質問者:
高校生
ゆうちゃん
登録番号4250
登録日:2018-10-05
葉緑体に興味があり、大学で植物生理学を学びたいと考えています。葉緑体運動について
0087の葉緑体?では、葉緑体の運動の仕方は大きく二通りに分けられ、一つは、原形質流動に乗って葉緑体が受動的に移動するタイプでもう一つは、葉緑体自身が能動的に移動するタイプに分けられることを知りました。
しかし、それと同時に光定位運動や電気刺激(電気を与えると葉緑体の動きが止まる)によっても葉緑体の動きに変化をもたらすことがほかの文献や本であることがわかりました。
ここで質問です。このような光や電気などの刺激によるものは上の二つのパターンのどちらに属するものなのでしょうか?
光や電気などの刺激が原形質流動に働いて、結果として葉緑体の動きにかかわっているのか、葉緑体そのものにダイレクトに働いて結果として葉緑体の動きが変わっているのかどちらでしょうか?
説明が下手でごめんなさい。教えていただけると嬉しいです。
ゆうちゃん さん
このコーナーをご利用下さりありがとうございます。大学で植物生理学を学びたいと希望しておられるとのこと、本学会(日本植物生理学会)としては大変うれしいことです。ご質問には葉緑体の運動について研究されている和田正三先生(首都大学東京)から回答文をいただきましたので、参考になさって下さい。
【和田先生からの回答】
「葉緑体運動」と一言で言っても、植物種によって、さらに同一植物でも組織や細胞の種類によって、反応性、反応様式は違う場合もあります。それぞれの植物種、または組織、細胞などによって、光刺激、電気刺激への反応性も違うでしょう。しかし大雑把に分ければ、質問文に書かれているように、葉緑体運動には2通りの運動様式があります。一つは原形質流動に乗って受動的に動くもので、動きの方向性は原形質の流動方向に依存します。もう一つは、原形質流動とは無関係に個々の葉緑体が方向性を持って最適な場所に移動するものです。前者は水生の単子葉植物
<https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%A2&action=edit&redlink=1> オオセキショ
ウモ(Vallisneria gigantean)の表皮細胞やフシナシミドロ(Vaucheria)に代表され、後者はコケ・シダ・種子植物など陸上植物の葉緑体の運動に一般的です。
前者の場合、光や電気刺激によって細胞内のイオン環境が変われば、原形質流動を担っているアクチン繊維に変化が起こり、それに伴って葉緑体の運動速度も変化すると考えられます。例えば、細胞の一部に青色光を当てると、そこのアクチン繊維に変化が起こり、原形質流動が遅くなって、そこに葉緑体は集まります。
後者の場合は、葉緑体は弱い光環境では光合成の効率をあげるため、より明るい場所に向かって動き(集合反応)、強光下では光障害を避けるために光から逃がれるように動きます(逃避運動)。光の強弱は青色光吸収色素phototropin (photと略す:多くの植物にはphot1とphot2の2種類の分子種がある)によって感知され、シロイヌナズナの場合には、集合反応にはphot1とphot2が弱光を感知し、逃避反応では主にphot2が強光を感知しています。ホウライシダの場合にはphotに吸収される青色光のみならず、赤色光も集合反応を誘導し、その光受容体は、neochromeというphytochromeとphototroinが融合した色素タンパク質です。光受容体から出された信号は葉緑体まで届き、葉緑体は、葉緑体と細胞膜の間にある、葉緑体運動に特化した「葉緑体アクチン繊維」で動きます。しかし、この信号が何なのか、その実体はわかっていません。また、この過程のどこかに電気刺激の影響があるかもしれません
が、現在は不明です。
このコーナーをご利用下さりありがとうございます。大学で植物生理学を学びたいと希望しておられるとのこと、本学会(日本植物生理学会)としては大変うれしいことです。ご質問には葉緑体の運動について研究されている和田正三先生(首都大学東京)から回答文をいただきましたので、参考になさって下さい。
【和田先生からの回答】
「葉緑体運動」と一言で言っても、植物種によって、さらに同一植物でも組織や細胞の種類によって、反応性、反応様式は違う場合もあります。それぞれの植物種、または組織、細胞などによって、光刺激、電気刺激への反応性も違うでしょう。しかし大雑把に分ければ、質問文に書かれているように、葉緑体運動には2通りの運動様式があります。一つは原形質流動に乗って受動的に動くもので、動きの方向性は原形質の流動方向に依存します。もう一つは、原形質流動とは無関係に個々の葉緑体が方向性を持って最適な場所に移動するものです。前者は水生の単子葉植物
<https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%A2&action=edit&redlink=1> オオセキショ
ウモ(Vallisneria gigantean)の表皮細胞やフシナシミドロ(Vaucheria)に代表され、後者はコケ・シダ・種子植物など陸上植物の葉緑体の運動に一般的です。
前者の場合、光や電気刺激によって細胞内のイオン環境が変われば、原形質流動を担っているアクチン繊維に変化が起こり、それに伴って葉緑体の運動速度も変化すると考えられます。例えば、細胞の一部に青色光を当てると、そこのアクチン繊維に変化が起こり、原形質流動が遅くなって、そこに葉緑体は集まります。
後者の場合は、葉緑体は弱い光環境では光合成の効率をあげるため、より明るい場所に向かって動き(集合反応)、強光下では光障害を避けるために光から逃がれるように動きます(逃避運動)。光の強弱は青色光吸収色素phototropin (photと略す:多くの植物にはphot1とphot2の2種類の分子種がある)によって感知され、シロイヌナズナの場合には、集合反応にはphot1とphot2が弱光を感知し、逃避反応では主にphot2が強光を感知しています。ホウライシダの場合にはphotに吸収される青色光のみならず、赤色光も集合反応を誘導し、その光受容体は、neochromeというphytochromeとphototroinが融合した色素タンパク質です。光受容体から出された信号は葉緑体まで届き、葉緑体は、葉緑体と細胞膜の間にある、葉緑体運動に特化した「葉緑体アクチン繊維」で動きます。しかし、この信号が何なのか、その実体はわかっていません。また、この過程のどこかに電気刺激の影響があるかもしれません
が、現在は不明です。
和田 正三(首都大学東京理工学研究科生命科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2018-10-12
佐藤 公行
回答日:2018-10-12