一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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おくらのにおいについて

質問者:   一般   Hippo
登録番号4199   登録日:2018-08-15
今、子供がおくらを育てています。最近、収穫ができるようになり、子供が喜んで取りにいったのですが、「おくらが臭い!臭い!なんか猫のオシッコみたいなにおいがする!」と大騒ぎです。確かに濃いオシッコのような、なんとも言えない匂いがします。あれこれ調べたところ、他にもおくらが臭いと検索している方は居ましたが、具体的にどういった物質なのか、どうして臭いのかなどは出て来ません。臭いのは新鮮な証拠というくらいしか答えはなく、わかりません。子供も夏休みの研究でおくらの観察をしていて知りたいとのことですので是非よろしくお願いします。
Hippo様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。オクラの成長を観察する夏休みに研究というのは、実がなれば食べられるし、一石二鳥ですね。でも猫のオシッコのような臭いがするというのは、食欲を減じてしまいますね。私もオクラは好物でよく食べますが、そういう臭いを感じたことは一度もありません。そこで、ネット上で調べたところ、確かに、変な臭いがすると報じている人がいました。アメリカでも、もっと変な臭いに似ているとジョークみたいなことを書いている例のありました。匂いを感じるというのは個人によって一様ではありません。同じものに対しても、人によって様々に感じとられるようです。もっとも、大まかにはある程度共通のカテゴリーの匂いに分類することはできます。しかし、私たちが感じ取る様々な食べ物からの匂いは、ほとんどの場合、ある一つの物質にだけに由来することはなく、それらに含まれす様々な物質の複合的な匂いです。それによってそれぞれの種類の食べ物が特徴付けられるのです。ところで、オクラ(果実)を特徴付ける匂いとその原因となる物質は何かは残念がら明確にはわかりません。果実をもぎ取って匂うということは、その果実(オクラの実も植物学的には果実です)が揮発性の物質を出していることを意味します。事実、香り高い柑橘類や、バナナ、リンゴなどなどの果実、あるいはバジル、タイム、オレガノ、ロズマリーなどの香草などなどは、そのような揮発性物質が知られています。そこで、いろいろ文献を調べてみましたところ、J.M.Ames and G.Macleod という著者の「Volatile components of okra (オクラの揮発性成分)」という論文(1990年)がありました。化学的分析の論文なので、関係ありそうなことだけを紹介します。オクラの匂いの成分を抽出して分析すると、148種類の成分が同定され、もっとも多かったのは16種のテルペン化合物で、全体の約27%をしめています。テルペン化合物については本コーナー登録番号3268の回答の中の説明を読んだください。オクラではこれらのテルペン化合物の中で5種類のシトロネルエステルが約17%ありました。シトロネルエステルは「アロマ」製品として市場に出回っています。抽出物の中で単独化合物として一番多量(9.3%)に含まれていたのは、一般にクレソールと呼ばれる化合物です。これは消毒剤として使われています。また、他にピロールと呼ばれる仲間の化合物が18種類あるそうです。ピロールは赤血球のヘモグロビン分子や植物の葉緑素分子の主要構造をなす物質ですが、これが尿にたくさん排出されると「ピロール尿症」という病気ということになります。
 以上のことを考えると、全くの推測ですが、オシッコ臭いという臭いは、たまたまその時に収穫したオクラが少し多く揮発していたクレソールかピロール化合物のせいかもしれません。あるいは、新鮮な青い野菜に多く感じる「青臭い」という臭いも一緒になって、独特な臭いを感じたのかもしれません。いずれにしろ揮発性の物質が強く感じられるのは、いわゆる果物(くだもの)が熟成する過程で出すものは別にして、野菜などの青物(オクラは野菜に分類されます)は収穫直後ですから、それは新鮮な証拠となるでしょう。


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-08-17