一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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多肉植物の葉温

質問者:   大学生   N.O
登録番号4279   登録日:2018-11-15
多肉植物(CAM植物)は昼間、気孔を閉じて蒸散量を抑えていますが、そうすると蒸散の気化熱によって葉温を下げることができないと思います。葉温が上がると葉焼けしてしまうので、多肉植物の葉温はあまり高くはなっていないと思うのですが、蒸散以外で葉温を下げる方法はあるのでしょうか?
N.O 様

このコーナーをご利用下さりありがとうございます。
ご質問にはCAM植物の葉温に関する研究にもかかわってこられた神奈川大学の鈴木祥弘先生から下記のような回答文をいただいました。参考になさってください。

【鈴木先生からの回答】
物体の温度変化は吸収するエネルギーと放出するエネルギーの差で決まります。吸収するエネルギーが放出するエネルギーを上回ると物体の温度は上昇します。普通は物体の温度が上昇すると放出するエネルギーが上昇するので、一定の温度になると吸収と放出が釣り合って温度の上昇が停止します。植物の葉の温度(葉温)も、エネルギーの吸収と放出で決まります。しかし、夏場、直射日光に曝されているはずの植物の葉が、同じ環境にあるアスファルトや海辺の砂のように熱くならないのは、植物の葉に様々な工夫があるからです。
N.Oさんが書かれているように、植物の葉では蒸散が行われ、水が蒸発する際の気化熱としてエネルギーが放出されます。また、葉温が気温よりも高くなると葉内と外気の水蒸気圧の差が大きくなるため、葉温が高くなるほど蒸散が増えてエネルギーを放出します。このようにエネルギーの放出を高める蒸散が葉温の上昇を抑えている要因の一つです。
一方、エネルギーの吸収を抑えることでも葉温の上昇を抑えることができます。太陽の光を正面から受けないようにすればエネルギー吸収を減らすことになります。斜めについた葉は水平なアスファルトほどエネルギーを吸収しません。葉の表面に微細な毛を生やすことで、太陽光を反射しているような植物もいます。このような葉は黒いアスファルトに比べて少ししかエネルギーを吸収しません。植物の毛を刈り取って葉温が上昇することを確認した研究もあります。さらに、光が当らない夜があることも考慮しなければなりません。温度が上がりきる前に夜になってしまえば、温度を低く抑えることができます。気化熱ばかりでなく比熱の大きい水は、この点でも植物の温度の安定化に貢献しています。体内に大量の水を蓄えているサボテンのような植物では温度は上昇・低下し難いと考えられます。
私たちの研究室の大学院生が行なった実験では、CAM植物のベンケイソウを無理やり高温に曝すと、光合成ができなくなり枯れてしまいました。他にもCAM植物が高温で枯れてしまう例が知られています。しかし、アメリカのサボテンには60℃以上の高温にも耐えられるものがいます。植物体の温度は必ずしも低く抑えられているわけではないようです。葉温を上げないようにするばかりでなく、高温に耐えられるようにすることも、水を大事に利用するCAM植物の環境への対応なのかもしれません。
植物の対応方法は棲息環境によっても違いますし、植物によっても違います。ここで挙げた方法以外にも、もっと面白い対応方法があるかもしれません。
登録番号3698の植物の体温調節や登録番号0841の植物の温度についてもお読みください。
Web上のGoogleScholarなどサービスや大学図書館のデータベースも利用してください。
"plant hair temperature"や "CAM high temperature"などのキーワードで、面白い実験の記載された学術論文が見つかるはずです。


鈴木 祥弘(神奈川大学理学部生物科学科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2018-11-20
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