一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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シロツメクサ(クローバ-)の葉の欠け

質問者:   教員   井上勇樹
登録番号4277   登録日:2018-11-14
クローバーのなかに,高頻度で3枚の小葉に同じような形の欠けがみられ,葉全体として点対称な形となっている例が多くみられます。
● ただし,欠けのある葉を生じている株であっても,大多数の葉には欠けがない(欠けのある葉は1株につきせいぜい1,2個しかみられない)ことから,遺伝的な理由でもなさそうです。
● また,室内で栽培しているクローバーでも同じような現象がみられるので,虫食いのせいでもなさそうです。欠けのある葉は,葉の原基が傷つく機会がなかったであろう室内の個体でもみられます。
● さらに,運動場,駐輪場など土壌中の養分が少ない場所でみられるだけでなく,市販の培養土で育てた場合にもみられるので,養分不足が原因というのも疑わしいかもしれません。

どのようなしくみで3枚の小葉に同じ形の欠けが生じるのでしょうか?

なお,youtubeで葉の画像を公開しています。
https://www.youtube.com/watch?v=Y7b4UsAIeZY&feature=youtu.be

宜しくお願いします。
井上さま

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
クロバーは身近な植物で、四葉のものに対する世間の関心も高いようで、「植物Q&A」で[四葉]、または[シロツメクサ]で検索すると、20件近くがヒットします。中でも、登録番号0624, 0761, 2923などには、いろいろ参考になることが書かれており、これらを参考にして、次のようにまとめられると思います:

1. シロツメクサの葉は、普通3個の小葉をつけるが、中には4個以上の小葉をつけるものもある。4個以上の小葉をつける場合の多くは、葉の形成過程で組織が何らかの損傷を受けた可能性が高いと考えられる。
2. しかし、ある区域に生える株の群落で、四葉の頻度が高いものもあり、これは遺伝子の変異によると考えられるが、その遺伝的背景は良く分かっていない。

さて、質問者は、クロバーについて、「小葉」を含めて十分な知識を持ち、非常に多くの観察をしていると見受けられ、添付された写真に関するまとめ(A)-(C)も参考になります。この質問を受けて、私は、近くの公園の草地へ行き、生えているシロツメクサを観察しました。質問者から送られた写真にあるように、圧倒的多数の普通の小葉に混じって、小葉の面に小穴が虫食い状に多数あるものや,縁に欠けのあるものもいくつか見つかりました。1つの小葉で先端部分が月食で欠け始めた月のような欠けがあるものは、非常に多数の葉の中から少数見つけることはできました。しかし、観察例が少なかったためかもしれませんが、質問者の写真にあるような、ほぼ同じ大きさで、3つの小葉すべてに欠けが見られるようなものは見つけることができませんでした。おそらく、質問者は、非常に多くの観察の中から、特徴的なものを選んで写真を送ってくれたことと思います。質問者は、「高頻度で3枚の小葉に同じような形の欠けがみられ」と書いていますが、どの程度の頻度だったのでしょうか?
 質問者のまとめ(A)「欠け葉は遺伝的なものではない」について
:私もそう思います。
 質問者のまとめ(B)「室内で栽培しているクローバーでも同じような現象がみられるので、虫食いのせいでもなさそうです。欠けのある葉は、葉の原基が傷つく機会がなかったであろう室内の個体でもみられます」について:
:これについては、次のように考えます。野原に生えているクローバーの群落は、やわらかくて緑色、に茂っていて、草食動物にとっておそらく魅力的な餌に見えると思われます。しかし、クローバーは青酸配糖体を持ち、昆虫の食害から身を守ることによって、多くの地域で繁栄しています。青酸配糖体は液胞に蓄積されており、昆虫などに食われると細胞壁にある酵素が配糖体を加水分解して青酸が遊離されることにより、草食生物に害を与えます。大型草食動物の場合は、クローバーの生葉または枯れ葉を大量に食べると、生育阻害が見られる場合があると報告されていますが、これはクローバーに含まれるクマリンまたはその誘導体が原因物質ではないかという説もあります。
 クローバーは一般的に昆虫による食害を受けにくいといわれますが、甲虫類(昆虫)のゾウムシのようにクローバーを食べるものもいます。ゾウムシは、種によってクローバーの小葉を点々と[虫食い状]に全面にわたって食べるものもいますが、葉の縁を好んで食べるものもいるようです。クローバーにつくゾウムシの多くは体長が5mm程度で、成虫も幼虫もクローバーを食べます。活動は主に夜間なのでヒトの目に付きにくく、また、春に卵を産むといわれます。ゾウムシがどのようにして青酸による害を回避しているかについては、私は知りません。質問者の観察したクローバーの欠け葉は、おそらく昆虫による食害ではないかと考えられます。小葉が3つとも同じように欠けているという観察も、非常に多数を調べてその中から質問者がたまたま見つけたのではないでしょうか。
 なお、室内で栽培したものにも欠け葉が見つかる例があるとのことですが、昆虫の卵または幼虫の混入の可能性はどのように排除していたのでしょうか。もし非常に興味があれば、次のようにして、昆虫の関与を排除した実験を計画してはどうでしょうか:1)培養土は薫蒸処理する、2)種子は消毒する、3)植木鉢全体を目の細かいネットで覆って栽培する。
 質問者のまとめ(C)について:私も質問者のように栄養分の不足ではないと思います。


櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-11-24