一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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自然交雑種について

質問者:   一般   タイコウチ
登録番号4343   登録日:2019-01-23
登録番号4281番をみて疑問に思った部分があったので質問します。

特にネペンテスやランでは自生地に行くと頻繁に見られますが、交雑可能な種の生息範囲がかぶっている場合
例えば「A」、「B」の生息域がかぶっている場所では「A × B」や「(A × B) × B」といった交雑個体が見られます。

”「学名が与えられないもの」とは既知の種と同じ特徴を持つ「個体」”とありましたが
つまり幾ら混ざってようとも既知の種と大した違いがなければ自然交雑種としては登録されない、
「A × B」なら「A」か「B」の一種扱いされると言うことですよね?

少し混ざったくらいで一々独立種として登録してはキリがないというのはわかります。
しかし、例えばタカネエビネの学名とされる「Calanthe bicolor Lindl. 1838」と「Calanthe discolor var. bicolor (Lindl.) Makino 1940」はどちらもPlants of the World online、GBIFでキエビネ(Calanthe striata R.Br. ex Spreng. 1826)のシノニムとされYLISTではタカネエビネで検索しても、単に「Calanthe discolor Lindl. x C. striata R.Br.」とだけあり学名がありません。
Synonymとして「Calanthe discolor Lindl. var. bicolor sensu Makino」、「Calanthe bicolor auct. non Lindl.」とあります。
「Calanthe bicolor」はauctorumなので正式名でないのはわかりますが、仮に「Calanthe discolor var. bicolor」を適用するとしても変種扱いで交雑種にもかかわらずそれを示す「×」記号が使われていません。
つまりこれほど違いがあっても園芸的にはともかく分類学的には既知種から逸脱した特徴にはならないという事ですよね?


では単に交雑しただけでは独立種として認められないのであれば、どのくらいの違いがあれば独立種として認められるのでしょうか?
またタカネエビネほどの特徴があっても独立種では無いとされた根拠が知りたいです。

自然交雑種「AB」の交雑元「A」、「B」を人工交配させた個体は自然交雑種「AB」扱いされるのでしょうか?
例えば春蘭(Cymbidium goeringii)と寒蘭(Cymbidium kanran)を交配させて作った個体は春寒蘭(Cymbidium × nishiuchianum)として扱われるのでしょうか?
タイコウチ さん

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
種(species)と学名(scientific name)に関するご質問です。学名については,登録番号1365をご参照ください。
学名はある生物種を他の生物種と区別して指定するために付けられるものです。
「既知の種と同じ特徴を持つ個体」とは「既知の種と違った形質をもたない」ことですから「同じ」であり、新たに命名する意味がありません。ある地域で異なった種間(ふつうは同じ属内)の自然交配でできた雑種が両親とは違った形質をもち、稔性があって形質が固定されたものであれば、交雑種と扱うか(x記号表記)変種(var. で示す)と見るかは研究者が詳しい調査を行った結果で判断することになります。植物学としてはこれらをルールに従って命名(公表を含む)するだけです。学名は何かに「登録」してオーソライズされるものではありません。公表された学名は、それ以前に同一種に対して付けられた学名があっても抹消されることはなく研究の軌跡として残るためにたくさんのシノニムがある場合が多くあります。ルールとしては最初に命名された学名が正式名とされますが、研究者の見解が異なる場合もあり、どの学名を採用するかは研究者の判断によります。ご質問にあげられたGBIF、YLISTなどは公表された学名のデータベースであって、記載事項を評価するものではありません。
エビネについて私は知識を持ちませんが、次のようなサイトはこのような解釈,見解もあるということでご参考になると思います。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~flower_world/Orchids/Calanthe%20bicolor.htm
http://www.orchidspecies.com/indexc.htm

Cymbidiumについては以下の項目46のような記載もありました。
http://www.orchidspecies.com/indexco.htm

最後に独立種とする基準についてお尋ねですが、これは「種の定義」に関わるので容易ではありません。種の概念は地理的、生態的、形態的、系統発生的、遺伝的など多くの要素からなりますので研究者はこれらを総合して種を記載します。



今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-01-30