一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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花弁・萼片を退化させた植物の出現年代を調べるには?

質問者:   一般   ?いっぱい子
登録番号4183   登録日:2018-08-03
4164 ヒトリシズカの花は進化した花? を投稿しました ?いっぱい子です。
ご回答ありがとうございました。紹介していただいた「陸上植物の進化」を読み、また、質問したいことがでてきました。

①ヒトリシズカの例にならって、カツラ、フサザクラについても兄弟はユズリハ科、従妹はマンサク科と調べ・・・・納得できました。
その際、先生のホームページを開いて近縁な植物がすぐに見つかり、助かりました。
APG分類の書籍は高いし、難しそうだから買ってなかったです。
「祖先がどんな形をしていたかは、近縁な植物がどんな形をしているかで推定できる。」
「進化は複雑なものから単純なものへと進む。」ということで、花弁や萼片を失ったのだ ということですね。

②センリョウ科・フサザクラ科・カツラ科は中生代白亜紀頃(?)にこの地球に出現。新生代第三紀頃(?)に出現したマツムシソウ目・キク目・モチノキ目などには、花弁や萼片を失った植物はあるのでしょうか?
 フサザクラ、カツラは風媒花で風散布種子なので、近縁の種と違い、花弁・萼片の必要性が低かった。センリョウ科は自家受粉、閉鎖花、地下茎(?)などの手段をもち、花弁・萼片を退化させた。と言えるような気がします。が、いかがでしょうか?

③シダの講座に出席した時、科の分岐年代が一目で分かる系統表をいただきました。
「陸上植物の進化」マツムシソウ目~アンボレラ目の系統樹の横軸に古生代~新生代 ~紀が記載されていたら、眺めていて楽しいだろうなあ。なんて思っています。そのような資料があるはずだと思って探しているのですが、見つけられません。

まとまりませんが、今の私に考えられるのは、こんなところです。
先生のお陰で、APG分類に少し、馴染めてきた気がします。
が、やっぱり膨大過ぎて・・・・・・・。溜息がでちゃいます。
本当にありがとうございました。 
?いっぱい子様

質問コーナーへ再度ご来場ようこそ。大歓迎です。早速前回の回答者の長谷部光泰先生(自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生物進化研究部門教授)に以下のような丁寧な解説をいただきましたので送ります。これからも植物観察を続け、ますます植物への理解を深めてください。そして、疑問が湧いてらまたご来場ください。

【長谷部先生のご回答】
①「進化は複雑なものから単純なものへと進む。」ということで、花弁や萼片を失ったのだ ということですね。

進化は「複雑なものから単純なものへと進む」こともあるし、「単純なものから複雑なものへと進む」こともあります。両方ともあるということです。


②センリョウ科・フサザクラ科・カツラ科は中生代白亜紀頃(?)にこの地球に出現。新生代第三紀頃(?)に出現したマツムシソウ目・キク目・モチノキ目などには、花弁や萼片を失った植物はあるのでしょうか?

センリョウ目、フサザクラ目、カツラ目の祖先は、白亜紀に起源すると推定されています。ほとんどの被子植物の目は白亜紀に起源していて、マツムシソウ目、キク目、モチノキ目もセンリョウ目、フサザクラ目、カツラ目より遅れますが、白亜紀に起源しました。被子植物の目の分岐年代を研究した下記の論文がありましたので
Bell, C.D., Soltis, D.E., and Soltis, P.S. (2010). The age and diversification of the angiosperms re-revisited. Am. J. Bot. 97: 1296-1303.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.3732/ajb.0900346 <https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.3732/ajb.0900346>
日本語に翻訳したものを http://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/03_angiosperms.html <http://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/03_angiosperms.html> に紹介しておきました。

フサザクラ、カツラは風媒花で風散布種子なので、近縁の種と違い、花弁・萼片の必要性が低かった。センリョウ科は自家受粉、閉鎖花、地下茎(?)などの手段をもち、花弁・萼片を退化させた。と言えるような気がします。が、いかがでしょうか?

ガク片と花弁はしばしば区別が付きにくい場合があるのでまとめて花被と呼ばれます。花被は、「生殖に関わる雄蕊と雌蕊の保護」と「花粉媒介昆虫の誘引」の両方の機能を担っています。アブラナ目のように、ガク片と花弁がそれぞれ1輪となって明確に区別できる種ではガク片は生殖に関わる雄蕊と雌蕊の保護、花弁は花粉媒介昆虫の誘引に働いています。無花被になると、花被を作るのに使っていた栄養を雄蕊や雌蕊に回すことができるメリットがあります。しかし、無花被になるには、花被以外の器官が上記2つの機能を担ったり、機能が不要になる必要があります。
フサザクラやカツラではお考えのように、風媒になって「花粉媒介昆虫の誘引」をする必要が無く、苞が雄蕊や雌蕊を保護しています。センリョウ科では、苞が雄蕊と雌蕊の保護の働きをしています。また、雄蕊はカップ状になって雌蕊を保護するとともに、白くなったり色づいたりして昆虫を誘引しています。

ご指摘の自家受精、閉鎖花、地下茎は「花粉媒介昆虫の誘引」をしなくても繁殖できるので有利です。しかし、有性生殖ができないと、遺伝的多様性が減って、病原菌の進化や気候変動などに対抗できないので不利です。なので、これらの理由で花被を失うことは無いように思います。センリョウ科の場合、自家受精は可能なのですが、雄蕊と雌蕊の成熟する時期を変えるなどして他花受精をしようとしているようです(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10640680/ <https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-10640680/>)。



長谷部 光泰(自然科学研究機構基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2018-08-04
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