一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ヒガンバナの学名について

質問者:   一般   Ryohey
登録番号4045   登録日:2018-03-20
お世話になります。
わたしは、自分が栽培した植物をデータベースを使い纏めております。
その際、学名も調べて記入をしておりますが、昨年HPで見た「城下農園」さんからヒガンバナの球根を購入したのですが、城下さんも故平尾秀一氏の球根を増殖しているだけで、学名は判らないとの事でした。
「Lycoris sp.」としておこうかと思ったのですが、本来の学名と違ってはと、農水省の検索サイトで探したり、多くのサイトを探すのですが分かりません。
先日も、鹿児島県のフラワーパークに問い合わせしたところ「城下農園」やいくつかのサイトを紹介されただけで結局分かりませんでした。
多くの園芸品種が出回っているにもかかわらず、それらの学名が判るところがありません。
これら多くの園芸品種の「種小名」が判るサイトや書籍などがあるのでしょうか?
お手数をおかけしますが教えて頂ければ幸いです。
Ryoheyさん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

まず、「Lycoris sp.」について。Lycorisは「ヒガンバナ属」に属する植物全体を含み、身近なものではキツネノカミソリ、ナツズイセン、ヒガンバナ(マンジュシャゲ)などがよく知られています。栽培品種(園芸品種)は、これまでに無い形質を安定して示す品種を作成(育種)するために人為的に交雑、戻し交配を繰り返します。既存栽培品種間の交配、同属異種間交配、時には異属間の交配などが繰り返されると新品種が出来ても、由来系統が分からなくなっている、植物学的に調査して種小名を命名していない、あるいは由来系統を明記したくないなどの理由で種小名(およびそれ以下)をつけられない場合が少なからずあります。日本に多く自生しているヒガンバナは3倍体で種子をつけませんから育種親としては使用できません。その起源と考えられる2倍体のLycoris radiata var pumila(中国のみに分布)を一方の交配親として他の稔性のあるLycoris属(倍数体を含め)と交配を繰り返していろいろな園芸品種がつくられてきた(つくられつつある)ものと考えられます。育種過程が複雑になって最終的に出来た品種の育種経歴が分からないときや知られたくない場合に、属名 + sp. と表記されています。つまり、属は分かるが、種小名以下が分からない場合の表現です。Lycoris属では核型分析が日本、韓国の研究者によってかなり丁寧に調べられており、それらの結果によると、同一の核型をもっていても花の表現型が同一でないもの、花の表現型が同一であっても核型が微妙に異なることがあるようです。したがって新品種が得られてもその種小名をきちんと決定することが現段階で出来ない場合もあるでしょう。Ryoheyさんが購入された「ヒガンバナ」はLycoris 内で育種されたものでしょうがその育種由来(育種系統)が分からないから「Lycoris sp.」としている、と言うことになります。しかし購入時に品種名は分かっているはずですね。
国際栽培植物命名規約( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%93%81%E7%A8%AE )によれば園芸品種は育種母体の学名につづけて‘品種名’を表記することにしていますので、Lycoris radiata (var. radiata) ‘品種名’と記載できます。開発者は品種名を自由に命名できます。

 園芸品種の数は膨大です。属レベルでの品種学名データベースは限られた範囲であるようですので、それらを丹念に探すしか方法はないようです。しかし現在、分からない園芸品種の学名を探すのは開発者が関わらなければ、ほとんど不可能ではないでしょうか。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-04-18