一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物体におけるショ糖の生合成について

質問者:   その他   木場 康人
登録番号0393   登録日:2005-10-11
柿果実中の糖分の80%がショ糖といわれていますが、このショ糖は葉肉細胞の葉緑体で光合成CO2固定産物としてトリオースリン酸を経て細胞質でショ糖に変換されるようですが、柿果実にはグルコース、果糖が混在するのはショ糖ができ、これが分解して生じたものと考えてよろしいでしょうか。

また、このショ糖の合成は葉肉細胞と果実の両者で同時に進行し、果実内に蓄えられるものと考えてよろしいでしょうか。

また、初発物質としてグルコースからショ糖への生合成の経路も考えられますが、植物体内で実際に行われているのでしょうか。

調査不足、不勉強な質問かもしれませんが、よろしくお願い申し上げます。
木場 様

 柿果実中の糖分の由来について、なるべく分かり易くお答えしたいと思います。

 まず、木場さんは「柿果実中の糖分の80%がショ糖(スクロース)」と書かれていますが、成書で調べてみますと、必ずしもそうではないようです。柿果実中の糖分の含量も組成も、時期と品種によって大きく変動しているようです。確かに、「富有」、 「次郎」といった品種では、ショ糖含有率が80%程度になるようですが、40%前後のものも存在しているようです。これらは、ショ糖蓄積型品種と還元糖蓄積型品種に大別されています。

 果実では殆ど光合成ができないと考えてよいので、果実にある糖は、緑葉で光合成によって生産された糖に由来します。緑葉から果実へは、一般にショ糖が維管束を通って転流されていきます。柿もショ糖が転流糖として使われているようです。果実が肥大成長期(未熟果実)に転流されてきたショ糖は、そのままショ糖として蓄積するのではなく、デンプンに変換され果実内に蓄積されます。そのため未熟果実は甘くも、酸っぱくもないわけです。果実が成熟期に入ると果実内の代謝系に変換が起こり、蓄積していたデンプンを分解してグルコース、果糖を経てショ糖などにします。このデンプン分解にはフォスフォリラーゼ、アミラーゼと言った酵素が重要な働きをします。ここで再合成されたショ糖は液胞のような細胞内小器官に蓄積されるか、あるいはインベルターゼという酵素によって、グルコースと果糖へと分解されます。先に示したショ糖蓄積型品種では、インベルターゼ活性が低いのに対し、還元糖蓄積型品種では、この酵素の活性が高いことがその原因と考えられています。一般的に、果実の成熟期に、あるいは干し柿にすると果糖などの含量が高まるのは、このインベルターゼ活性により、ショ糖→グルコース+果糖という反応 が進んだからと考えられます。

 ショ糖はグルコースと果糖から出来ていますが、グルコース、果糖が直接ショ糖に変換されるのではなく、エネルギーを消費してUDP-グルコースと果糖6-リン酸(フルクトース6-リン酸)という前駆物質ができ、その後ショ糖リン酸合成酵素(スクロースリン酸シンターゼ)とショ糖リン酸フォスファターゼ(スクロースリン酸フォスファターゼ)という2種類の酵素の働きでショ糖ができます。この反応は、緑葉では活発で、転流のためのショ糖を合成します。この他、緑葉などではショ糖分解に働いていると考えられるショ糖合成酵素(UDP-グルコース + 果糖 →← ショ糖 +  UDP)があります。この酵素反応は可逆的に働きますので、ある組織ではショ糖合成に働くことが推定されています。ただし、柿の果実中で、これら二つのショ糖合成系の反応がどれくらい活発かという点については、残念ながら調べられませんでした。
北海道大学大学院理学研究科
 山口 淳二
回答日:2009-07-03
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