一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光合成における8個の光量子の役割

質問者:   高校生   suzuki1028
登録番号4296   登録日:2018-12-05
光合成のプロセス(酸素生成やブドウ糖の生成など)には、どの程度の光量子が必要なのか調べています。

日本光合成学会のサイト〈光合成の効率〉の章で『C3光合成を行う通常の緑葉では,約8個の光量子の吸収によって4個の電子が光化学系ⅡからⅠへと流れ,2個のNADPHおよび3~4個のATPが生成する』と書いてあり、またテイツ・ザイガーの植物生理学のp147にも1分子のco2固定のためには理論上8個の光量子が最低でも必要と書かれていました。

この8個の光量子の各光化学系への配分について疑問に思うところがありましたので、質問させていただきます。

光化学系Ⅱを駆動させるには光量子が4つ必要なのは理解したつもりです。マンガンクラスタに繋がれている水分子からo2 4H- 4e-などを取り出す必要があるからだと。

また、この引き抜かれた水分子由来の4つの電子うち、2つの電子がb型シトクロムへと渡され、そして残り2つの電子が光化学系lを経由して2NADP+を還元し2NADPHとなる、そう理解しました。

そこで疑問なのは残り4個のうち2個の光量子の役割です。

水分子由来の4つの電子のうち2つの電子が酸化した光化学系Ⅰを還元させ、新たな光量子によって光化学系lの電子が励起され、その2つの電子が2NADP+を還元させる。

こう考えると、2個の光量子が光化学系Ⅰに吸収されれば2NADPHを生成することが出来るのでは?2NADPHを生成するのに光化学系Ⅰには4個も光量子はいらないのでは?2個でいいのでは?もし4個必要ならどこでどう必要なのか?そう疑問に思ってしまいました。

根本的な電子や光量子の働き、酸化・還元の時系列に対する私の理解が間違っているに違いありませんし、理論上は8個の光量子が必要との事だったので、うまく質問できたか不安ですが、よろしくお願いいたします。
suzuki1028 様

このコーナーをご利用下さりありがとうございます。
少し混乱されていると思います。最初に都合のために大まかな背景を説明し、次いで問題のポイントについて解説させていただきます。

(背景説明)
1)有機化合物の合成には電子が必要で、その電子の源は水である(水が最終電子供与体)。
2)電子を与える力(還元力)には「酸化還元電位」で定義される強さの度合いがあり、有機化合物の合成に利用されるNADPを還元するためには強い還元力が必要である。
3)光化学反応では、1個の光量子が吸収されて反応が起こると1個の電子が移動する(光酸化還元反応における「光化学等量(一光量子一電子)の法則」)

(NADP還元反応の説明)
NADPの還元反応の式: NADP(酸化型NADP) + 2e- (電子) + H(水素イオン) → NADPH(還元型NADP)
上の式で示されるように、NADやNADPの還元には2電子が必要です(呼吸系の場合と合わせて分子構造に基づいてご理解下さい)。光化学系ⅠでNADPが還元されるために必要な電子は光化学系Ⅱの作動により水から供給されることになります。
したがって、1分子のNADPが還元されるためには、二つの光化学系(ⅠとⅡ)がそれぞれ二度はたらくこと、すなわち4光量子の投入が必要と言うことになります。

以上の説明をお読みの上、もう一度、書物をご確認下さい。その上でご不明な点が残りましたら、再度このコーナーをお訪ね下さい。

佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-12-07