一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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アオダモの蛍光物質は何のため?

質問者:   自営業   なみふぇ
登録番号3950   登録日:2017-10-29
アオダモの枝を水につけ、UVライトにあててみると青い蛍光物質が出ているのが見れます。いろいろな枝でためすと、トネリコの仲間以外でもトチノキ、アジサイ、ニセアカシア、アカメガシワ、オリーブも出ました。でも冬は出ないようです。いったいこの青いのは何のためにあるのでしょう?UVライトは猫のおしっこ探しで売っていて、成分に共通点ってあるのですか?
なみふぇさん

植物 Q&A「みんなの広場」へようこそ。質問を歓迎します。
植物の系統と植物化学の関連を研究されている岩科司博士(国立科学博物館)に答えていただき、それを要約しました:
植物の作る物質で青い蛍光をもつ物質の代表的なものは芳香族(注:ベンゼン環を持つ化合物を芳香族化合物という)有機酸のカフェー酸とその誘導体が考えられます。これらはほとんどの植物で作られています。また実際にトネリコ属の植物からはカフェー酸を基本骨格とするエステルやその類縁化合物が報告されています。もうひとつ青い蛍光を出す物質としてはフラボノイド(基本構造として、2つのベンゼン環が3個の炭素の鎖でつながった一群の化合物、知られているものだけで9,000種以上)で、その中には花の淡黄色、橙色、赤色、青色、紫色などの発色に関連するものがあります。青い蛍光を出すフラボノイドはかなり稀なもので、トネリコ属植物も含め、モクセイ科の植物からは報告がありませんから、ご質問の蛍光物質はかなりの確率でカフェー酸の誘導体だと考えられます。クマリン(芳香族化合物の一種)もある特定の構造を持つと青い蛍光を発しますが、そのままでは水にほとんど溶けないので、アオダモの場合はクマリンではないような気がします。
何のためにその物質を出すかといわれるとなかなか難しいのですが、芳香族有機酸は特に糖を結合していなければ、多かれ少なかれ抗菌性がありますから、そのような目的かもしれません。

(櫻井追記)
 植物はさまざまな化合物を含んでおり、中には抗菌性のものや、酸化ストレスや植食性動物による食害、傷害などから身を守る役割をしているものがあります。蛍光を出すものもありますが、クロロフィルやカロテノイドなどの光合成色素の場合は蛍光を出すことにより光エネルギーの伝達に役立っていますが、その他の多くは、たまたま蛍光を出すような化学構造をしているだけで、蛍光に積極的な役割は認められません。
 なお、ネコのおしっこに含まれている蛍光物質はビタミンB2(リボフラビン)やその関連物質が主なもので、化学構造的にはアオダモの蛍光物質とは別のものです。


岩科 司(国立科学博物館)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2017-11-27