質問者:
大学生
ぽーりねら
登録番号4084
登録日:2018-04-27
クロロフィルa,bを調べているうちにクロロフィルcにたどり着きました。みんなのひろば
クロロフィルcの獲得
クロロフィルcは、フィトール鎖(吸収波長に関与する)を持たないという点で、構造的にa,bと大きく異なります。また、ケイ藻類・褐藻類はクロロフィルbを持たず、クロロフィルcを持つ一方で、緑藻類・種子植物はクロロフィルcを持たず、クロロフィルbを持ちます。
このようなことを知った上で、クロロフィルcの進化の過程に興味を持ちました。
そもそもクロロフィルcがどのようにして獲得されたのか、という事について教えて頂きたいです。
ぽーりねら 様
このコーナーをご利用くださりありがとうございます。
生物学科の学生さんには余計な説明となりますが、基礎知識の整理から始めることにします。光合成生物は、酸素発生の有無と起源となる共生関係に着目して、以下の(1)~(4)に分けられます(括弧内は代表的な分類群と含まれるクロロフィルの分子種(略号参照))-(1)酸素非発生型原核光合成生物:(狭義の光合成細菌-BChl a, b~g);(2)酸素発生型原核光合成生物:(シアノバクテリア-Chl a,b,d,f,DV-Chl a,b);(3)一次共生起源と考えられる葉緑体をもつ酸素発生型光合成生物-(灰色藻-Chl a)・(紅藻-Chl a)・(緑藻・陸上植物など-Chl a,b);(4)二次共生または三次共生起源と考えられる葉緑体をもつ酸素発生型光合成生物-(4-1):(クロララクニオ藻・ユーグレナ藻-Chl a,b);(4-2):(クリプト藻・ハプト藻・不等毛藻〈褐藻・ケイ藻など〉・渦鞭毛藻-Chl a,c)。
以上に示されるように、Chl cを持つ植物は、幾つかの分類群にまたがってはいますが、何れも紅藻を基本とした二次または三次共生が起源と考えられる生物の範囲に限られているようです。光合成生物の共生進化の視点では、Chl cを持つ植物が現れたのは進化のかなり後の段階であることになります。
一方、Chl類の生合成においては、四つのピロール構造が環状に連結して出来る骨格(π電子共役系)が、ポルフィリン➡クロリン➡バクテリオクロリンと変化して行きます。Chl cの環構造は、他のChl類やBChl類とは異なって、一連の合成段階の初期に相当するポルフィリン型です。Chl cは、化学構造からの推定では、他のChl類やBChl合成の前駆体の一つであるジビニルプロトクロロフィリドa(DV-Pchlide a)から、骨格構造のC17位の残基がプロピオン酸からアクリル酸に転換することで作られます(Chl c1の生成)。したがって、この反応段階を触媒する酵素があれば光合成生物の進化の初期(光合成細菌)の段階でChl cの合成が可能であったことになります。しかし、現在の知識では、Chl c合成能が獲得されたのは二次共生(上の説明での(4-2))の段階辺りであったように見受けられます。可能性としては、(A)たまたま二次共生に至った紅藻の系統に既にChl c合成能が備わっていたか、(B)進行する他生物の葉緑体化という細胞内の大事件に誘起されて二次共生の段階でChl c合成能が獲得されることになるなど、幾つかのシナリオが考えられます。しかし、現状では十分な実証が行われてはおりません。Chl cは光合成(チラコイド)膜上にあってタンパク質に結合して複合体(例えばケイ藻や褐藻の「フコキサンチン-Chl a/cタンパク質」)として存在していおり、この複合体は緑藻・陸上植物の集光複合体である「キサントフィル-Chl a/bタンパク質(LHC)」と類似しております。今後、Chl c合成に関与する酵素とChl cを結合して機能するアポタンパク質についての研究を軸に、課題解明への研究が進むものと期待しております。
(略語):Chl(クロロフィル);BChl(バクテリオクロロフィル);DV-Chl(ジビニルクロロフィル)
このコーナーをご利用くださりありがとうございます。
生物学科の学生さんには余計な説明となりますが、基礎知識の整理から始めることにします。光合成生物は、酸素発生の有無と起源となる共生関係に着目して、以下の(1)~(4)に分けられます(括弧内は代表的な分類群と含まれるクロロフィルの分子種(略号参照))-(1)酸素非発生型原核光合成生物:(狭義の光合成細菌-BChl a, b~g);(2)酸素発生型原核光合成生物:(シアノバクテリア-Chl a,b,d,f,DV-Chl a,b);(3)一次共生起源と考えられる葉緑体をもつ酸素発生型光合成生物-(灰色藻-Chl a)・(紅藻-Chl a)・(緑藻・陸上植物など-Chl a,b);(4)二次共生または三次共生起源と考えられる葉緑体をもつ酸素発生型光合成生物-(4-1):(クロララクニオ藻・ユーグレナ藻-Chl a,b);(4-2):(クリプト藻・ハプト藻・不等毛藻〈褐藻・ケイ藻など〉・渦鞭毛藻-Chl a,c)。
以上に示されるように、Chl cを持つ植物は、幾つかの分類群にまたがってはいますが、何れも紅藻を基本とした二次または三次共生が起源と考えられる生物の範囲に限られているようです。光合成生物の共生進化の視点では、Chl cを持つ植物が現れたのは進化のかなり後の段階であることになります。
一方、Chl類の生合成においては、四つのピロール構造が環状に連結して出来る骨格(π電子共役系)が、ポルフィリン➡クロリン➡バクテリオクロリンと変化して行きます。Chl cの環構造は、他のChl類やBChl類とは異なって、一連の合成段階の初期に相当するポルフィリン型です。Chl cは、化学構造からの推定では、他のChl類やBChl合成の前駆体の一つであるジビニルプロトクロロフィリドa(DV-Pchlide a)から、骨格構造のC17位の残基がプロピオン酸からアクリル酸に転換することで作られます(Chl c1の生成)。したがって、この反応段階を触媒する酵素があれば光合成生物の進化の初期(光合成細菌)の段階でChl cの合成が可能であったことになります。しかし、現在の知識では、Chl c合成能が獲得されたのは二次共生(上の説明での(4-2))の段階辺りであったように見受けられます。可能性としては、(A)たまたま二次共生に至った紅藻の系統に既にChl c合成能が備わっていたか、(B)進行する他生物の葉緑体化という細胞内の大事件に誘起されて二次共生の段階でChl c合成能が獲得されることになるなど、幾つかのシナリオが考えられます。しかし、現状では十分な実証が行われてはおりません。Chl cは光合成(チラコイド)膜上にあってタンパク質に結合して複合体(例えばケイ藻や褐藻の「フコキサンチン-Chl a/cタンパク質」)として存在していおり、この複合体は緑藻・陸上植物の集光複合体である「キサントフィル-Chl a/bタンパク質(LHC)」と類似しております。今後、Chl c合成に関与する酵素とChl cを結合して機能するアポタンパク質についての研究を軸に、課題解明への研究が進むものと期待しております。
(略語):Chl(クロロフィル);BChl(バクテリオクロロフィル);DV-Chl(ジビニルクロロフィル)
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-05-01