一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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クリプトクロムの紫外線受容の時と青色光受容の時の光応答について

質問者:   高校生   おまや
登録番号3943   登録日:2017-10-24
初めてこの場での質問をさせていただきます。高校1年です。よろしくお願いします。
私は部活で、レッドロビンという植物のアントシアニン合成に関係していると思われるクリプトクロムを調べていました。
クリプトクロムは紫外線と青色光の受容体ですが、クリプトクロムが紫外線を受けると、アントシアニンを合成するためにはたらくメカニズムは大体分かりました。その事について、私はこのアントシアニンの合成は紫外線を受容した時と青色光を受容した時のどちらでも同じように起こると思っていました。しかし、実験として、レッドロビンの赤色の若葉の、紫外線ランプ下や青色LEDランプ下での変化を確認したところ、葉の色の変化は、2つの環境でかなり異なりました。
ですので、クリプトクロムは、紫外線を受容した時と青色光を受容した時とでは、起こる光応答の種類が異なるのではないかと思ったので、異なるのかどうかについて教えていただきたいです。そうであるのであれば、具体的な種類についても併せてお願いいたします。
おまや様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問への回答を植物の光受容体についてご専門である大阪府立大学名誉教授徳富哲先生にお願いしました。

【徳富先生のご回答】
  おまやさん、高校1年でかなり専門的なことを調べておられますね。高校の教科書に出てくる植物の光受容体のうちでアントシアニンの合成に関わっているのは、青色光を受容するクリプトクトム、赤-遠赤色光を受容するフィトクロムです。青色光受容体としては他にフォトトロピンが出てくると思いますがこれはアントシアニン合成には関わっていないと考えられています。これ以外に、高校の教科書には出てきませんが、UVR8と呼ばれる紫外線受容体がアントシアニン合成に関与することが知られています。
  光の波長と色の話はどこかで調べて欲しいのですが、クリプトクトムは波長450nm(ナノメーター、10の9乗分の1メートル)付近に吸収ピークをもつ青色光吸収帯と、380nm付近に吸収ピークを持つ紫外吸収帯をもちます。そこでおやまさんは紫外線ランプや青色LEDを用いてそれぞれの効果を調べたのだと思います。ご存知かと思いますが、紫外線は長波長側からUV-A (波長 380–315 nm)、UV-B (波長 315–280 nm)、オゾン層に吸収されて地表にはほとんど届かないUV-C (波長 280–200 nm)からなっています。クリプトクトムは紫外線の中でもUVAの光受容体ということになります。これに対してUVR8は吸収ピークが280nm位にあり主にUVBの光受容体として働きます。
  ??さんが使われた紫外線ランプがどの様な発光波長特性をもっているかわかりませんが、かなりの紫外線がUVR8に吸収されててアントシアニン合成に働いていると考えられます。UVR8のアントシアニン合成系への関わり方は一部クリプトクトムのそれとオーバーラップしていますが、完全に同じではありません。クリプトクトム自身はUVAあるいは青色光を吸収しても同じ作用をするので、観察された違いはUVR8に吸収されたUVBのせいではないかと考えられます。
  これ以外に、クリプトクトムは光反応の途中で長波長側の緑色から赤色光を吸収する形に変化するので、もし用いた青色光LEDが緑色を含んでいると青色光の効果が部分的に阻害されます。この分が紫外ランプの結果との違いに効いてくる可能性もあります。用いるランプやLEDの発光特性が重要になります。さらに今回はあまり関係ないかも知れませんが、フィトクロムも赤-遠赤色光以外に青色光-UVA領域に第二吸収帯をもちます。高校の教科書あるいは参考書に吸収スペクトルが載っているかと思いますが、Prは380nm、Pfrは420nm付近に吸収ピークを持ちます。あまり問題にされませんがこの吸収による寄与も少しあるかもしれません。
  ご存知の様にアントシアニンは紫外線によるDNA損傷などの生体への悪影響を防ぐためのUVカットの役目をしています。したがって、降り注ぐ紫外線を様々な方法で検知して防御物質であるアントシアニン合成を始めると考えられています。

徳富 哲(大阪府立大学名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2017-11-27