一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根粒菌のタンパク質生成について

質問者:   一般   Guu
登録番号4100   登録日:2018-05-09
マメ科植物の根粒菌が空気中の窒素を固定して植物に供給していることは有名ですが、ある園芸の本には、ソラマメの項で「マメ科の植物の根に共生する根粒菌は、空中窒素を固定してタンパク質を作ります。早春。ソラマメの茎葉が伸長すると、タンパク質などの栄養分が生長点に集まるので・・・」と記載されています。

この記載を額面通りとると根粒菌がタンパク質を生成し、それをマメ科植物が根より直接取得して利用していると取れます。
根粒菌が固定した窒素(アンモニア態窒素)を供給し、それを根より吸収して材料にしてタンパク質を作るのなら理解できるのですが、実際はどうなんでしょう?

編集の都合で文中の間の窒素~タンパク質のメカニズムが端折られたという印象なのですが、根粒菌がタンパク質を作り分子構造が大きいそれを植物が摂取できるのか疑問です。
Guuさん

質問者の疑問はもっともで、「根粒菌が固定した窒素(アンモニア態窒素)を供給し、それを根より吸収して材料にしてタンパク質を作る」をはじめとする理解は大筋で正しいです。この問題について生化学的にやや詳しく解説します。
根粒菌は窒素ガスを固定してアンモニアを合成しますが、これを、窒素化合物を必要としている地上部の器官に運ぶ必要があります。窒素栄養をもっとも必要とする器官は、成長期では成長点や葉で、結実期では種子です。高濃度のアンモニアは植物細胞にとって有害ですから、根ではアンモニアを毒性の無い低分子化合物に変換し、後者は導管の中を流れて地上部に運ばれ、地上部の細胞の細胞膜には、おそらくその化合物を選別して取り込むための輸送体があり、このようにして窒素栄養が必要な細胞に分配されると考えられます。質問者の指摘のように、タンパク質のような高分子の形で運ばれる割合は、たとえあったとしてもきわめて低いでしょう。
マメ科植物では、導管を運ばれる窒素化合物は、窒素(N)対炭素(C)の比率が高い低分子で、比較的高濃度で検出されるものとして次のようなものが知られています:グルタミン(H2NCOCH2CH2CH(NH2)COOH)やアスパラギン(H2NCOCH2CH(NH2)COOH)(注:グルタミン酸HOOCCH2CH2CH(NH2)COOH、アスパラギン酸HOOCCH2CH(NH2)COOHと比較してください)、ウレイド類(注:分子中に尿素(ウレア)H2NCONH2の骨格を含む化合物で例えばウレイドプロピオン酸H2NCONHCH2CH2COOH)、アラントイン(C4H6N4O3)とその類縁化合物など。マメ科植物で輸送される窒素化合物の種類と濃度は、植物種、植物の生育時期、土壌や水分から得られる窒素化合物の量などにより変動することも報告されています。運ばれた窒素化合物は、前述のように、成長点、葉、種子などの細胞に取り込まれ、各種アミノ酸、タンパク質、ヌクレオチド(核酸など)、クロロフィルなどの合成に利用されます。
 


櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-05-29
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