質問者:
一般
tanetane人
登録番号4263
登録日:2018-10-26
球根の水栽培の時期を迎えます。みんなのひろば
根からどうやって酸素を吸収するの?
注意事項で、『根からも酸素を吸収するので水を満杯にしないように。』と言われました。
畑も耕すのは、土に酸素を含ませる目的もあると。
根からどのようなかたちでどのように酸素を取り込むのか教えてください。
Tanetane人さん
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
生物は細胞からできています。すべての細胞は、生命活動のための直接的エネルギー源としてATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる高エネルギー物質を必要とします。ATPは有機化合物や光などをエネルギー源として細胞の中で作られます。動物細胞は、ミトコンドリアという細胞器官を持ち、ミトコンドリアは細胞呼吸によってATPを合成します。植物細胞の緑色部分は、細胞器官として葉緑体を持ち、葉緑体は植物全体のエネルギー変換の中で量的に大きな割合を占めますが、非緑色細胞はもちろん、緑色細胞胞自身もミトコンドリアを持ち、細胞呼吸は植物の生命活動にとっても必須です。ミトコンドリアが生産するATPは、タンパク質などの生体分子の合成や細胞膜での物資の選択的輸送などのためのエネルギー源として利用されます(葉緑体とATPの関係については、みんなのひろば「植物Q&A」で「葉緑体 ATP」で検索すると登録番号2667に詳しい説明が出ています)。植物では、緑色細胞以外では、ミトコンドリアが細胞呼吸によって、大部分のATPを合成しています。動物、植物だけでなく、カビなどの真核生物の細胞もミトコンドリアを持ち、細胞呼吸によってATPを合成します。細胞呼吸を詳しく見ると、糖や脂肪酸などは細胞内で分解され、更にはミトコンドリアの中で分解されて還元型の補酵素(NADHなどがその例です)となり、この過程でCO2が放出されます。次いで、還元型の補酵素がO2によって酸化されて水を生じるまでの一連の過程で、酸化還元エネルギーはATPの化学エネルギーに変換されます(一連の過程を、酸化的リン酸化反応といいます)。細胞呼吸は、全体としてCO2を放出して、O2は水になると言われますが、詳しく見れば、上記のように、CO2の放出とO2が水になる過程は、反応の上では分かれています。O2の供給がないと、ミトコンドリアで酸化還元反応止まってしまい、細胞は必要としているATPがえられず、細胞は活動できません。酸素がミトコンドリアに到達できるのは、O2分子の無秩序な分子運動によります。それぞれのO2分子は熱運動によって勝手に動き回っており、個別の分子の運動の向きは決まっていませんが、全体の動きを統計的に見れば、高濃度側から低濃度側に移動しており、この現象を拡散といいます。部屋の1箇所で香水びんのふたを開けると、香水中の匂い分子は揮発して気体となり、部屋全体に広がりますが、これは匂い分子の拡散によるものです。
「呼吸」というと、哺乳類などの肺や魚類などのえらが思い浮かぶかもしれませんが、これらは外呼吸器官であって、細胞が必要とするO2を細胞に送るための入り口に位置して、体液によってガス交換に寄与しているに過ぎません。主役は、細胞呼吸であり、ATP合成の一連の反応過程で、O2が吸収され、CO2が放出されます。ヘモグロビンの役割を考えてみましょう_A大気:O2を含む、Bヘモグロビン:O2に対する親和性が相当高い、Cミトコンドリア:O2に対する親和性が非常に高い_。その結果、O2は拡散によって、全体としてみればA→B→Cの方向に移動します。
植物の根も細胞呼吸吸によってミトコンドリアでATPを合成し、これを、タンパク質、細胞壁の構成成分である多糖などの合成反応や、栄養塩類の細胞内への取り込み、有機酸の外界への排出などのエネルギー源として使います。根が呼吸するには、O2が必要です。土壌では、O2は土壌粒子の空隙部分の気体から、拡散によって根の細胞に到達して取り込まれます。また、O2は土壌中で水分に溶けた状態でも存在し、水中の拡散によって根の細胞に達して根に吸収されるという経路もあります。O2の拡散速度は、水中では、空気中の約10,000分の1であって、遅いです。また、1mLの水に溶けうるO2量(溶解度といい、この限度一杯にO2を溶かした水を飽和濃度のO2を含む水といいます)は約0.03mLで、比較的高濃度のO2が溶けることができます(いずれも、20度Cでの値)(空気中のO2濃度は体積比で約20%)。なお、植物Q&Aで、「根」、「呼吸」で検索するとたくさんの回答が出ていますが、登録番号1130, 1625が特に参考になると思います。
さて、水中の根にO2が到達する経路を考えて見ましょう。空気と接している水は、水中に溶けているO2濃度が飽和以下ならば、次第にO2を吸収し、吸収はO2濃度が飽和濃度に達するまで続きます。O2の溶解は、空気と接している水の表面部分だけで起きます。徳利型のボトルでは、首の部分まで水を満たすと空気と接している表面積が小さいのでO2の溶ける速度は遅く、広い胴の部分まで満たした場合は表面積が大きいので溶ける速度は速くなります。溶けたO2は水中を拡散して根に至り、根の細胞によって吸収されて細胞の活動に必要なATP合成に使われます。O2の水中での拡散速度はあまり大きくありませんが、植物の根が要求するO2もそれほど大量ではないので、うまく管理すれば、水耕栽培が成り立ちます。なお、O2を大量に必要とする動物などの飼育では、通気することがありますが、通気によって気泡ができると、気泡と接している水の表面積は非常に大きくなり、水にO2を供給するのに役立ちます。通気量が同じでも、水と接している気泡の表面積は気泡が小さいほど大きくなるので、細かい気泡として通気するのが有効です。
インターネットの情報を見ると、植物の水耕では、1週間に1度程度は容器の水を変えるのがいいという記述も多く見られます。植物は、土壌中の溶解しにくい鉄塩などを溶かして、根が吸収できるようにするために、有機酸などを分泌することが知られています。容器の中には細菌もいて、それらは有機酸を食べて水中の酸素を吸収し、また、植物にとって好ましくない代謝産物を分泌する恐れがあります。細菌が繁殖しすぎないように、適当な頻度での水替えも好ましいことでしょう。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
生物は細胞からできています。すべての細胞は、生命活動のための直接的エネルギー源としてATP(アデノシン三リン酸)と呼ばれる高エネルギー物質を必要とします。ATPは有機化合物や光などをエネルギー源として細胞の中で作られます。動物細胞は、ミトコンドリアという細胞器官を持ち、ミトコンドリアは細胞呼吸によってATPを合成します。植物細胞の緑色部分は、細胞器官として葉緑体を持ち、葉緑体は植物全体のエネルギー変換の中で量的に大きな割合を占めますが、非緑色細胞はもちろん、緑色細胞胞自身もミトコンドリアを持ち、細胞呼吸は植物の生命活動にとっても必須です。ミトコンドリアが生産するATPは、タンパク質などの生体分子の合成や細胞膜での物資の選択的輸送などのためのエネルギー源として利用されます(葉緑体とATPの関係については、みんなのひろば「植物Q&A」で「葉緑体 ATP」で検索すると登録番号2667に詳しい説明が出ています)。植物では、緑色細胞以外では、ミトコンドリアが細胞呼吸によって、大部分のATPを合成しています。動物、植物だけでなく、カビなどの真核生物の細胞もミトコンドリアを持ち、細胞呼吸によってATPを合成します。細胞呼吸を詳しく見ると、糖や脂肪酸などは細胞内で分解され、更にはミトコンドリアの中で分解されて還元型の補酵素(NADHなどがその例です)となり、この過程でCO2が放出されます。次いで、還元型の補酵素がO2によって酸化されて水を生じるまでの一連の過程で、酸化還元エネルギーはATPの化学エネルギーに変換されます(一連の過程を、酸化的リン酸化反応といいます)。細胞呼吸は、全体としてCO2を放出して、O2は水になると言われますが、詳しく見れば、上記のように、CO2の放出とO2が水になる過程は、反応の上では分かれています。O2の供給がないと、ミトコンドリアで酸化還元反応止まってしまい、細胞は必要としているATPがえられず、細胞は活動できません。酸素がミトコンドリアに到達できるのは、O2分子の無秩序な分子運動によります。それぞれのO2分子は熱運動によって勝手に動き回っており、個別の分子の運動の向きは決まっていませんが、全体の動きを統計的に見れば、高濃度側から低濃度側に移動しており、この現象を拡散といいます。部屋の1箇所で香水びんのふたを開けると、香水中の匂い分子は揮発して気体となり、部屋全体に広がりますが、これは匂い分子の拡散によるものです。
「呼吸」というと、哺乳類などの肺や魚類などのえらが思い浮かぶかもしれませんが、これらは外呼吸器官であって、細胞が必要とするO2を細胞に送るための入り口に位置して、体液によってガス交換に寄与しているに過ぎません。主役は、細胞呼吸であり、ATP合成の一連の反応過程で、O2が吸収され、CO2が放出されます。ヘモグロビンの役割を考えてみましょう_A大気:O2を含む、Bヘモグロビン:O2に対する親和性が相当高い、Cミトコンドリア:O2に対する親和性が非常に高い_。その結果、O2は拡散によって、全体としてみればA→B→Cの方向に移動します。
植物の根も細胞呼吸吸によってミトコンドリアでATPを合成し、これを、タンパク質、細胞壁の構成成分である多糖などの合成反応や、栄養塩類の細胞内への取り込み、有機酸の外界への排出などのエネルギー源として使います。根が呼吸するには、O2が必要です。土壌では、O2は土壌粒子の空隙部分の気体から、拡散によって根の細胞に到達して取り込まれます。また、O2は土壌中で水分に溶けた状態でも存在し、水中の拡散によって根の細胞に達して根に吸収されるという経路もあります。O2の拡散速度は、水中では、空気中の約10,000分の1であって、遅いです。また、1mLの水に溶けうるO2量(溶解度といい、この限度一杯にO2を溶かした水を飽和濃度のO2を含む水といいます)は約0.03mLで、比較的高濃度のO2が溶けることができます(いずれも、20度Cでの値)(空気中のO2濃度は体積比で約20%)。なお、植物Q&Aで、「根」、「呼吸」で検索するとたくさんの回答が出ていますが、登録番号1130, 1625が特に参考になると思います。
さて、水中の根にO2が到達する経路を考えて見ましょう。空気と接している水は、水中に溶けているO2濃度が飽和以下ならば、次第にO2を吸収し、吸収はO2濃度が飽和濃度に達するまで続きます。O2の溶解は、空気と接している水の表面部分だけで起きます。徳利型のボトルでは、首の部分まで水を満たすと空気と接している表面積が小さいのでO2の溶ける速度は遅く、広い胴の部分まで満たした場合は表面積が大きいので溶ける速度は速くなります。溶けたO2は水中を拡散して根に至り、根の細胞によって吸収されて細胞の活動に必要なATP合成に使われます。O2の水中での拡散速度はあまり大きくありませんが、植物の根が要求するO2もそれほど大量ではないので、うまく管理すれば、水耕栽培が成り立ちます。なお、O2を大量に必要とする動物などの飼育では、通気することがありますが、通気によって気泡ができると、気泡と接している水の表面積は非常に大きくなり、水にO2を供給するのに役立ちます。通気量が同じでも、水と接している気泡の表面積は気泡が小さいほど大きくなるので、細かい気泡として通気するのが有効です。
インターネットの情報を見ると、植物の水耕では、1週間に1度程度は容器の水を変えるのがいいという記述も多く見られます。植物は、土壌中の溶解しにくい鉄塩などを溶かして、根が吸収できるようにするために、有機酸などを分泌することが知られています。容器の中には細菌もいて、それらは有機酸を食べて水中の酸素を吸収し、また、植物にとって好ましくない代謝産物を分泌する恐れがあります。細菌が繁殖しすぎないように、適当な頻度での水替えも好ましいことでしょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-11-06