできません。また、AM菌の「胞子」も肉眼で確認できないほど小さなものです。従って、T.D.L.M.O.さんのポットで見つかった白い菌核様の構造物は、AM菌由来のものではありません。

 上記を踏まえ、2つの菌についての質問の回答は以下の通りです。

1.白絹病菌とAM菌の感染形態は異なる。

2.白絹病は肉眼で確認できる菌核、AM菌根菌はアニリンブルーや黒インクなどで感染根を染色後、光学顕微鏡で観察することで、大まかに識別できる。

最後に、プラスチックポットでのAM菌の接種効果について。AM菌は、8割以上の陸上植物と共生関係を結ぶことができると言われています(AM菌が感染できない非宿主植物については、登録番号0600の宝月岱造先生の解説を参照してください)。また、AM菌の胞子は、土壌や園芸培土中にごく普通に含まれていますので、土壌や園芸用培土を使用して宿主植物をプラスチックポット栽培した場合、宿主植物はAM菌の恩恵を、ある程度受けていると考えられます。

AM菌が感染できない非宿主植物にAM菌を接種していた場合、AM菌の接種効果は得られません。他方、宿主植物にAM菌を接種し、土壌中のリン濃度が低い条件で栽培すると、プラスチックポット栽培でもAM菌の接種効果を見ることができます。低いリン濃度では、AM菌の「外生菌糸」が宿主植物の「第二の根」となり、土壌中のリンを吸収することで宿主植物の生育を助けてくれるからです。一方、土壌中のリン濃度が高い場合、宿主植物は自分の根でリンを十分に吸収できるため、AM菌との共生が必要ではなくなり、AM菌の感染も起こりにくくなります。

日本の一般的な土壌、園芸用培土などはリン濃度が高めであるため、AM菌の接種効果は見えにくいと考えられます。例えば、鹿沼土、バーミキュライト、川砂など、栄養分を含まない土壌資材をメインにして、宿主植物をプラスチックポット栽培してみると、AM菌の接種効果が見えやすくなるかもしれません。

 今泉(安楽) 温子(農業・食品産業技術総合機構 生物機能利用研究部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2017-09-20
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