質問者:
自営業
すみ
登録番号4254
登録日:2018-10-10
こんにちは。苔についての質問です。みんなのひろば
苔はなぜ乾燥できるのか
苔を見ながら散歩するのが大好きで、道端でカラカラになった苔に水を与えると、あっという間に開いて、復活する、ということをとても興味深く見ています。
苔は他の植物と違い、乾燥で細胞の中から水分が抜けても、
「乾眠」というかたちで、一定期間であれば生命活動を休みながら生き続けることができるといいます。
普通の植物ですと、水分が抜けると、細胞の膜や器官がダメージを受けて死んでしまうところ、苔はなにが他の植物と異なるのでしょうか?
例えばクマムシは細胞内にトレハロースを蓄積して、細胞を守ると聴いたことがありますが、似た様な仕組みをもっているのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
すみ様
みんなのひろばの植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
回答は植物生態学がご専門の中坪先生にお願いいたしました。中坪先生には本コーナーの登録番号4212で「コケの水を吸う量について」という質問にも回答をお寄せ頂いております。併せて参考にして頂くとよいと思います。
【中坪先生の回答】
鉢植えの植物に水をやるのを忘れて枯らしてしまったという経験をお持ちの方は多いと思います。ほとんどの維管束植物は、ある限界以上に脱水されると、水を与えても回復せず、枯れてしまいます。これに対し、コケ類は脱水されても死なず、水が与えられれば再び生理活性を回復します。どの程度の乾燥に耐えるかは、コケの種類や脱水される速度によっても違いますが、ご質問文にもあるように、道端や石垣などに生えているごく普通の種類でも、かなりの乾燥に耐えながら生育しています。
コケが脱水に耐える仕組みついては不明な点が多く残されていますが、いくつかのタンパク質や糖類が関与していることが明らかにされています。アフリカにすむネムリユスリカの幼虫は、細胞内にトレハロースを蓄積して脱水に耐えることが知られていますが、植物の脱水耐性にも糖、特にショ糖が関係していると考えられています。ショ糖は浸透圧調節に影響すると同時に、生物学的な“ガラス化(vitrification)”によって細胞膜の構造を維持し、細胞の機能が失われないような働きをします。脱水時に発生する活性酸素種(ROS)は、細胞機能にダメージを与えますが、それを軽減するメカニズムの存在も示唆されています。植物ホルモンのアブシシン酸(ABA)がコケ植物の乾燥耐性に影響しているという報告もあり、遺伝子レベルでの解析が進められています。
コケのように周囲湿度の変化により細胞内の含水率が変動する植物は変含水性(変水性、 poikilohydric)植物とよばれ、コケのほか、陸生の藻類、地衣類(菌類と藻類の共生体)、ごく一部の維管束植物がこの性質をもっています。初期の陸上植物も変含水性だったと考えられ、植物が陸上進出する上で脱水耐性の獲得は不可欠だったと想像されます。変含水性植物の脱水耐性メカニズムを明らかにすることは、植物の陸上進出とその後の進化を理解することにつながる可能性があり、今後の研究の進展が期待されています。
みんなのひろばの植物Q&Aのコーナーを利用下さりありがとうございます。
回答は植物生態学がご専門の中坪先生にお願いいたしました。中坪先生には本コーナーの登録番号4212で「コケの水を吸う量について」という質問にも回答をお寄せ頂いております。併せて参考にして頂くとよいと思います。
【中坪先生の回答】
鉢植えの植物に水をやるのを忘れて枯らしてしまったという経験をお持ちの方は多いと思います。ほとんどの維管束植物は、ある限界以上に脱水されると、水を与えても回復せず、枯れてしまいます。これに対し、コケ類は脱水されても死なず、水が与えられれば再び生理活性を回復します。どの程度の乾燥に耐えるかは、コケの種類や脱水される速度によっても違いますが、ご質問文にもあるように、道端や石垣などに生えているごく普通の種類でも、かなりの乾燥に耐えながら生育しています。
コケが脱水に耐える仕組みついては不明な点が多く残されていますが、いくつかのタンパク質や糖類が関与していることが明らかにされています。アフリカにすむネムリユスリカの幼虫は、細胞内にトレハロースを蓄積して脱水に耐えることが知られていますが、植物の脱水耐性にも糖、特にショ糖が関係していると考えられています。ショ糖は浸透圧調節に影響すると同時に、生物学的な“ガラス化(vitrification)”によって細胞膜の構造を維持し、細胞の機能が失われないような働きをします。脱水時に発生する活性酸素種(ROS)は、細胞機能にダメージを与えますが、それを軽減するメカニズムの存在も示唆されています。植物ホルモンのアブシシン酸(ABA)がコケ植物の乾燥耐性に影響しているという報告もあり、遺伝子レベルでの解析が進められています。
コケのように周囲湿度の変化により細胞内の含水率が変動する植物は変含水性(変水性、 poikilohydric)植物とよばれ、コケのほか、陸生の藻類、地衣類(菌類と藻類の共生体)、ごく一部の維管束植物がこの性質をもっています。初期の陸上植物も変含水性だったと考えられ、植物が陸上進出する上で脱水耐性の獲得は不可欠だったと想像されます。変含水性植物の脱水耐性メカニズムを明らかにすることは、植物の陸上進出とその後の進化を理解することにつながる可能性があり、今後の研究の進展が期待されています。
中坪 孝之(広島大学大学院生物圏科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2018-10-25
庄野 邦彦
回答日:2018-10-25