質問者:
会社員
suzu
登録番号4241
登録日:2018-09-23
種子の発芽の仕組みは、アブシジン酸とジベレリンの働きによって説明できると思うのですが、じゃがいも、さつまいも、タマネギなどの発芽の仕組みについて
地下茎や球根などから発芽する植物ではどのような仕組みになっているのでしょうか?
サツマイモなどを観察してますと、適温になれば発芽するので、発芽抑制ホルモンであるアブシジン酸などは関係ないのかな、と思いました。
また、タマネギでは個体によっては収穫後すぐに発芽するものありよく分かりません。
suzuさま
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ジャガイモ、サツマイモ、タマネギなどは家に置いておくと知らぬ間に芽が出てしまうことがありますね。栽培農家や販売業者は芽が出てしまうと売り物にならないので、そうならないよう貯蔵管理に気を配っているようです。
さて、作物植物のそれぞれの生理現象については栽培/園芸学関係の事柄でもありますので的確なお答えはできませんが、植物生理学的な見地から一般論として回答いたします。まずタイトルに挙げられた3つの植物の器官は、それぞれに全く別個のものであることはご承知かと思います。ジャガイモは茎(塊茎)、サツマイモは根(塊根/塊状根)、タマネギは葉条(鱗茎)です。したがって、ジャガイモの芽は普通の植物で言えば茎の先端にある頂芽(茎頂)の他に葉の付け根にできる側芽の両方があります。だから芽の配列は葉序(登録番号0838,1912など参照)に従っています。
また、ジャガイモの頂芽の部分は普通の葉条の頂芽の場合と同じように頂芽優勢(登録番号1913, 2586参照)を示します。サツマイモは塊根の主に上部付近から通常の頂芽に相当するものが分化してきます。タマネギは茎の節間が著しく圧縮されてしまい、葉は肥大して縮まった茎を覆い囲むようになったものです。その中心に頂芽があります。これらの器官はある種の植物の繁殖のための一手段として形成されるもので(栄養繁殖と言います:本コーナーで「栄養繁殖」で検索してみてください。)、多くの種子の場合と同じように、完成すると発芽して次世代の植物体へと成長を始するまで一定の期間を「休眠」するのが普通です。
また、このような特別の器官の形態をとらなくても、樹木では夏〜秋に形成された樹芽や花芽は冬の間休眠します(越冬芽)。(質問コーナで「休眠」で検索して調べてください。)。発芽するというのは休眠が破れる/解除されるということを意味します。メカニズムはそれぞれの植物種(あるいは品種)によっては全く同じではありませんが、だいたい同じような仕組みによっていると言ってよいでしょう。休眠の誘導と打破の仕組みは基本的にはそれぞれの植物種が持つ遺伝的特性に依存しています。もともと休眠と発芽という仕組みは進化の過程の中で、植物が生育する環境状況との対応の中で出来上がってきたものです。
したがって、休眠芽の形成とその打破はその時の温度、湿度、日照条件(日長も含めて)、水分供給などの環境条件にも影響を受けるのは当然です。それに加えて、作物となった植物は人によって手が加えられ、品種改良が繰り替えされていますので、同じジャガイモ、サツマイモ、タマネギと言っても品種によって遺伝的にも元々の野生の性質が全て保持されているとは限りません。
また、これらの器官が収穫された時はどのような発育段階あったか、収穫後の保存時の温度、周囲のガスなど条件はどうであるかなどによって大きく影響を受けます。いずれにしろ、これらの器官の発芽は、環境の状況によって休眠が破れて芽が成長を始めるということには変わりありません。様々な環境要因という外部情報を受けたこれらの器官は、その情報を何らかの細胞内の化学的信号に転換します。その一般的な信号はご質問の中でも言及されている植物ホルモンです。つまり、特定の植物ホルモンの新規合成か、活性化、分解/代謝、あるいは移動などにより芽の成長開始に必要あるいは邪魔な植物ホルモンの増減が起きます。
ジャガイモの場合は非常に多くの研究が農学の分野で報告されていますが、大まかにまとめるとジベレリンとサイトカイニンは休眠解除に必要なホルモンと考えられています。他方、休眠中はアブシシン酸 (ABA) の含有量は高く、解除に向かって減少します。休眠が解除されて発芽した芽(葉条)が伸長を継続するにはジベレリンもオーキシンも必要となります。エチレンはこれらの器官の発芽を阻害しますので、人為的に発芽を遅らせるために外から投与することはありますが、内生のエチレンが休眠/発芽に関与しているかどうかはまだ明確ではないようです。
なお、エチレンは組織に傷がついたり、カビ・バクテリアが感染したり、化学物質との接触/汚染などがあったりすると容易に生成されます。また、果実などエチレンを生成しているものが側にあったりすると影響があるでしょう。したがって、保存の状態も一つの問題かと思います。
タマネギの場合もある論文によると、発芽が始まる時ジベレリンとオーキシンの量が増加すること、また、別の論文では発芽時にABA含量が最低になることが報告されています。サツマイモの発芽と内生植物 ホルモンとの関係を詳しく調べた論文は見つかりませんでしたが、上記のホルモンの存在は確認されていますので、発芽に際しても何らかの生理的役割を持っていると考えていいでしょう。外部から与えるエチレンや合成オーキシン(エチレンを誘導する働きがある)が発芽を抑制することは知られており、利用もされています。
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。
ジャガイモ、サツマイモ、タマネギなどは家に置いておくと知らぬ間に芽が出てしまうことがありますね。栽培農家や販売業者は芽が出てしまうと売り物にならないので、そうならないよう貯蔵管理に気を配っているようです。
さて、作物植物のそれぞれの生理現象については栽培/園芸学関係の事柄でもありますので的確なお答えはできませんが、植物生理学的な見地から一般論として回答いたします。まずタイトルに挙げられた3つの植物の器官は、それぞれに全く別個のものであることはご承知かと思います。ジャガイモは茎(塊茎)、サツマイモは根(塊根/塊状根)、タマネギは葉条(鱗茎)です。したがって、ジャガイモの芽は普通の植物で言えば茎の先端にある頂芽(茎頂)の他に葉の付け根にできる側芽の両方があります。だから芽の配列は葉序(登録番号0838,1912など参照)に従っています。
また、ジャガイモの頂芽の部分は普通の葉条の頂芽の場合と同じように頂芽優勢(登録番号1913, 2586参照)を示します。サツマイモは塊根の主に上部付近から通常の頂芽に相当するものが分化してきます。タマネギは茎の節間が著しく圧縮されてしまい、葉は肥大して縮まった茎を覆い囲むようになったものです。その中心に頂芽があります。これらの器官はある種の植物の繁殖のための一手段として形成されるもので(栄養繁殖と言います:本コーナーで「栄養繁殖」で検索してみてください。)、多くの種子の場合と同じように、完成すると発芽して次世代の植物体へと成長を始するまで一定の期間を「休眠」するのが普通です。
また、このような特別の器官の形態をとらなくても、樹木では夏〜秋に形成された樹芽や花芽は冬の間休眠します(越冬芽)。(質問コーナで「休眠」で検索して調べてください。)。発芽するというのは休眠が破れる/解除されるということを意味します。メカニズムはそれぞれの植物種(あるいは品種)によっては全く同じではありませんが、だいたい同じような仕組みによっていると言ってよいでしょう。休眠の誘導と打破の仕組みは基本的にはそれぞれの植物種が持つ遺伝的特性に依存しています。もともと休眠と発芽という仕組みは進化の過程の中で、植物が生育する環境状況との対応の中で出来上がってきたものです。
したがって、休眠芽の形成とその打破はその時の温度、湿度、日照条件(日長も含めて)、水分供給などの環境条件にも影響を受けるのは当然です。それに加えて、作物となった植物は人によって手が加えられ、品種改良が繰り替えされていますので、同じジャガイモ、サツマイモ、タマネギと言っても品種によって遺伝的にも元々の野生の性質が全て保持されているとは限りません。
また、これらの器官が収穫された時はどのような発育段階あったか、収穫後の保存時の温度、周囲のガスなど条件はどうであるかなどによって大きく影響を受けます。いずれにしろ、これらの器官の発芽は、環境の状況によって休眠が破れて芽が成長を始めるということには変わりありません。様々な環境要因という外部情報を受けたこれらの器官は、その情報を何らかの細胞内の化学的信号に転換します。その一般的な信号はご質問の中でも言及されている植物ホルモンです。つまり、特定の植物ホルモンの新規合成か、活性化、分解/代謝、あるいは移動などにより芽の成長開始に必要あるいは邪魔な植物ホルモンの増減が起きます。
ジャガイモの場合は非常に多くの研究が農学の分野で報告されていますが、大まかにまとめるとジベレリンとサイトカイニンは休眠解除に必要なホルモンと考えられています。他方、休眠中はアブシシン酸 (ABA) の含有量は高く、解除に向かって減少します。休眠が解除されて発芽した芽(葉条)が伸長を継続するにはジベレリンもオーキシンも必要となります。エチレンはこれらの器官の発芽を阻害しますので、人為的に発芽を遅らせるために外から投与することはありますが、内生のエチレンが休眠/発芽に関与しているかどうかはまだ明確ではないようです。
なお、エチレンは組織に傷がついたり、カビ・バクテリアが感染したり、化学物質との接触/汚染などがあったりすると容易に生成されます。また、果実などエチレンを生成しているものが側にあったりすると影響があるでしょう。したがって、保存の状態も一つの問題かと思います。
タマネギの場合もある論文によると、発芽が始まる時ジベレリンとオーキシンの量が増加すること、また、別の論文では発芽時にABA含量が最低になることが報告されています。サツマイモの発芽と内生植物 ホルモンとの関係を詳しく調べた論文は見つかりませんでしたが、上記のホルモンの存在は確認されていますので、発芽に際しても何らかの生理的役割を持っていると考えていいでしょう。外部から与えるエチレンや合成オーキシン(エチレンを誘導する働きがある)が発芽を抑制することは知られており、利用もされています。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-09-26