植物Q&A

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熱帯地域の植物の春化について

質問者:   教員   おなかペコペコリーバ
登録番号4302   登録日:2018-12-07
 指導している生物部の活動で、たくさんの植物を育てています。その中には花芽形成に春化が必要な植物と、春化が必要でない植物があります。そこで疑問に思ったことを質問させてください。
 これまでに、以下の知識を得ました。
1.花芽形成を引き起こす花成ホルモンの実体はFTタンパク質
2.FTタンパク質はFLCタンパク質によって抑制されている
3.春化処理によってFLCタンパク質が抑制されて花芽が形成される。
 これに基づくと、なぜ花芽形成に春化処理が必要なのかが理解できました。しかし、熱帯地域などでは春化処理が必要ない植物が多いと聞いています。熱帯地域の植物は春化処理を行わなくてもなぜ花芽形成するのでしょうか。FLCタンパク質が存在しないということですか?いったいどのようになっているのでしょうか。分子的なメカニズムを教えてください。また、熱帯地域の春化が必要ない植物と、日本に生育している春化が必要な植物のF1雑種をつくると、F1雑種の花芽形成に春化は必要になりますか?教えて頂けると嬉しいです。
 質問は以上です。よろしくお願いします。
おなかペコペコリーバ様

事務的な手違いや私の不手際で回答がたいへん遅くなり申し訳ありません。回答は、分子遺伝学だけでなく、生態学や進化の問題など広い視点で研究を進められておられる工藤 洋先生にお願い致しました。

【工藤先生の回答】
多くの植物種は決まった時期に花を咲かせるために、外界の環境の変化を感知するしくみを持ちます。気温の変化や日長の変化を感知して花を咲かせます。また、自身の齢や生理状態も開花のタイミングに影響します。春化(バーナリゼーション)はそういったしみの一つであり、長期の低温を感受して、そのあと暖かくなった時に花を咲かせる役割を持ちます。このしくみを持つ植物としてはアブラナの仲間やコムギの仲間が知られていますが、冬の低温を感受した後に、春に花が咲きます。

 さて、これらのしくみは植物が多様化する過程で獲得されてきたわけですが、しくみができたタイミングによって、どの範囲の植物でみられるかが決まります。つまり、あるしくみを獲得した祖先となる植物種があった場合、そこから起源した植物種については同じしくみがみられることが予想されます。例えば、花成ホルモンの実体であるFTタンパク質は広い範囲の植物にみられます。双子葉植物であるアブラナでも、単子葉植物であるコムギでも見つかることから、その起源は少なくとも単子葉植物と双子葉植物が分岐した時よりも古いことになります。さて、FTタンパク質の遺伝子のプロモータ領域に結合してその発現を抑制することが知られているFLCタンパク質は、アブラナ科の春化応答の鍵となる因子です。FLCの発現が長期の低温を感受して抑制されることで、FTタンパク質が合成されるようになり、花芽が形成されます。一方で、コムギの春化応答はFLCではない遺伝子にコードされるタンパク質によって引き起こされています。このことは、アブラナ科植物の春化応答とコムギの春化応答は、それぞれ別々に進化したことを意味しています。FLCの春化応答機能は、アブラナ科の祖先が冬の厳しい温帯・寒帯に分布を広げる過程で越冬後に花を咲かせる戦略として進化的に獲得したと考えられます。アブラナ科に含まれる植物はそのほとんどが温帯・寒帯に分布しますが、最も近縁のクレオメ科は熱帯に分布する植物を含みます。そこで、クレオメ科の植物でFLCと相同の遺伝子についてその機能を研究すれば、熱帯環境におけるFLC遺伝子の役目が明らかとなると考えられますが、まだ解明されていない課題の一つです。

多様な植物のうち、花芽形成のしくみが明らかとなっている植物はごく限られています。熱帯の植物は、その生育地の環境の特徴に応じて日長・乾燥・気温の変化などを感知して花芽を形成すると予想されますが、そのしくみがどの程度植物種間で共通しているのか、あるいは異なっているのかについてはまだ明らかとなっていません。また、種間の交雑と春化応答の関係については、交雑そのものが困難であることもあり、ほとんど研究がありません。アブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナには、春化を要求しない系統があり、早く花を咲かせるために実験によく用いられています。これらの系統では、FLC遺伝子上の突然変異によりFLCの機能が欠失していたり、FLC遺伝子の働きを助けるタンパク質の遺伝子が突然変異により機能を失っていたりします。これらの系統を正常な遺伝子を持つ系統と掛け合わせた場合は、F1は早期の花芽形成のためには春化が必要な植物になります。

工藤 洋(京都大学生態学研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2019-06-01
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