質問者:
会社員
みやけ
登録番号4221
登録日:2018-09-01
経緯果実はなぜ丸いのか
先日、会社の福利厚生の一環として自社で育てている葡萄が支給されました。
その際に葡萄の玉が2つくっついている変異体を見かけたのがきっかけです。
私はこれを見て2つの玉がくっついてしまったことよりも、(葡萄だけに限りませんが)果実はなぜ球形をデフォルトの形状として選んだのか不思議に感じました。
葡萄は空中に結実するものですからふつうに考えれば重力に従い縦長に育ちそうなものなのですが、実際は丸いです。
ということで、果実はなぜ丸く育つのか回答お願いします。
みやけさん
「みんなのひろば」植物Q&Aへようこそ。質問を歓迎します。
ヒトが食用にする果実、果物、果肉などは、世間一般では、木本植物、草本植物を問わず、「果実」とよばれています。「果実」は、植物発生学的、形態学的には起源が異なるものを一くくりにした用語です。(果実、果物、果肉の詳しい解説は、植物Q&Aで「果肉」で検索し、登録番号3812「果物の皮と果皮の色の関係」を見てください。ここには、果肉となる部分として、1)中果皮や内果皮(メロン、カキ、ブドウ)、2)花の下にある花托(リンゴ、ナシ)等々いろいろな例が説明されています)。今回の回答では、世間で広く使われている「果実」について答えます。
植物にとって命をつなぐ次世代の植物を残すことは絶対的に必要です。また、生息域の拡大も重要です。一部の植物は動物の力を借りて生息域を広げています。たとえば、おいしそうな「果実」をつける植物は、それを食べた動物が果肉の部分から栄養をとり、硬い種皮に覆われて消化しにくい種子の部分は糞として捨てることより、植物の生息域を広げることに利用しています。果実をつける植物が生育域を拡大することは、それを食べる動物集団にとっても有利です。多くの果実は、動物をひきつけるために、種子が成熟する時期になると果肉に糖類を蓄え、また注意を喚起するために色づき、芳香を出すものもあります。
果実は果皮に覆われていますが、果皮を作るにもワックス、セルロースなどの資材の投入が必要です。中心部分に1個ないし少数の種子を持つものでは、一定体積のものを包むのに表面積が最小となるのは球形であり、野生植物の中にもリンゴやヤマブドウのように果実がこの戦略に沿って球形をしているものも多くあります。なお、果肉の部分も、大部分は細胞組織からできており、単なる液体ではないので、中身が解凍すると外形が西洋ナシ状になるアイスボンボンとは違います。果実が球形ではなく、ナワシログミ、サルナシ(キイウィフルーツの近縁種)、シイの実のように楕円形(回転楕円体形)や弾丸型をしたものもの多くあります。栽培植物は、野生植物の中からヒトが利用価値のあるものを選び、様々な変異のあるものの中からヒトにとって好ましい性質を持つものを選抜し、品種改良したものです。ヒトが利用する場合は、同じ球形でも、表面積は半径の2乗、体積は3乗に比例するので、半径が2倍になれば、表面積は4倍、体積は8倍になります。果実の皮や種子の部分は食べずに捨てることが多いので、栽培品種では、大きい果実は見栄えがいいばかりでなく、果肉の部分が多く実質的です。ブドウを例にとると、ヤマブドウの実は小粒で果肉は少なく種子の部分が相当な体積を占めますが、栽培品種は粒が大きいので、ヤマブドウとほぼ同量の種子を持っていても、果肉の部分が大きな割合を占めます。
一方、キウリ、ユウガオ、キイウィフルーツのように、内部に多数の種子ができるものでは、果実の長さが長くなれば収納できる種子の数も増えるので、原種に近いと考えられる植物の果実は、楕円形、棒状、球形などさまざまな形のものが多くあります。スイカは、日本では球形が主流ですが、中近東、欧米の市場の写真を見ると、楕円形のものがほとんどです。メロンの原種はマクワウリと近縁だと考えられますが、栽培品種では、消費者に好まれ、箱に収納するにも便利な球形の方向に品種改良されています。なお、キウリやナスなどは、皮の部分も食用にするので、球形に向けた品種改良の利点はありません。
「みんなのひろば」植物Q&Aへようこそ。質問を歓迎します。
ヒトが食用にする果実、果物、果肉などは、世間一般では、木本植物、草本植物を問わず、「果実」とよばれています。「果実」は、植物発生学的、形態学的には起源が異なるものを一くくりにした用語です。(果実、果物、果肉の詳しい解説は、植物Q&Aで「果肉」で検索し、登録番号3812「果物の皮と果皮の色の関係」を見てください。ここには、果肉となる部分として、1)中果皮や内果皮(メロン、カキ、ブドウ)、2)花の下にある花托(リンゴ、ナシ)等々いろいろな例が説明されています)。今回の回答では、世間で広く使われている「果実」について答えます。
植物にとって命をつなぐ次世代の植物を残すことは絶対的に必要です。また、生息域の拡大も重要です。一部の植物は動物の力を借りて生息域を広げています。たとえば、おいしそうな「果実」をつける植物は、それを食べた動物が果肉の部分から栄養をとり、硬い種皮に覆われて消化しにくい種子の部分は糞として捨てることより、植物の生息域を広げることに利用しています。果実をつける植物が生育域を拡大することは、それを食べる動物集団にとっても有利です。多くの果実は、動物をひきつけるために、種子が成熟する時期になると果肉に糖類を蓄え、また注意を喚起するために色づき、芳香を出すものもあります。
果実は果皮に覆われていますが、果皮を作るにもワックス、セルロースなどの資材の投入が必要です。中心部分に1個ないし少数の種子を持つものでは、一定体積のものを包むのに表面積が最小となるのは球形であり、野生植物の中にもリンゴやヤマブドウのように果実がこの戦略に沿って球形をしているものも多くあります。なお、果肉の部分も、大部分は細胞組織からできており、単なる液体ではないので、中身が解凍すると外形が西洋ナシ状になるアイスボンボンとは違います。果実が球形ではなく、ナワシログミ、サルナシ(キイウィフルーツの近縁種)、シイの実のように楕円形(回転楕円体形)や弾丸型をしたものもの多くあります。栽培植物は、野生植物の中からヒトが利用価値のあるものを選び、様々な変異のあるものの中からヒトにとって好ましい性質を持つものを選抜し、品種改良したものです。ヒトが利用する場合は、同じ球形でも、表面積は半径の2乗、体積は3乗に比例するので、半径が2倍になれば、表面積は4倍、体積は8倍になります。果実の皮や種子の部分は食べずに捨てることが多いので、栽培品種では、大きい果実は見栄えがいいばかりでなく、果肉の部分が多く実質的です。ブドウを例にとると、ヤマブドウの実は小粒で果肉は少なく種子の部分が相当な体積を占めますが、栽培品種は粒が大きいので、ヤマブドウとほぼ同量の種子を持っていても、果肉の部分が大きな割合を占めます。
一方、キウリ、ユウガオ、キイウィフルーツのように、内部に多数の種子ができるものでは、果実の長さが長くなれば収納できる種子の数も増えるので、原種に近いと考えられる植物の果実は、楕円形、棒状、球形などさまざまな形のものが多くあります。スイカは、日本では球形が主流ですが、中近東、欧米の市場の写真を見ると、楕円形のものがほとんどです。メロンの原種はマクワウリと近縁だと考えられますが、栽培品種では、消費者に好まれ、箱に収納するにも便利な球形の方向に品種改良されています。なお、キウリやナスなどは、皮の部分も食用にするので、球形に向けた品種改良の利点はありません。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-09-04