一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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切花の水に酢を入れる

質問者:   一般   KAZU
登録番号4215   登録日:2018-08-27
5年生の娘が自由研究で3年生の時から切花が長持ちする水の種類について調べています。始めは色々な液体で毎日入れ替えず実験し、翌年は毎日入れ替えて、今年は濃度を変えたりして調べています。それで2年前から試している酢は茎がすぐに折れて薄茶色になるのに花は長持ちしていました。本で導管が詰まると折れるということを学びましたが、酢はどうして折れて茎が枯れたような色になるのに花は綺麗なままなのでしょうか?花はカーネーションを使っていますが花の色も薄くなりました。
KAZU様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
お嬢さんが毎年根気よく、自分で考えた植物の実験を続けていらっしゃるのはとても素敵なことですね。おそらく切り花を長持ちさせるにはどうすれば良いかという疑問との関係があるのでしょう。それに関連して本コーナーにも幾つかの質問が寄せられています。「水揚げ」という項目で検索してみてください。参考になると思います。
さて、花が枯れる、あるいは萎れるには少なくとも二つの大きな要因があります。一つは今述べた「水揚げ」です。切り花では茎の切り口から道管を通って水が吸い上げられ、花を作っている細胞に供給されます。植物(特に草本植物)では体の細胞が十分に水を吸っていないと、風船の空気が足りない時のように、ふにゃふにゃになります。ちゃんとした体型を保つためには、植物はいつも水ぶくれでいないといけないのです。道管の中を水が吸い上げられていくには、水を吸い上げる力が入ります。道管は非常に細い(直径1/100 ~1/10mm単位)管なので、いわゆる毛細管現象である程度(距離)までは水を吸い上げますが、通常切り花の茎の切り口から花まではそれだけでは吸い上げられません。道管の中の水は葉や花の細胞まで切れ目なく繋がっており、最後は葉や花の気孔という小さな孔から空気中へ蒸発していきます。これを「蒸散」と言います。この蒸散が水を吸い上げる力を生み出します。葉からの蒸散作用があるから高い木でも上まで水を吸い上げることができるのです。本コーナーで「蒸散」という項目で検索して調べてください。道管の中の水は下から(根がある場合は根から葉まで)上まで切れ目なく繋がっていなければなりません。従って、途中で空気が入ったりして水柱が切れると、水の吸い上げは起きません。切り花の茎を水中で切るのもそれを防ぐためです。もう一つの要因は花の老化です。これには植物ホルモンの一つであるエチレン(気体です)が関係しています。(エチレンや植物ホルモンの事は項目で検索してください。)エチレンは花に限らず、植物の器官や組織の老化を進めます。園芸屋さんで売っている花瓶に入れると花持ちを良くする薬剤などは、このエチレンの発生を防いだり、除いたりする働きがあるものが多いです。
以上前置きが長くなりましたが、お嬢さんの実験の結果について考えてみましょう。
実のところ、この実験の具体的な仕方の説明がないし、また映像を見られませんので、私としては自分なりの想像に頼ることとにします。まず花は綺麗なままだったということですので、おそらく水揚げはうまくいっていたのでしょう。また、老化も進んでいなかったのかもしれません。ただ花の色が薄くなったというのは、老化の始まりと関係あるかもしれません。「茎が折れる」のはアスパラガスの下部がポキット折れるように折れるのか、だらっと折れるのか分かりませんが、色が変わっているというのであれば、酢液に浸かった茎の組織は柔らかくなっていて、多分死んでいるのではないでしょうか。酢はかなり酸性度が強いので、植物にとっては阻害的になることが多いです。本コーナーにも酢を使った実験に関する質問がたくさんあります。例えば、登録番号2505,3410,3557など。ぜひ読んでください。
しかし、このように酢液に浸かった茎の組織が死んでしまうことは、上部の組織が生きているならば、また、死んだ箇所でバクテリアの繁殖などが起こっていなければ、水揚げにはかえって好都合なのです。答えは登録番号2163,3553を参考にしてください。
質問中「道管が詰まると折れる」というのは、どういうことなのかはっきりしません。道管が何か異物やカビなどの繁殖で詰まってしまえば、空気が入った時と同じで、水揚げはできなくなります。ただ道管は一本だけではありませんで、全部が異物で詰まらなければそうはなりませんが。また、折れるというのはどんな風におれるのでしょうか。ところで、濃度を変えて実験するのはいいことですが、それぞれ何本のカーネーションを使いましたか。何かを比較するような生物の実験では、形もサイズも生理的条件も、さらには遺伝子の組成さえも、均一な材料を使います。勿論家庭で行う実験ですからそんなに厳密なことはできませんが、仮に一本ずつだけだと、カーネーションへの影響が、例外的であったのかもしれないからです。もし複数のカーネーションを使って、それが全部かほとんど大部分同じように影響を受けたとなると、信憑性は高くなります。これからも色々工夫して実験を続けてください。実験を思いついたら、同じようなことを他の人たちがすでにやっていないかどうか、ネットや本コーナーなどで調べてみてください。役に立つ情報が得られますよ。


勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-08-30