一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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葉水について

質問者:   高校生   洋平
登録番号3922   登録日:2017-09-28
雨によって濡れた葉っぱから吸収された水分は光合成を行う際の水分として利用されるのでしょうか?それとも単に植物内の乾燥した細胞に吸収されるだけなのでしょうか?
洋平 様

このコーナーをご利用くださりありがとうございます。
光合成にはいろいろな形で水が関わっているので、「光合成を行う際の水分」との記述については不明瞭さを感じます。

ここでは【簡略化した光合成の反応式: 6CO2 + 6H2O + 光エネルギー →
 C6H12O6 + 6O2】に示される水(H2O)を意味するものとして回答させていただきます。

光合成において、水は有機化合物の合成に必要な電子の供給源(電子供与体)として使われています。光合成反応の中心的な場である葉緑体(真核生物の場合)の内部にはチラコイドと呼ばれる膜に囲まれた袋状の構造体が備わっており、水が電子供与体として光合成の反応系に関わって来るのはチラコイド膜の内表面に近い部位、膜を構成する「色素タンパク質複合体」内の触媒中心(Mn-クラスター)においてであります。チラコイドの内腔に存在する水は特定の分子的ルート(水素結合のネットワーク)を通って触媒中心に運ばれることになりますが、その前段階として、葉緑体のストロマ部分からチラコイド膜を通してチラコイド内腔へ、細胞質から葉緑体の外包膜を通してストロマ部分へなどと、何重もの膜系が介在する複雑な経路を通ってチラコイド内腔に供給されることになります。雨によって濡れた葉っぱの水が吸収されて葉の光合成組織を構成する細胞に取り込まれると、その水は、他の経路で細胞に取り込まれた水と区別されることなく、上述の膜系を経由して葉緑体チラコイド内腔に輸送されて光合成に利用されることになります。もし仮に葉面から吸収される水分が一次的に特定の細胞に貯蔵されるような仕組みがあったとしても、上に述べた事情は変わりません。

JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-10-09