質問者:
その他
山下邦明
登録番号4069
登録日:2018-04-17
富士山麓・山中湖畔でも結構大きなブナの木があります。ブナは紅葉し落葉するものと見てきましたが、先日山中湖湖畔で背丈が2m程度の木で、葉っぱは枯れているが落葉せず枝についたままになっている木を2か所で見かけました。落葉させないのはなぜでしょうか?感じとして樹全体が死んでいるようには思えません。宜しくお願い致します。
みんなのひろば
ブナで枯れ葉が落葉しないものあり
山下邦明さん
植物 Q&A「みんなの広場」へようこそ。質問を歓迎します。
植物生理学の視点から単純に考えると、葉の最も重要な機能は光合成ですから枯葉が枝に残っていようと落葉しようと大した差はないように思われますが、生態学視点からより深い意味付けがされています。
植物生態学が専門の久米篤博士(九州大学大学院農学研究院教授)に回答していただきました。
【久米博士のご回答】
枯れた葉が離れないで枝に残ることは枯凋性とも呼ばれています。これは、葉と枝をつなぐ基部に離層ができる時期が遅れるために生じます。ブナ科の落葉樹では、種、品種、個体の大きさ、枝の位置などによってこの性質が大きく異なることが知られています。一般的に、若木や、成木の樹冠内部の葉で枯凋性が生じやすいことが知られています。
(本コーナーでも既にいくつか関連した質問と回答がなされています。落葉については、既に「みんなの広場」でもいろいろな視点から質問と回答がなされていますのでこれらも参考にしてください:
・登録番号205落葉しない葉について、 登録番号526 柏の冬葉の状態について(進化の観点から植物生理生態学的に落葉についてより詳しく、解説しています)、登録番号326 落葉しない葉について(植物生理学的に落葉のメカニズムを解説しています)、登録番号2622 カシワの落葉について (これは、カシワに限らず、より包括的に枯凋性について解説しています)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
枯凋性があることで様々な利点があることが指摘されています。まず、冬季の強い寒風、あるいは塩分を含んだ風から冬芽を守る効果があること。特に冬芽周辺の風速は、葉が残っていることで大幅に低下します。結果として、風による物理的なストレスが緩和されるだけではなく、雪も周辺に集まるため、乾燥や低温が緩和されるという報告があります。また、特に海辺に分布するカシワの場合では、葉を落とさないことで落葉痕からの塩分の侵入も防げるという仮説が提案されています。
次に、枯れ葉を付けておくことで、シカなどの植食動物に食べられることを防ぐ効果があることが報告がされています。これは、栄養価が低く、美味しくない枯れ葉で大切な冬芽や枝を包むことで、より不味く感じさせるようにするということと、乾いた枯れ葉を食べるときにパリパリと大きな音がするので、(肉食動物に見つけられやすくなるため)その音を嫌がる効果があるという説です。
また、冬の間、樹上に葉を保持しておいて春になってから地上に落とすことで、葉の分解効率が高まり栄養塩吸収に有利に作用するという可能性が指摘されています。
いずれにしても、ブナ科などの落葉樹が冬に葉を落とさない性質は異常や病気ではなく、広く一般的に見られるものです。しかし、離層の形成は日長や温度環境に大きな影響を受けるため、その年によって落葉状況に大きな差が生じることがあります。
以上
植物 Q&A「みんなの広場」へようこそ。質問を歓迎します。
植物生理学の視点から単純に考えると、葉の最も重要な機能は光合成ですから枯葉が枝に残っていようと落葉しようと大した差はないように思われますが、生態学視点からより深い意味付けがされています。
植物生態学が専門の久米篤博士(九州大学大学院農学研究院教授)に回答していただきました。
【久米博士のご回答】
枯れた葉が離れないで枝に残ることは枯凋性とも呼ばれています。これは、葉と枝をつなぐ基部に離層ができる時期が遅れるために生じます。ブナ科の落葉樹では、種、品種、個体の大きさ、枝の位置などによってこの性質が大きく異なることが知られています。一般的に、若木や、成木の樹冠内部の葉で枯凋性が生じやすいことが知られています。
(本コーナーでも既にいくつか関連した質問と回答がなされています。落葉については、既に「みんなの広場」でもいろいろな視点から質問と回答がなされていますのでこれらも参考にしてください:
・登録番号205落葉しない葉について、 登録番号526 柏の冬葉の状態について(進化の観点から植物生理生態学的に落葉についてより詳しく、解説しています)、登録番号326 落葉しない葉について(植物生理学的に落葉のメカニズムを解説しています)、登録番号2622 カシワの落葉について (これは、カシワに限らず、より包括的に枯凋性について解説しています)
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枯凋性があることで様々な利点があることが指摘されています。まず、冬季の強い寒風、あるいは塩分を含んだ風から冬芽を守る効果があること。特に冬芽周辺の風速は、葉が残っていることで大幅に低下します。結果として、風による物理的なストレスが緩和されるだけではなく、雪も周辺に集まるため、乾燥や低温が緩和されるという報告があります。また、特に海辺に分布するカシワの場合では、葉を落とさないことで落葉痕からの塩分の侵入も防げるという仮説が提案されています。
次に、枯れ葉を付けておくことで、シカなどの植食動物に食べられることを防ぐ効果があることが報告がされています。これは、栄養価が低く、美味しくない枯れ葉で大切な冬芽や枝を包むことで、より不味く感じさせるようにするということと、乾いた枯れ葉を食べるときにパリパリと大きな音がするので、(肉食動物に見つけられやすくなるため)その音を嫌がる効果があるという説です。
また、冬の間、樹上に葉を保持しておいて春になってから地上に落とすことで、葉の分解効率が高まり栄養塩吸収に有利に作用するという可能性が指摘されています。
いずれにしても、ブナ科などの落葉樹が冬に葉を落とさない性質は異常や病気ではなく、広く一般的に見られるものです。しかし、離層の形成は日長や温度環境に大きな影響を受けるため、その年によって落葉状況に大きな差が生じることがあります。
以上
久米 篤(九州大学大学院農学研究院教授)
JSPPサイエンスアドバーザー
櫻井 英博
回答日:2018-04-27
櫻井 英博
回答日:2018-04-27