質問者:
高校生
ボブ・エラゴン
登録番号4351
登録日:2019-02-09
並木道を歩いていると植物の枝は途中で分れていることに気づきました。植物の枝分かれ
質問は、「なぜ植物の枝は分かれるのか」ということです。
光合成をするため、光を効率的に受け取りたいのはわかります。しかし、私が知りたいのは枝分かれの仕組みです。ぐんぐん伸びていた枝が急に分かれるのはとても不思議です。今分かっていること、分かっていないことなど、詳しく教えて欲しいです。
ボブ・エラゴンさん
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物の基本的な形は,主軸、主軸から分かれる葉と葉の根元に出来る腋芽(脇芽)から出来ています。言い換えると,主軸(茎)に着く葉の付け根には必ず腋芽が出来ます。主軸の先端には茎頂分裂組織(一般に成長点)があって常に新しい茎と葉、腋芽を作り続けています。腋芽はふつう芽の状態で成長が止まっていますがそれが伸長したものが枝となります。枝の構成は茎(主軸)の構成と同じで、枝につく葉の根元には腋芽が出来ます。ところが、すべての腋芽が伸長するわけではありません。ですから枝の出来方(伸長する腋芽の数と向き)でその植物個体全体の姿が決まってきます。
腋芽がどんな仕組みで伸長して枝になるかが問題です。おおざっぱに言うと、茎、枝の先端に近い腋芽は伸長しにくく、尖端から離れたところの腋芽が伸長しやすいため、枝はある一定の間隔をもって出来ます。どのように枝が出来るかは、主に実験植物であるシロイヌナズナやイネで研究され、2つの面で判かってきています。先ず遺伝子のレベルでは、ある2つの遺伝子(主に転写因子の遺伝子)が働き合って枝が伸長することが分かっています。これらの遺伝子が働かないと枝分かれしないことになります。転写因子とは、ある他の遺伝子の転写を制御する遺伝子のことです。
次に植物ホルモンのレベルでは2つの仕組みが判かってきました。腋芽付近のサイトカイニン量が増加すると腋芽は伸長をはじめます(枝が出来はじめる)。サイトカイニン量の増加はその生合成がはじまるからですが、ここにはオーキシンが働いています。オーキシンはサイトカイニンの生合成を抑制しています。オーキシンは頂芽で生合成され主軸の中を下の方向(根のある方向)へ流れています。下に行くにしたがって次第に流れるオーキシンの量は減少していきます。頂芽に近い腋芽付近には一定量以上のオーキシンが供給されていてサイトカイニン合成酵素遺伝子の発現を抑制しています。頂芽から離れた場所にある腋芽付近ではオーキシンの量が少ないのでサイトカイニン生合成がはじまり、サイトカイニンの量が増加するので腋芽が伸長をはじめます。この仕組みは頂芽優勢の研究から判かってきました。頂芽優勢については登録番号1913, 2465, 2586をお読みください。植物ホルモンによる仕組みの2つめは、根でカロテノイドから合成され、地上部に運ばれて腋芽の伸長を抑制するストリゴラクトンと言う植物ホルモンで制御されている仕組みです。シロイヌナズナやイネ(分げつは腋芽の伸長によります)で明らかにされてきたものでストリゴラクトン生合成が欠失した植物やストリゴラクトンの働きを阻害する薬剤を投与した植物はたくさんの腋芽が伸長して叢状になります。つまり、ストリゴラクトンの生合成で腋芽成長が調節されている仕組みです。実際には腋芽伸長を促進するサイトカイニンと抑制するストリゴラクトンなどの植物ホルモンの相互作用で腋芽の伸長が調節されると言えますが、分子レベルで判ってきた遺伝子作用と植物ホルモンレベルで判ってきた仕組みとの関係はこれからの課題です。最後に、ストリゴラクトンは他に、植物根の寄生、共生を制御する根圏シグナルとして働いているという大切な働きもあることを付け加えておきます。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物の基本的な形は,主軸、主軸から分かれる葉と葉の根元に出来る腋芽(脇芽)から出来ています。言い換えると,主軸(茎)に着く葉の付け根には必ず腋芽が出来ます。主軸の先端には茎頂分裂組織(一般に成長点)があって常に新しい茎と葉、腋芽を作り続けています。腋芽はふつう芽の状態で成長が止まっていますがそれが伸長したものが枝となります。枝の構成は茎(主軸)の構成と同じで、枝につく葉の根元には腋芽が出来ます。ところが、すべての腋芽が伸長するわけではありません。ですから枝の出来方(伸長する腋芽の数と向き)でその植物個体全体の姿が決まってきます。
腋芽がどんな仕組みで伸長して枝になるかが問題です。おおざっぱに言うと、茎、枝の先端に近い腋芽は伸長しにくく、尖端から離れたところの腋芽が伸長しやすいため、枝はある一定の間隔をもって出来ます。どのように枝が出来るかは、主に実験植物であるシロイヌナズナやイネで研究され、2つの面で判かってきています。先ず遺伝子のレベルでは、ある2つの遺伝子(主に転写因子の遺伝子)が働き合って枝が伸長することが分かっています。これらの遺伝子が働かないと枝分かれしないことになります。転写因子とは、ある他の遺伝子の転写を制御する遺伝子のことです。
次に植物ホルモンのレベルでは2つの仕組みが判かってきました。腋芽付近のサイトカイニン量が増加すると腋芽は伸長をはじめます(枝が出来はじめる)。サイトカイニン量の増加はその生合成がはじまるからですが、ここにはオーキシンが働いています。オーキシンはサイトカイニンの生合成を抑制しています。オーキシンは頂芽で生合成され主軸の中を下の方向(根のある方向)へ流れています。下に行くにしたがって次第に流れるオーキシンの量は減少していきます。頂芽に近い腋芽付近には一定量以上のオーキシンが供給されていてサイトカイニン合成酵素遺伝子の発現を抑制しています。頂芽から離れた場所にある腋芽付近ではオーキシンの量が少ないのでサイトカイニン生合成がはじまり、サイトカイニンの量が増加するので腋芽が伸長をはじめます。この仕組みは頂芽優勢の研究から判かってきました。頂芽優勢については登録番号1913, 2465, 2586をお読みください。植物ホルモンによる仕組みの2つめは、根でカロテノイドから合成され、地上部に運ばれて腋芽の伸長を抑制するストリゴラクトンと言う植物ホルモンで制御されている仕組みです。シロイヌナズナやイネ(分げつは腋芽の伸長によります)で明らかにされてきたものでストリゴラクトン生合成が欠失した植物やストリゴラクトンの働きを阻害する薬剤を投与した植物はたくさんの腋芽が伸長して叢状になります。つまり、ストリゴラクトンの生合成で腋芽成長が調節されている仕組みです。実際には腋芽伸長を促進するサイトカイニンと抑制するストリゴラクトンなどの植物ホルモンの相互作用で腋芽の伸長が調節されると言えますが、分子レベルで判ってきた遺伝子作用と植物ホルモンレベルで判ってきた仕組みとの関係はこれからの課題です。最後に、ストリゴラクトンは他に、植物根の寄生、共生を制御する根圏シグナルとして働いているという大切な働きもあることを付け加えておきます。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-02-12