一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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タンポポから出る赤色成分。

質問者:   高校生   ねこねこ
登録番号3949   登録日:2017-10-28
タンポポの根伏せでの繁殖を試みるために、タンポポの根を2㎝程に輪切りにし、湿った脱脂綿上に置いておきました。

すると、切って三日ほど経ったころに断面の中心の方が赤く染まっていました。

興味を抱き今度は、二㎝程度の根を半分に切りかまぼこ状の形にして同様の環境で、根伏せを行いました。

するとやはり切って三日ほどたったころに、かまぼこの底面にあたる部分をみると中心に赤い筋が現れていることが確認されました。

この赤い筋は一体何に因るものでしょうか。
ねこねこ様

 みんなのひろば植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
 とても面白い現象に気づかれましたね。感心しました。
 回答は二次代謝産物の代謝にお詳しい小関良宏先生にお願い致しました。

【小関先生のご回答】

タンポポの根を切ると白い汁のようなものが出てくるのがわかると思います。これはラテックス(乳液)と呼ばれているもので、これはタンパク質、炭水化物、油性成分、植物二次代謝産物、ゴム性化合物の混合物です。タンポポの根が傷つけられると、その傷口から雑菌が入ってくるのを防ぐために、その傷口から汁として分泌され、それが空気に(正確には酸素)触れると、ポリフェノールオキシダーゼという酵素が働いて、その汁の中に含まれる二次代謝産物を酸化し、さらにそれが重合していきます。これが二次代謝産物のみならず、ラテックスに含まれるタンパク質などとともに重合することで、高分子化してコーティング剤としての働きをするので、切り口から雑菌が入ってくるのが防がれるようになります。この高分子化した化合物が赤茶色になります。このポリフェノールオキシダーゼという酵素の遺伝子はタンポポだけでなく、多くの植物種において、その体が傷つくことで発現が誘導されるので、植物の重要な防御機構の 1 つとして働いています。またこのラテックスが分泌される部分はタンポポの根の全体ではなく、質問された方が観察されたように根の一部の、根の長径方向の器官で盛んに分泌されますので、その部分が特に赤く筋状に見えてきます。なお、このポリフェノールオキシダーゼ酵素遺伝子の発現は傷つけられてから 1 時間以内におこり、ポリフェノールオキシダーゼ酵素自身の働きも非常に早いのですが、ハッキリ人の目に赤くなるまで重合反応が進むのには時間がかかるので、切ってから数日経ってから目につくようになります。またタンポポで有名な二次代謝産物はクロロゲン酸と呼ばれる化合物で、タンポポコーヒーとしての風味とは主にこの物質によります。クロロゲン酸は重合する前の純粋な化合物としては色がない(昔は緑がかっているので「クロロ」の名前がつけられたそうなのですが、私が結晶として取った時には色はありませんでした)のですが、これが酸化されて重合すると赤茶色になります。タンポポコーヒーの茶色は、これはタンポポコーヒーを作る時にはタンポポの根を掘り出して切って乾かして、これをフライパンで炒ることで焦げた色をつけて、これをお湯だししているのでコーヒー色になっているのですが、もしも、これをフライパンで炒ることなく乾燥させただけですと茶色くないタンポポ茶になります。茶色のタンポポコーヒーにも茶色くないタンポポ茶にもクロロゲン酸は含まれています。

小関 良宏(東京農工大学大学院工学研究院生命機能科学部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2017-11-29
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