一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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三倍体オニユリと二倍体コオニユリの交雑による種の結実について

質問者:   一般   chuu
登録番号4089   登録日:2018-05-02
三倍体のオニユリは種を付けませんが、二倍体のコオニユリの花粉を付けると結実すると書かれています。

三倍体のオニユリに種ができる仕組みを教えてください。
三倍体オニユリはどの様に減数分裂するのでしょうか?
出来た種は二倍体の種になるのでしょうか?

以上よろしくお願いいたします。
chuuさん

植物 Q&A「みんなの広場」へようこそ。質問を歓迎します。
この回答は、大川安信博士(元農水省生物資源研究所)の紹介により、植物機能開発学が専門の山岸真澄博士(北海道大学大学院農学研究院)にお願いしました。
なお、みんなの広場には、この質問に関連したものとして既にいくつかが掲載されていますので、こちらも参考にしてください。
登録番号0352 種なしスイカ
登録番号1966 ヒガンバナやシャガなどの三倍体植物は花が咲いても種子はできないが、これでも種子植物に分類されるのか
登録番号2749 種なしスイカ、なぜ4倍体の花粉を用いないのか

【山岸先生のご回答】
 オニユリとコオニユリはいずれも日本を含む東アジアに自生するユリ(ユリ属)で、Sinomartagon節(亜属)に分類されます。同じ節のユリは交雑親和性が高いことが多く、オニユリとコオニユリからも種間雑種が得られますし、またこの性質を利用してSinomartagon節のユリから園芸品種のスカシユリが育成されています。なお、コオニユリは食用ユリとしても利用されており、日本で販売されている食用ユリはほとんどがコオニユリです。
 オニユリはコオニユリと姿・形がよく似ていますが、葉の付け根にムカゴをつけるので区別できます。国内では庭や道路沿いでよく見かけ、8月頃にオレンジの花が咲きますが、これらは全て三倍体で、通常種子をつけません。ムカゴで増えているようです。一方で朝鮮半島と我が国の対馬では二倍体のオニユリと三倍体のオニユリの両方が自生しており、これらの地域から三倍体のオニユリだけが日本各地や中国に広がったと考えられているようです。
 さて三倍体のオニユリと二倍体のコオニユリの交雑ですが、ご指摘のように二倍体を花粉親に用いると種子が得られます。三倍体は減数分裂できないはずですが、実際はメス側では減数分裂して稔性のある胚のう(雌性配偶子)ができます。一方、オス側の花粉管は発芽しません。しかし、二倍体を花粉親に用いたときは花粉管が発芽できるので種子は得られますが、その逆では得られません。
 
ユリの染色体は基本数が12本で2倍体の場合は2n=24本ですが、得られた雑種の染色体数を調べたところ26本から34本の異数体になっていました。2セットの染色体(24本)に加えて2から10本のよけいな染色体を持っていることになります。このことから予測すると、三倍体が減数分裂して12本(1セット)プラス数本の染色体を持つ胚のうができ(3本ある相同染色体のうち1本は片方の娘細胞に、1本はもう片方の娘細胞に、残りの1本はアットランダムにどちらかの娘細胞に分配される、このとき三価染色体ができているかどうかは観察していません)、これに花粉由来の12本が加わって異数体ができるようです。
 異数体の種子は発芽し、外見上は普通の個体のように成長します。しかし、花の形や特に葯の形状にしばしば奇形が見られ、花粉は不稔になります。異数体は、ムカゴや鱗片繁殖などで増殖できます。また、二倍体の花粉を用いれば種子が得られると思いますが、試したことはありません。



山岸 真澄(北海道大学大学院農学研究院)
JSPPサイエンスアドバーザー
櫻井 英博
回答日:2018-05-11