一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光合成産物としてのショ糖

質問者:   その他   吉澤紀章
登録番号0400   登録日:2005-10-18
・サトウキビがたくさんのショ糖を蓄積するのはどうしてでしょうか?

・ショ糖を蓄積する植物はサトウダイコン、ホウレンソウなどありますが、他にはどんなものがあるのでしょうか?傾向はあるのでしょうか?

・植物が光合成産物として、ショ糖で蓄積もしくはデンプンで蓄積するかは何に依るものなのでしょうか?

吉澤紀章 さん:

当学会の質問コーナーのご利用有り難うございます。
ご質問の大変難しい内容を含んでおり、残念ながら現在の知識で科学的に明快なお答えをすることが出来ないものです。

第一のご質問は「サトウキビは他の植物と違ってどうして大量にショ糖を蓄積するのか」とのことだと思います。「生物種の違いはどうして出来たのか」という現代生物学の重要な命題とも関連ある質問で、「どうしてか」を科学的に説明するに至っていないと思います。しかし、サトウキビやサトウダイコンは有用農作物ですのでこれら作物を専門対象として、ショ糖蓄積の「からくり」を研究しておられる研究者が農学領域におられるかも知れません。サトウキビであれば沖縄、サトウダイコンであれば北海道、秋田にあるどれかの農業試験場に専門家がおられるかも知れません。かなり一般的な説明になりますが以下の説明は何らかのお役に立つかと思います。

葉緑体内の光合成で二酸化炭素が固定され三炭糖リン酸(炭素数3個の糖にリン酸が結合したもの)が生産されます。三炭糖リン酸は二つの経路を辿ります。第1の経路は、葉緑体から可溶性基質(サイトゾル、細胞基質)側へ排出され、主としてショ糖リン酸合成酵素の働きでショ糖へ変換された後、分裂、成長など生物活性の高い組織・器官や貯蔵組織・器官へ運ばれます。ショ糖はすべての細胞のエネルギー源となりますので、葉、茎、根を問わずすべての組織・器官にありますし、ある程度「貯蔵」されています。第2の経路は、葉緑体内で三炭糖リン酸2分子が結合して六炭糖リン酸(炭素数6個の糖にリン酸が結合、ブドウ糖-1-リン酸など)となり、さらにデンプンへ変換されます。このデンプンを同化デンプンと呼んでいます。しかし、葉のデンプン蓄積は一時的なもので、夜間など光合成活性が低下すればブドウ糖などに分解され、葉緑体外へ排出、ショ糖を経由して各組織に輸送されます。
生物種の特徴はここで発揮されます。輸送されたショ糖は、成長、形態形成のエネルギーや原料として使用される他に植物では二次代謝産物と呼ばれる色素類、香気成分、アルカロイド類などや次世代の初期成長栄養源として高分子炭水化物、タンパク質、脂質に変換されて貯蔵器官(特殊に分化した葉、茎、根や果実、種子)に大量蓄積されます。この、「どこで」、「なにを」蓄積するかが植物種によって違ってきます。貯蔵炭水化物をとってみてもサツマイモ、ジャガイモなどはデンプン(ブドウ糖の高分子重合体)としますが、コンニャクではマンナン(マンノースの高分子重合体)、ゴボウ、ダーリヤなどではイヌリン(果糖の高分子重合体)として蓄積します。しかし、「どうしてか」は今の所それぞれ違った代謝調節機能が働いているから(今流に表現するなら遺伝子の働きがそのようにプログラムされているから)、としか言えない状態です。
一般的に単子葉植物では茎が非常に短いので葉が貯蔵器官となる例が多く、光合成細胞から運ばれてきたショ糖を葉や茎に蓄積する傾向があります。ネギ、タマネギ、ラッキョウなどでは貯蔵器官となっている部分(鱗茎、実際は葉が主)でもデンプンでなくショ糖が主として蓄えられています。サトウキビ(単子葉植物イネ科)やサトウダイコン(双子葉植物アカザ科)では転流されてきたショ糖がそのまま茎の柔細胞に大量蓄積したものですが、「どうして」なのか(どうしてデンプン、タンパク質などのような高分子にしないのか)は上に述べた通りのことになります。
この「からくり」として例えば「サトウキビ茎柔細胞ではデンプン合成酵素系が機能していないから」などといった作業仮設もあり得ると思いますが専門家を探すに至りませんでした。
JSPPサイエンスアドバイザー
 今関 英雅
回答日:2009-07-03